2 夜の新宿 その2
 

 ゲームにINしてすぐ私はレンの指示にしたがって共に行動していた。レンと私は隣会わせの席に座っている。普通に会話のできる距離だ。しかし、実際に会話はしない。ゲームをしているときはチャットでしか会話はしないのである。これは私がゲームを始めて間もない頃よくレンにしつけられたものだ。ふと私は数ヶ月前のことを思い出した。

 「いいか~リン、ゲームやってるときはチャットでしか会話はするなよ。」
 「え~、何で?めんどくさいよ、そんなの。側にいるんだから普通に会話すればいいじゃない。」
 「ダメなんだよ、それじゃ。今はな俺とお前だけなんだけどな、いずれギルドの人達と一緒にやるようになるからな、そうなったらチャットじゃないとみんなと会話ができないだろ。」
 「うん・・・、でもそんなに速くキーボード打てないよ・・・。」
 「だから、今の内になれとけよ。つーかさ、打ち方がなってないんだよ、なんだよそれ。なんで全部人差し指で打ってんだよ。それじゃ速く打てるわけねーよ、それで速く打てたらめちゃスゲーよ。でもそんな中途半端な達人にならなくていーよ。これ貸してやるからさ、パソコンにインストールしてよく練習しとけよ。」
 「・・・何これ?この気持ち悪いゾンビのゲーム。」
 「タイピングしてそのゾンビ倒していくんだよ、それ。」
 
 レンの言うとおりに従って私はそのゾンビを倒しまくった。ノーマルモードではコンティニューせずにクリアーできる。そのおかげで正しいタイピングができるようになり今ではタイピング検定2級の腕前になった。
 
 そんなことを思い出しながら私は慣れた手つきでゲームをしていた。時計を見るとあっという間に時間が過ぎている。そろそろ集合場所の飲食店に行かないといけない。レンを見ると完全に現実世界から離れゲームの住人になっている。これからオフ会に行くことを忘れていそうだ。
 
 「レン君、もうそろそろ行かないと。」
 「おぉ、もうこんな時間かよ。お前早く言えよ。何やってんだよ遅れるだろ。」
 「・・・・・。」
 
 少し早歩きで集合場所に向かっていた。私は今、夜の新宿を歩いている。正直不安で緊張している。
 何度か友達と昼間に来たことはあるが夜に来たことはない。昼間とは何か雰囲気が違う。人が多い。それにみんな大人だ。黒いスーツを着た人がお客の呼び込みをしている。いったいこの人達が働いている所はどんな店なのだろうか。変な大人が私たちに話しかけてきそうで怖い。私は顔をうつむかせ、レンに隠れるように後ろを歩いていた。
 
 「・・・なんかさ、お前、歩き方変じゃね?」
 「いや、別に・・・。」
 「何で俺の背中に顔くっつけてんだよ。」
 「くっつけてなんかないよ!」
 「つーかはずかしいから普通に歩いて。」
 「・・・はい。すいません・・・。」
 
 どうやら私と違ってレンはこの夜の街に何も不安はないみたいだ。むしろ慣れているように見える。そういえばレンはたまに夜遅く帰ってくることがある。11時くらいに帰ってきたこもあった。そのときは母に友達の家で疲れて寝てたらだれも起してくれなかったと、うそくさいことを言っていた。
 最近のレンは学校の友達とはほとんど遊んでいない。もしかしたらその日夜までネットカフェにいたのかもしれない。
 私を不安にさせる夜の新宿の町中ではどんどん前を進んでいくレンが不思議と頼もしく見える。 
 ネットカフェから10分ほど歩いたところで集合場所にたどり着いた。私は急にものすごく緊張した。しかし、それはさっきの不安な緊張とは違う。うれしい緊張である。私はオフ会というものに参加するのは正直気が進まなかった。
 参加者のギルドメンバーのほとんどは社会人であり大人ばかりである。私と同じ中学生はレンしかいない。高校生の人は少しいるみたいだがオフ会には来ないらしい。大学生の人が何人か来るらしいが学生とはいえ、私からしてみると大学生の人ってのはもう大人に見える。子供は私とレンだけだ。なので大人の輪の中に入っても話についていけないだろうと思う。当然ゲームの話ならできるけど直接会って話すようなことかと私は微妙なところだなと思っている。しかし、そんなことをぬきにして私には会いたい人がいる。このギルドのマスターセシルさんに会いたくて私はここに来た。


3 ギルドへの入会へ続く

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ネットゲームで出会った人達  2 夜の新宿 その2

閲覧数:69

投稿日:2011/09/25 05:24:59

文字数:1,831文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました