「まさかこんなことになるとは思っていなかったわ…」
「まあ何かあるんじゃないかとは予想してたけれどもね~」
心配顔の赤の騎士と呑気な青の騎士。
「西の女帝の歌声の噂は聞いた事があるけれど、妹君の噂は聞いたことがないもの…大丈夫かしら…」
緑の女帝の美声は、他の国々にも知れ渡り、人々から迦陵頻伽(かりょうびんが)と謳われれる程です。しかし、その妹君の歌声の噂は誰も聞いたことがありませんでした。
「君の好きな歌でいいよ。さぁ、歌って」
魔法使いは地べたに粗末な布を敷き、寝転びながらそう言いました。
「…はい」
すぅ…と呼吸の音が聞こえた後に、緊張のためか微かに震えた声が音を紡ぎ初めました。
その歌声は優しくゆっくりとした音を紡ぎ…まるで母親の腕に抱かれているかのように落ち着く音色でした。
姫君の歌声はふわりと優しく響き、聴く者の心を穏やかに癒やします。
―――――なんだか落ち着くな…―
魔法使いはそう思い、瞼を閉じました。
「…………あの、いかがでしたでしょうか…」
姫君に軽く揺さぶられ、魔法使いは微睡みから目を覚ましました。どうやら少しの間眠ってしまったようでした。
「…あぁ、おかげでよく眠れたよ」
魔法使いは目をこすりながらそう応えました。
「それ程退屈でしたか……」
姫君はその姿を見て、自分の歌は聴く価値もないのかと瞳に涙を滲ませました。
これで望みも断たれたか……そう思いうつむいた刹那、魔法使いが口を開きました。
「いや、ここ最近君みたいに願いを言いにやってくる人達が昼夜関係なく来てね。うるさくて眠れなくて…。おかげで眠れなくなってしまってね」
君の歌声の心地よさに不思議なくらいすぐに眠れたよと魔法使いは笑顔を見せました。
出会ってからこの時まで魔法使いは一度も笑顔をみせなかったので、初めての笑顔に姫君は安堵の表情をみせました。
「君が歌ってくれるなら私もよく眠れそうだな。君の願いを叶えよう。
そのかわり、私が眠る時には君に歌ってもらうよ。いいね?」
それにここを離れば願いを言いに来る人達からちょっとは逃げられるし、と魔法使いは不敵な笑みでそう言いました。
「はい、よろしくお願いします!」
姫君は微笑んでそれに応えました。
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