公園に着く頃には雨もすっかり上がり雲の隙間から陽が少し射し込んできた。公園は茶色い水溜まりばかりでいつもの顔ぶれは見当たらない。いつもここにいる気がしてたけど雨が降ったらさすがにこんな場所には居れないだろう。ベンチの下も穴ぼこ山の中も濡れそうだし、一体みんなどこで寝るんだろうか。
誰もいない静かな公園に車の走る音が遠く響く。普段何気なく来てる場所なのに独りだとどうしてドキドキするんだろう。
そりゃそうだ、だってここは一度も冒険してない。友達と仲良くなって何度も来るようになって慣れた気になってたけど一度も探索してないんだ。思い込みってのは全く怖い。やってもないのにやったつもりになってしまう。今日来なかったらきっとここを探索することは無かったろう。
水溜まりを避けながら公園を思うままに散策する。誰か隠れてるんじゃないかと木の裏花壇の中も隈無く探してみるけどやっぱり誰もいない。本当にこの公園に僕独りだけらしい。こんなだだっ広い公園を独り占めできてもちっとも嬉しくないけど。独り占めするなら毛布の方が絶対良い。
と言うか、友達は一体どこへ行ったんだろう。雨だったし自分の寝床だろうか。誰もいないんじゃこんなとこにいてもつまんないしきっとそうに違いない。そうと決まれば爺ちゃんのところへ戻ろう。ぐるりと反転して出口へ向かう。
別に頼まれた訳じゃない、晴れたから出てきたみたいに振る舞えば問題ない。僕は聞いてただけだ。僕は聞いただけ――
「よう、浮かない顔だな。泥だらけでどうした」
大きい声が響き思わず顔を上げた。誰かなんて見なくてもわかるけど、いきなり大声が響いたらびっくりするに決まってる。
「そんなビックリした顔するな。こんな日にお前がいる方がビックリだからな。まあいい、丁度良い。ちょっとこっちに来い」
出口へ向かって歩いていたのに戻される形となったけど、反抗するほど体力は残ってない。
「俺とお前とじゃ生き方も生き様もまるで違う。寝て起きて飯があるお前と探しに行く俺……、違う違う。別に説教する訳じゃないんだからこんな堅苦しい話はいらないな。どうだ調子は? 何か手がかりはあったか」
普段とは明らかに違う喋りに疑問を感じつつも僕は「さっぱりだよ」と答えた。
「そうか、そうすぐに見つかるもんじゃないからな」
「見つかったらこんな泥だらけになってないよ」
僕は言う。こんな格好になったのは元はと言えばそれが原因だ。
「どうやらそのようだな。熱心なのは良いがたまには休まねえと早死にしちまうぞ」
「けど時間が経ったら街からいなくなるよ」
「それはないな。……俺の予想だけどな」
煮えきらない物言いだ。さっきから何か隠してるんだろうか。
「……そうだな、何から話すかね。ジジイやお前と違って俺は臆病でね、あれこれ考えちまうのさ。そうだな、死ぬってなんだと思う」
「そりゃ死ぬことじゃないの?」
「まんまじゃねえか」
「死ぬことは死ぬことじゃないの?」
「死を経験したことないのか」
「そりゃ生きてるからね」
「誰かが死んだこともないのか。そうか、まあいつかは経験するだろ。死ぬってのは風がだんだん弱くなって最後には止む、そんな感じだな。見てて気分の良いもんじゃないし俺なら絶対に見られたくない。……なるほど、そりゃ経験もないな」
友達はふと足を止めた。その先には小さな山があった。
「そこには仲間の身体が埋まってる」
「じゃあ頭は無いの?」
「無いのは頭じゃない、命だ」
「いのち……」
「動いてたのがまるで風みたいにだんだん弱くなってきて最後に止まるんだ。今まで仲間だった奴が何も言わなくなる。この山は人間が死んだ奴を埋めた墓なんだよ」
「墓って?」
「人間が死んだ奴を隠す場所だ。腐って虫が集る様を見なくて済むからな。腐ってく死骸なんて見れたもんじゃないからな。俺もいつかは土の中に埋められるんだろうな」
「そうなんだ」
「……反応がイマイチだよなあお前って。なんだか遠回しに頑張ってる俺が馬鹿みたいじゃねえか」
「分かんないことは分かんないからね」
「そりゃそうだな。お前はこれからどんどんでかくなるんだ。今はまだ分からんことが山程あるのも当然か。ははは、そりゃそうだ、お前はお前だもんな。あー馬鹿らしい」
乾いた風に笑う。
何かを諦めたみたいに。
「あーあ、ったく悔しいな。……3つ、ジジイからことづけを預かってきた。言うか言わないかは俺が判断しろって事だったが俺は二つだけお前に伝えよう。一つ、隠れるならしっかり隠れろ。バレバレだ」
「……ちぇ、バレてたのか」
「だからこそあんな芝居打ったんだがな」
「もう一つは?」
「ジジイはもう長くない」
「どう言うこと?」
友達ははっきりと言った。
「もうすぐ死ぬんだよ」
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