もうすぐ10年が経とうとしている・・
あの日、高校の卒業式の後、私は桜の木の下で、ずっと好きだった彼に想いを告白した。
「僕もずっと君を」と彼は微笑みを返してくれた。でも、
「歌手を目指して上京する僕が、君の想いを受け止めるわけにはいかないんだ」
と首を振りながら寂しげにうつむいた。
彼が歌手に憧れていたことは知っていた。でもそれを現実に叶えようとしているなんて思ってもいなかった。
私にとって、歌手への道は、想像すらできない全くの未知の世界のこと・・告白の続きはもちろん、彼への励ましの言葉も思い付かなかった。
見上げた青空に浮かぶ太陽が、ただただ眩しかった。
「あの・・」 とまどいがちな声が聞こえた。
視線を下げると、彼が真っ直ぐに私を見つめていた。
「10年後、二人の想いが巡り合う運命があったら、この日、この場所で・・」彼は言った。
私は早咲きの桜の花に、そっと頬を寄せて頷いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仕事からの帰宅後、何気なくつけたラジオの音楽番組から彼の名前が聞こえた。番組のパーソナリティが、彼自身のリクエストと添えて曲を流した。
「ああ・・」彼のヒット曲が聞こえてきた。
歌詞に、桜の木の下での告白が描かれている。ハッピーエンドかどうかは曖昧なままのラブソング。
「やっとあなたへの想いを解き放とうと思っていたのに。何故、またその歌を・・」
一般企業に務める私とは、別の世界に住む人となった彼・・彼への想いは、あの告白の時以来、ずっと私の胸の内を焦がし続けている。
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そして10年後の今日、私は会社を早退して、懐かしい母校へと向かった。彼への想いに一つの終止符を打つために・・
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