「あなた、ニンゲンじゃないよね? どうしてここにいるの?」
 こう聞かれた時、正直驚いた。だって僕に向かってそう言ったのはまだ年端もいかぬ、五歳の子供だったんだから。
 僕の正体がばれた事は今まで二回、いや、アメジストは神の御子だから外しておくにしても、一回しかなかったのだから。因みに僕の正体を破ったのは今は無き黄の国の齢十四の王女の召使にして双子のキョウダイ、レンと言う少年だ。この子はとても聡明な子だったから、ばれてても仕方が無いとは思ってたけどね。
 因みに僕の正体を言っておこう。僕の正体は何でも食らい尽くす悪魔だ。まぁ、悪魔らしい仕事を余りしてないからアメジストには「偽悪魔」って言われてるけどね。
 話を戻そう。僕に上記の台詞を言ったのは年端もいかない五歳の子供、と言う所までは言った。この子は僕の仕えているこの屋敷の次期当主になられる子だ。本当ならば女の子なのだが、この屋敷の仕来り―ある年齢に達するまで家の者以外に性別を明かしてはいけない―の為、男の子の格好をしている。
 それにこの子はこの屋敷内ではなく、現当主様が建てられた一軒家に、普通の子として育てられている。けれど良く見ればこの子は当主様と奥様にそっくりだ。この子の透き通った晴れ渡る空の様な蒼い瞳は奥様にそっくりで、日に当たれば微かに茶色に見える黒髪は当主様の髪質そのものだ。少しウェーブがかっているのは奥様譲りかな。女の子と言うのは父親に似る、と聞くのだけれど、この子は奥様の方に良く似てらっしゃるようだ。
 でも、僕の正体に気付くなんて、やっぱり奥様の血なのだろうか。奥様は炎を司る、白き龍。人ならず血を受け継いでいるのなら、僕みたいな「異端」に気付くのも頷ける。しかもこの子は頭が良い様だ。周りに僕と自分以外誰もいない時を見計らってこう言って来たのだから。五歳にしては頭の回転が良い。
 僕は此処までの思考を一瞬で纏め上げ、子供の目線に合う様に屈んだ。
「確かに、僕は君の言う通り、ニンゲンじゃない。でも、此処にいる。此処でメイドとして働いている。君が生まれるよりもずっと長く、百年以上前からこの屋敷で働いている。其れがメイドの仕事だからね。・・・如何して此処にいるの? か・・・。痛い問題だね・・・。でもね、例えば、あそこに幽霊がいる」
 ス、と視線を逸らし、僕は屋敷の影になっている所にいる幽霊を指差す。チラリと子供を見てみるとコクリと頷いていた。うん、やっぱりこの子には霊感がある。僕は続ける。
「幽霊って言うのは自分じゃ成仏できないから其処にいるんだ。なのに“如何して此処にいるの?” と聞かれたら幽霊だって困るだろ? 自分じゃどうしようもないから此処にいるだけなのにそう問い掛けられたら」
 僕の言葉に子供は少し難しそうな顔をした後、頷いた。
「其れと一緒だよ。但し、僕の場合は此処にいたいから此処にいるだけなんだけどね」
 ニッコリと笑いかけると子供も「そっか」と納得した様に呟くと僕に向かって笑いかけた。良し、中々良い子だ。僕は子供の頭を優しく撫ぜる。
「さ、参りましょう」
 此処からは誰に見られるか分からない。口調を元に戻すと僕は子供の手を取り目的地へと足を進めた。


「久し振りだね、エントリッヒ」
 ふと話し掛けられ上を見上げてみると其処にいたのはアメジストだった。屋根の上でブラブラと足をぶら下げている。
「アメジストじゃないか。久し振りだね。わざわざ何の用だい?」
「別に。此れと言った用事は無いよ。ただ、ファイアが此処の屋敷の娘に格闘技教えに来たから付いてきただけ」
 素っ気無くそれだけ言うとアメジストは屋根の上から飛び降り、地面に着地した。高さは四メートル以上はあっただろうけどそれ位で心配なんかしない。アメジストはある意味、不老不死だからね。
「でも嫌にあっさりと正体ばれたじゃん」
「見てたんだね。あの子と会うのは今回が初めてじゃないんだけどね。今までは僕以外にもメイドやら執事やらがいたから、口に出せなかったんじゃないか?」
 成程? そう言うとアメジストはうん、と伸びをした。
「で、エントリッヒはどう思った? あの子の事」
「・・・。結構頭の回転の良い子だと思ったよ。聡明だ。しかも知恵もある。それに霊感と、ファイアが教えてる格闘技もマスターすれば凄い子になるんじゃないか?」
 かんら、と笑って見せるとアメジストは「そうかもね」と少しだけ笑う。
「でもさ、ファイアが格闘技教えてるの、此処の屋敷の子だけじゃないんだよね」
 エントリッヒ、知ってる? 此処と対になる様にある屋敷の事。僕はアメジストの言葉に頷く。
「其処の屋敷にもさ、此処の子と同じ年の男の子がいるんだよね。次期当主。その子にも教えてるんだよ、ファイア」
 フゥ、と肩を竦める様にしてアメジストは言う。そして空を見上げる。空には雲一つ無い、良い天気だ。洗濯物も良く乾いているだろう。
「ふぅん、そうかい」
「・・・って何? 興味ない?」
「ないね。僕は見ての通り、ただのメイドさんなんだよ。他の屋敷のお坊ちゃまの事なんて考えてらんないよ。・・・あれ? 此処の屋敷と対になる様に・・・って事はその子は女装してるのかい? こっちの子が男装してる様に」
「うん、当たりー」
「軽いなぁ~」
「此れがあたしの性格だし作者が飽きてるだけだし」
 後半部分の台詞に深く納得すると、遠くの方でメイド仲間が僕の名前を呼んだ。
「おっと、呼ばれてるみたいだ。僕、もういくね」
「おう、気を付けてねー」
 ひらひら、と手を振って見送るアメジストを背に、僕は屋敷に向かって走り出した。
「羽出さないのー?」
「出してまで行く距離じゃないからー!」
 後ろから飛んできたアメジストの声に走りながら答えを返すと何も聞こえなかった。
 さて、仕事に戻らないと。今日のおやつは何にしようかな? アールグレイの紅茶にバタークッキーなんていうのも良いかもしれない。
 サワリ、と爽やかな初夏の風が僕の頬を撫でる。さあ、お嬢様の喜ぶおやつは一体何かな? 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

とある屋敷にて

エントリッヒはメイドしか仕事出来ないな←
多分板についちゃったんだと思う
因みにエントリッヒに「ニンゲンじゃないよね?」て問い掛けたのは幼き日のホワイトです。
一ヶ月に何回か屋敷に戻ってる設定
因みにもう一つの屋敷の坊ちゃんはブラック

それでは此処まで読んで頂き有難う御座いました!

閲覧数:192

投稿日:2011/04/17 14:01:35

文字数:2,507文字

カテゴリ:小説

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