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「 あの娘には、戦ってほしくないのよ。」

 戦いの後、メイコは、唱太にそう、告白した。
少し寂しそうな笑みを見せて言葉を続ける。
珀世は、先に家で待っているからといって、
先に帰ってしまった。

「 だって、あの子は人間の友達として、作られたの。
 兵器じゃないの。戦いが未熟なのはそのためだし、
 最低レベルのカテドラルノートしか入ってないのもそう。」

 確かに、ミクは、精神追随式対防衛戦術型音響兵器だと、
自分のことを言っていた。
対防衛戦術型、分かりやすくすれば、
イージス艦のようなものなのだ、戦略兵器ではない。
兵器といいながらも、兵器らしくないのは、
初めから、そのために作られなかったからだ。
音を楽しむためにのみ、作られた存在だからだ。

「 私たちとは、違ってね… 」

「 最低レベル? 」

「 そう、音響兵器のレベルを示す
  アンジェノートの十階位あるうちの一番下。」

「 重症の俺を回復させたり、
 死んだこねこを蘇らしたりしてたけど。
 最低レベルでもすごいんですね。」

「 えっ!それ、本当? 」

 驚いたように、メイコは尋ね返す。
何か、変なことでもいったんだろうか。
 メイコが驚いたのも無理はない。
回復や蘇生を可能にするのは、
第4階位の主天使奏楽(ドミニオン・ノート)の力のはずで、
それを行使するには、
幾重にも重ねられたセキュリティ措置の錠を、
メイコのレベルで、二つ。
ミクのレベルだと、三つは外さなければ、
不可能なレベルだからだ。
何やら、考えこんでしまったメイコを見て、
唱太は、慌てて聞き返す。

「 どうかしたんですか? 」

「 ああ、なんでもないの。気にしないでね。」

「 そうですか。」

そういえば、先ほどのメイコの技は、違っていたようだが…。

「 あっ、ちなみに私は第八階位だけどね。」

「 えっ!低すぎませんか?」

だって、先ほどは、
時間をとめたり、巻き戻したりしていたみたいだし、

「 失礼ね。通常戦略にはこれくらいで
 ちょうどいいのよ。この国をまるごと消し去りたいの?」

「 上位のクラスって、そんなにすごいんですか?」

「 私の知っている最高位で、私の弟が持ってたのが、
 たしか、第六階位だったわね。 能天使奏楽使って、
 大陸の九割を占めていた一国が、全く、ほんの一瞬で
 綺麗さっぱりと 砂漠化して、滅んでしまったのよね。」

「 なんすか、それ。」

 想像の範囲をこえている。
第六階位で、一国を滅ぼすって、その上の五階位って
もしかしたら、地球?いや太陽系?銀河系?
まさか、宇宙そのものが消滅するとか …。
素直に、そのことを、メイコに尋ねたら、少しだけ、考えて。

「 私は、見たことないけども、ありうるかもね。」

などと、平然といってのける。
対応策も、とっているはずだけどと、心もとなげに仰るし、
唱太は、怖くなって、震えだした。
大丈夫よ、そうそう、使うことはないだろうから…。
そういって、メイコは、
優しく唱太を包み込むように抱きしめようとするが、
とっさに、彼女の、と胸を押して、唱太は離れた。
彼女は、所在無く、うら寂しげに、顔を曇らせると、
すっと目を伏せて、淋しそうな捨てられた仔犬のような表情で、
そうよね、怖いわよねとつぶやいた。
あっ、と。唱太は思う。
彼女は、自分の母親を救ってくれたのだ、
本来は使いたくないだろう力を使ってまで、救ってくれたのだ。

なんだか、すまない気持ちになってしまい、唱太は自然と
自分からメイコを抱きしめた。

「 唱太くん。」

「 もう、この話はやめにしましょう…。」

「 ありがとう…。」

崩れ落ちたメイコは、
唱太の胸に顔を埋めて、一滴の涙を流した。
唱太は、ただ抱きしめるしかできない自分に
無力感を感じながら,家への帰路に着いた。

《つづく》

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伝説歌神 あんじぇのーと・・・ 幕間編

第18 話 ;独白

・メイコの述懐です。

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投稿日:2008/11/16 16:10:14

文字数:1,639文字

カテゴリ:小説

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