あなたは、彦星と織姫のお話を知っていますか?


神様に嫌われてしまった二人は、天の川を挟んで一人と一人。
二人は一年に一度、七夕の夜にだけ会うことを許されたのでした。

しかし、それも晴れた時だけ。
神様はやはり二人を嫌っているようで、七夕の夜に必ず雨を降らせます。
まだ梅雨空が続くその日は、滅多に晴れることなどないのです。
人は七夕の雨を催涙雨と呼ぶのでした……。









<<星のとなりの空け者>>








*彦星side*



――今年も、雨が降った。

やはり、今年も彼女に会うことはできない。
神様は七夕の夜に会うのを許したが、結局はこの夜は晴れたことがない。

川は、渡れる状況じゃなかった。
大雨で川は荒れ、生命を拒む。
入ったら死ぬ。イコール、彼女には会えない。
雨がやむのを待つ。イコール、彼女には会えない。
二択とも酷い。
だから、わかっていた。
来年も再来年もずっと、あの人は七夕の夜に雨を降らせる。
結局、あの人は俺たちを嫌っている。会わせる気などないらしい。
こうして笠を飛ばせば、彼女に届くだろうか?




いつだったか、聞いたことがある。
唯一、この荒れた川を渡れるとされる妖怪がいることを。
確か、カッパとかいう緑色の妖怪だったような。頭に皿を乗っけたやつ。


うん、なるほど。
川を渡れないのは、俺がカッパじゃないから。
まぁ、要はそいつと同じくらいの筋力と肺活量を、身につければいい話なんだろ?
上等だ。やってやるよ。そいつと同じくらいムキムキになってやるよ!
それで川を渡れるならな!



という経緯で、今じゃもらえる給料の6割は筋肉費だ。
トレーニングしたり食ったり寝たり笑ったりネチネチしたりビワ投げつけたりスタイリッシュ散布したよ!頑張ったよ!
その成果もあったのだろう。見てくれ!華厳の滝のようなこの俺の僧帽筋!凄いだろ!
天の川を渡るって、サイエンス・フィクションなんだろうか?なんかもうどーでもいいや。
それより筋肉だ!筋肉を磨くより大事なことある!?ないよね!!




というわけで、筋肉を磨く修行に出た。
鬼が棲むとされる山に篭って修行することにした。
この場所なら、俺の筋肉を磨くのに素晴らしい場所に違いない!
俗世だと?そんなもん、とうに捨ててやった!
そして、いつかあの天竺に…!
そして、大胸筋の神様に嫁ぐんだ!それが俺の夢さ!


主な修行は文字通りというかご覧の通りです。
鬼と共に木々を引き抜き(北斗百列拳みたいな感じで)、鬼の目の前で岩をくるぶしで撃砕。おあたぁ!
あれ?鬼ビビッてる。超ビビッてる。もっとか!?もっとやればいいのか!?
とりあえず鬼の頭を掴んで谷にポイすると、怪しげな小屋を見つけた。空を泳ぐマンボウも見つけたが、それはどうでもいい。
この険しい(はずの)山に似つかわしくない異端なファッションの集団が、小屋に入っていくのが見えた。
うわ、マンボウめっちゃ泳いできた。こっちくんな。
まぁそれは置いといて、やつらは小屋の中でどんな悪巧みをしているんだ?すっげぇ気になる。
俺のドラマティックな筋肉で阻止してやる!屋根が飛んでった!


小屋の中では、大学生が楽しげにパソコンを作っていた。うわ、顔気持ち悪。
きっと、鬼もこの景色見たら失笑するぞ。あ、さっき谷に落としたんだっけ。
っていうか、ここで組み立てるメリットって何だよ!?どう考えてもねえよな!こんなもの壊してやる!
あと、パソコン作れるほど頭いいなら下山というプロセスを考慮しろよ!
しかも、全員で7人もいるじゃねーか!おらぁ!
そんなにいるなら、みんなで楽しくできる遊びをしなさい!鬼ごっことかかくれんぼとかツイスターとか麻雀とかできるじゃねえか!


あれ?でも、7って数字、なんか引っかかるな?
何だろうな?7月7日って、何かあったっけな?

座禅をして考える。
うーん…何か大切な日だったような…?
なんとなく後ろを振り向き、空を見てみる。


そこには、雨で美しく輝く天の川があった。


「あ…」

どうして今まで忘れていたんだろう。
あんなに好きだったのに。あんなに会いたかったのに。

「織……姫………」




今日は、七夕の夜。
天の川を見に行くと、やはり雨が降っていた。
こんなに鍛えた肉体でも、竦んでしまうほどの激流だ。
彼女に会えない辛さに、ずっと目を逸らしていた。
何かに夢中になって、ずっと誤魔化していた。


すぐにはやみそうもない雨。
どうしても…俺は、彼女に会えないのか?
涙と雨に濡れた瞳は……カッパを見つけた。
「え?」
なんか風車持ってこっち来るよ?あの妖怪が?


でも、これで…!





俺の力を試せる!絶対に俺のほうが強いね!
ツヤとパワーと重さとキレと速さなら負けねえぞ!運は悪いけどな!
俺の筋肉のほうが、総合的に強い!運は強くないけどな!
とりあえず、思い切り殴りかかってみた。
でも、俺の拳はカッパに容易く受け止められて。
「てめえ…ピアノの発表会感覚みたいな、半端な覚悟で来るんじゃねーよ!ちっとは鍛えてきやがれ、ゴミが!」
怒られた!すっげえキレられた!
カッパに速やかにボコボコにされた。カッパってこんなに強かったっけ…?
フルボッコ状態にされた挙句、俺の肉体はあっという間に二つ折りにされ、カッパの手によってどこかに運ばれた。




目を覚ますと、そこは川の向こうだった。
目の前には――…、初老の女性。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

星のとなりの空け者【自己解釈】

衝動書きです。
彦星視点です。
彦星→織姫→カッパの順番です。
次のバージョンで織姫です!

閲覧数:3,649

投稿日:2012/07/14 21:26:41

文字数:2,278文字

カテゴリ:小説

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