気弱な兄はトップには向かないから、財団は弟の方に継がせよう。
そんな理由で呼び戻されたクロードは、ふてぶてしい態度を取り続けた。
「もう少し、親を尊敬する態度を見せたらどうだ」
椅子に腰掛け、組んだ足はテーブルの上へと置かれている。
父の言葉を鼻で笑って、クロードは手の中で鞭を弄んだ。もちろん、尊敬などしていない。
幼少期は甘やかされ育ったクロードだが、旅先では貧民街を選んで暮らしていた。
旅に出た理由は反抗期のプチ家出的なノリだったが、外へ出てからはその感覚も忘れ絶望した。
悟ったのだ。自分がどれほど恵まれていて、父親がどれほど無情かを。
他社を合併吸収しては、その社員を切り捨てる。
天下のシュラール財団を解雇されて、まともな職に就ける訳が無い。
貧富の差を広げていたのは紛れも無く、シュラール財団の"会長"だ。
「アレクでは無理だ。クロード、お前が財団を」
「断る」
継げ、と言われる前に、クロードは椅子から立ち上がった。
冷めた目で父親を見下し、ビクリと肩を竦めたメイドに鞭を振り下ろす。
ニタリと笑って、ひらひらと手を振りながらゆっくりと扉へと近寄った。
「この俺様が、お前程度の命令を、聞く訳無いだろォ?」
チャオ、とだけ言って部屋を出ると、そのまま玄関へと歩を進める。
そんな事を言うために、わざわざイタリアから呼び戻したのか。馬鹿か。
頭の中は父親への文句と、手を切ろうとした恋人の事でいっぱいだった。
送り出しもしないメイドや執事は無視して、携帯を手に屋敷を出る。
何度かのコールの後で、漸く恋人が電話に出る。
頭が悪いとしか思えない愛の言葉を囁かれて、面倒だと思いながらも耳を傾ける。
屋敷の敷地を出て公園の傍を通り掛かった時、誰かが話す声が聞こえた。
「ケムリ、酒」
「はい、姉ちゃんVv」
そちらに目をやれば、誰かが花見酒と洒落込んでいるらしかった。
とは言え、二人組のうち酒を飲んでいるのは片方だけだったが。
見るからに学生だが、残念ながらツッコミをいれるような人間はいない。
クロードの目は、その片方にくぎ付けになっていた。
「っ死ねケムリ、触んな変態が」
弟を罵倒して、手に持ったハリセンでしばき倒す少女。
感情など殆ど無い目が、虚ろに景色を写す。
まだ何か言っていた相手は無視して、通話を切る。
「…ファム・ファタール見つけちまったぜ」
少女の制服を頭に叩き込んで、転入手続をするべく兄に連絡を取った。
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