ある日の会社帰りに、私は子供を見つけた
灰色の髪色の猫耳みたいな跳ねた髪形をしている子供に
その子供は、ゴミ捨て場に積まれた半透明のゴミ袋の山の中に隠れるかのように身を潜めて
小さな体を体育座りをしながら、一生懸命身を縮めていた
(えっ?何、この子供…虐待?)
いろんな疑問が脳内を駆け回る
私は恐る恐る、ゴミ捨て場に近づいた
「ねぇ…君……」
私が声をかけるけど、子供何も返事をしない
むしろ、身動き一つしてな―――
「ちょっと!!君!!」
私は慌てて、ゴミ袋を乱暴に周辺に撒き散らした
子供の姿がハッキリすると、私は両肩をガッチリ掴んで必死で揺すった
「ちょっと、君!!生きてる!?」
けれど、子供は一向に閉じている目を開けようとしない
頬を軽く叩いたり、してみたが反応が無い
むしろ冷たくて、まるで氷のよう…
(ど、どうしよう!!救急車?いや、救急車呼んでも手遅れだし…警察だよね?で、でもこう言うのって第一発見者が疑われるんだよね…)
いろんな事を考えながら、携帯(但しガラゲー)を出そうと背負っていたリュックサックを漁る
「何してるんですか?」
私の背後から都合良く、自転車に乗った警察官が声を掛けてきた
やけに若い感じの警察官のお兄さんだ
「あ、あの…!!」
私は説明をしようと、口を開けたが何から言っていいのか頭が混乱していて上手く言葉が出ない
警察官は怪しげな眼で私と撒き散らしたゴミ袋を交互に見る
「君、まさかゴミ漁りしてたわけじゃないよね?」
(はい?)
私は目が点になった
「駄目だよ?好きな人が出したゴミ袋を漁るとか。そんなの、個人の勝手かもしれないけど人間としてどうかと思うよ」
「ち、違います!!」
「はいはい、最初は皆そう言ううんだよ。ほら、俺も手伝うから片づけようか」
そう言うと、警察官はゴミ袋を両手に持ってゴミ捨て場に普通に置く
そこに、子供がいるのに平然と―――
「ちょっと!!そこに、子供がいるじゃないですか!!」
私は怒りで、声を思わず張り上げてしまった
「んっ?子供って?」
私が指さす場所に警察官が目を向けると、小さく「あぁ」っと言った
すると、警察官はため息を出して又しも呆れた目で、私を見る
「コレ、ボーカロイドだよ」
「ボーカロイド…?」
私はそれを聞いて、安堵のため息をついた
良く良く考えれば、灰色の髪の毛をした子供なんているわけない
第一、ここに子供がいたら他の人が既に通報なりなんなりしているはずだ
「そうですか、ボーカロイドですか。私は、てっきり本物の子供かと思って…」
「あぁ、だから混乱してたのか」
(混乱してたの知ってやがったなコイツ…)
私はちょっと怒りを胸に秘めながら散らかしてしまったゴミ袋を持つ
「最近、多いんだよなぁ…ボカロを不法投棄するやつ」
警察官言葉を聞いた時、私は今朝見ていたニュースの一部を思い出す
ボーカロイド…
2004年に販売された音声合成技術、及びその応用製品の総称
2007年に「キャラクター・ボーカル・シリーズ」第1弾の初音ミクが発売されて、人気がでたためにボーカロイドの知名度が全世界に広がった
それから何十年か流れた現代に、ボーカロイドはPCだけの存在では無くなった
日本の機会技術の向上により、彼らは体とある程度の自我を得た
その発売と同時に、ボーカロイドのオーダーメイドサービスも存在していた
好みの容姿、声、性格を自分でオーダーメイド出来ると言うサービス
つまり、ボカロシリーズには存在していない『亜種』のボカロを製作できるという事だ
金額は最低でも50万からだと言うから、頑張れば一般人でも手に入る
けれど、販売されてから5年経った今では問題が勃発している
その一つが、今目の前に起きているボカロの不法投棄
けれど、ボカロには唯一無二のIDがある
それが発行されなければ、ボカロは人の手に渡らないのだが
優秀な人はボカロのデーターやIDを完全に消去してしまう
けれど、それはまだ優しい方であって。酷い場合は、ボカロはバラバラに分解されて捨てられているのだ
警察官は腰に付けていた電子端末を捨てられていたボカロの額にかざす
「やっぱり、このボカロもIDが消去されてるな…。該当データが無い」
「…あの…、この子…どうなるんですか?」
私は気になって、聞いてみた
「一応、このままゴミ収集車に運ばれた後に処理場で点検を受ける。場合によっては、リサイクルされるか処分だ」
警察官は「けれど…」っと嫌な後付けをしてきた
「このボカロは処分されるな」
その言葉を聞いた瞬間、私の背筋はゾッとした
「な、何でですか!!」
「見ろよ、このボカロのデータ」
警察官が先ほどボカロにかざした電子端末に表記された、項目を見せる
「プログラムが通常の約3分の1しか存在しない、ボディの中身も殆どのパーツが抜かれている」
「そんな…」
「哀れに思うなよ」
警察官の言葉が心に大きな音を立てて刺さる
「所詮、こいつらはロボットで俺たち人間にとってこいつらは消耗品なんだ。同じ人の形をしていても喋る人形でしかないんだ」
「…っ!!そ、そこまで言わなくたって良いじゃないですか!!」
私は思わず、再び埋めてしまったボカロの手を引いて自分の腕に抱えた
「私、このボカロを引き取ります!!」
「馬鹿か!!そんなことしたって、世の中には数え切れないほどボカロが捨てられてるんだ。君はそのボカロを全部引き取るつもりか!?」
「そうじゃないけど。私はこのボカロを引き取るって決めたんだから!!!!!!!!!!!!!」
私はそう叫んで、少し汚れてしまった子供のボカロを強く抱きしめながらその場から走り去った
これが、私の初めてのボカロ…HAKAITOとの出会いだった。
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