「う〜ん…これは、あたしだけかもしんないけど、このダンジョンにモンスターなんかいない気がするわ」

 そう、おもむろに呟いたリンは自身の後頭部をポリポリと掻いていた。心の中でダンジョンについて感じている疑問。
 普通なら道中にモンスターを見かけてバトルするはずなのに、庭から攻略がスタートしてはいるが今だにそれが起きないからである。

「たぶん、モンスターたちが寝てる時間だから居ないのかもしれないね」

 ミクはリンから投げ掛けられた疑問について、体の後ろで手を緩く組みながらリラックスした様子で話した。

「ミクちゃん、モンスターにも朝型と夜型がいるみたいなんだ。普通なら今は夜だから、夜型のモンスターとエンカウントするはずだよ」

「ああ〜っ、そうだねレン君。夜ならコウモリさんや、ミイラさんみたいなモンスターがいてもおかしくないね」

「まっ…モンスターの居ないダンジョンなら楽勝で攻略できるから、あたしは大歓迎よ。それに、この部屋に置いてあるクローゼットから宝物のニオイがするわよ♪」

「あっ! リンちゃん!」

 リンはそう言ってガサゴソ行為を止めようとするリーダーにお構いなく、洋室Aに配置されてあるクローゼットの扉を開いた。


クローゼットのなかは空っぽだった


「なにも無いわね……ざんねんよ」

「まっまあ、ダンジョン内だからガサゴソしても大丈夫だね…たぶん……」

「やっぱりあんた、PCLを気にしてたんかいっ!」

 リンが残念だと言ったようにクローゼットの中身はすでにもぬけの殻であった。何にもないし、お宝なんて存在しなかった。

「次のお部屋に行こうっか?」

『うん、そうしよう』

 このまま洋室Aに居ても仕方ないので、ミクたちは別室へと移動を開始した。きちんと扉を閉めてから次に向かう部屋は、洋室Bなる部屋にした。
 すぐさま洋室Bへ向かう理由も…これもまた、だいたいのRPGプレイヤーは左の部屋を攻略すれば反対側の場所へ進行を開始するお約束なのである。

「おじゃましま〜す」
ミクは洋室Bの扉を開いた。

『カチャ……』

[洋室B]

 部屋のなかはクローゼットが置いてある。間取りも洋室Aと大して変わらない配置だ。

「こんどはミクちゃんが、クローゼットを開けてみてよ」

「えぇーっ、つぎは私がやるの?」

「うん。リーダーのクジ運がどうなのか楽しみだから」

 ミクは少し悩みながらクローゼットの前に立った。

「ここはダンジョンだから、大丈夫だよね?」

「だいじょうぶよ」

 リンは親指を立てて、ミクに『Like!』をしている。生まれて初めてダンジョン内とは言え、他人のクローゼットを開こうとするミクは屋敷の主に申し訳ない気持ちになっていた。

 その気持ちと同時に彼女は『私、なにかイケないことをしている』と云う背徳感も生まれてしまう。
 瑞々しい青薔薇の薫りが漂う背徳の屋敷、今夜に初めて行うダンジョンでのガサゴソ行為…みたいな背徳感だ。

「ごめんなさいっ!」

 ミクはとりあえず、屋敷の主に向けて謝りながらクローゼットを開いた。


クローゼットのなかは空っぽだった


「!?!?」

 またもクローゼットの中は、何にもないし モンスターなども潜んでいなかった。ミクは何もなかったことに安堵し、ホッ……とひと息吐いて胸をなでおろした。

「またハズレね。つぎに行こ、つぎ」

「……」

 ええーーっ!? リンちゃん。このダンジョンにあるクローゼットを骨の髄まで探り尽くす気なのーーっ! とリーダーは心の中で彼女のことを『ガサゴソ娘リンシモダ』であると称するのだ。

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彼女を敬い称えよ
我らが偉大なリンシモダ

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投稿日:2020/01/02 21:48:21

文字数:1,517文字

カテゴリ:小説

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