『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:6
しとしとと雨が降る放課後の部室。少し透かした窓からは雨音に雑じり、体育館で活動している運動部の掛け声が聴こえてくる。岳歩は1人で煙草を吹かしながら退屈に過ごしていた。
「こんにちわー」
「おう。なんだ、お前だけか」
部室に最初に姿を現したのは芽衣子だった。
「はい。櫂人は軽音部に頼まれて少し遅れるって、留佳は相変わらず生徒指導の先生と鬼ごっこしてますよ」
「はぁー、あいつも懲りねぇがあの先生もよく懲りねぇなぁ」
「一応先生もどうにかしたらどうですか。多分先生なら少しは留佳言うこと聞くと思いますけど」
「いや無理だろう」
「・・・無理とか言う以前に面倒くさいからしたくないだけですよね? 」
「いやいや何を言う、メイ。折角指導して下さる先生がいらっしゃるんだ。若輩のオレがわざわざ事態を引っ掻き回すのは悪いと思わないか? 」
「体よく逃げてるだけですよね、それ。というか部室で煙草止めて下さいよっ」
「職員室は肩身が狭くてなぁ」
鞄を近くの椅子に置いて芽衣子は備え付けのポットに電源を入れた。廊下からは微かに賑やかな声が増え始めた気配、雨の日は屋外運動部が練習出来ない代わりに室内メニューに変更して校舎の廊下を使うことが多い。
「今日はサッカー部か? 」
「野球部は無理でしょう。サッカー部より人多いし」
暫くしてポットが音を立て、芽衣子は準備していたティーパックにお湯を注いだ。2つ用意され、1つを先に岳歩に手渡す。
「お、悪ぃな」
「それで暫く煙草は置いといて下さいね」
「別にお前らの成長は妨げてねぇぞ。というかもうそれ以上育たんだろう」
「教師の言うセリフですか」
「オレ程優しい教師も居ねぇだろ」
「居ますよ。例えば・・・国語の氷川先生とか・・・」
その時会話を遮る様に部室の扉が開かれた。現れたのは未来と拍だった。
「こんちゃー」
「・・・こ、こんにちゎ」
「未来、拍。お茶飲む? 」
「わぁーいっ、欲しいっす! 」
「あ、はい。スミマセン」
「ん、座ってて」
「おー、お疲れ。遅かったな」
「いやぁ、ちょっと面白いこと聞いちゃってぇ」
「まぁた何か人の弱みでも探ってきたのかお前は」
「人聞きの悪いっ! 単純なる好奇心ですよ」
言い切る未来の横でそれに慣れている拍は呆れた様に淡く微笑んだ。来る途中に1年生勢を見掛けたらしく、その内来るだろうと伝え置き、4人はお茶を飲みながらたわいのない話で時間を潰した。そうこうしている間に雨は強さを増していく。
「「おーつっかーれっでーっす」」
「お疲れ様です~」
気怠げに入ってきた1年生達の手にはノートが握られていた。
「遅かったねー、どうしたの」
「ちょっ、聞いて下さいよ未来先輩ぃ~~~」
凛が勢いよくしなだれかかり呻き出した。どうも先の数学課題の出来があまり良くなく再提出になったらしい。漣は単に先日風邪で休んでしまい、凛に付き合うついでにノートを受け取りに行っただけである。
「久美も? 」
「はい・・・。どうにも苦手で」
「私もそこまで得意じゃないけど、数学なら拍と櫂人あたりが得意じゃなかったかしら」
「い、いえ自分はそんな・・・得意という程では」
「何言ってんのよ、いつも私より点数いいじゃん」
「はぁくせぇんぱぁーーーいぃ、数学教えてぇ~~~」
「漣は教えてくれないの? 」
「だって漣意地悪なんだもん~~~」
「オマエに付き合うと余計が多くてボクは面倒くさくて嫌だ」
「ほらぁーーー! 」
「あ、岳兄ちゃんまた煙草吸ってぇ」
一気に部室が賑やかしさを増した。それから留佳と櫂人が部室に姿を現すまで1年生達の数学講義の時間となった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「遅くなりました」
1時間程経ってから櫂人は部室に顔を出した。軽音部で新たにキーボード担当になった生徒に手を焼いていたらしく、軽音部部長直々に櫂人にどうにかしてくれないかと声がかかったのだ。
「で、アンタは見事その鼻っ柱を折ってきたと」
「人聞き悪いこと言わないでくれ。でも確かに腕は悪くはないけど性格には難があったよ」
「無駄に謙虚姿勢なくせして容赦ないわよね」
「そういうメイの方は口が悪いけどな」
「留佳と比べてから言ってくれる? あそこまで酷くないわよ、ワ・タ・シ・はっ」
その横から久美がお茶を運んできた。櫂人はお礼を言って受け取ると鞄を机に放って近くの椅子に座る。その場に居ない留佳のことを尋ねて芽衣子が事情を説明すると、櫂人は何事もなく理解してお茶を啜った。
「またですか、留佳先輩」
「えぇ、またよ。未来、いっそそれ写真に撮って生徒指導の先生に売ったら? 」
「嫌ですよぉ、それしたら私が指導受けるじゃないですか」
「そういえば未来先輩、先日のボクらのあの写真どうなったんですか」
「あぁ、忘れてたぁ。えぇ・・・と」
おもむろに鞄を引き寄せて中を漁ると写真屋の袋に入った大量の現像写真の束が出て来た。そしてそれを机の上に広げ始める。その場の全員が机に向かう。
「先生、はいこれ。頼まれてた先生分」
「ん、サンキュっ。此処に広げたヤツも気にいったのがあったら持ってっていいのか? 」
「出すもん出してくれたら良いですよ~~~☆ 」
「一応オレ教師だぞ」
すると未来が意味ありげにニタリと満面の笑みを浮かべ、
「あのことバラしてもいいなら別にバラしても良いですよ♪ 」
「・・・あのことが何を意味するかは解らんが取り敢えずその話は後で2人でじっくり協議するとしようか」
岳歩はその場から逃げる様に机に戻っていった。その横で会話を聞いていた漣は何とも苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ素知らぬ振りをしていた。関わるとろくなことがないのはすでに先日の一件で嫌という程理解している。
「どしたの漣~」
「何でも無い」
不思議そうに覗いてくる凛を押しやる様に漣も机の方に目を向けた。そうしてしばらく競りにも似た鑑賞会が続いた。写真が全て再び未来の鞄に仕舞われた次の瞬間、タイミング良く生徒指導から逃げおおせた留佳が部活に姿を現した。
「Hello,everybody! あー、疲れた」
「あ、留佳先輩。実はですね、今ぁんむぐぅぅぅ!? 」
話を振ろうとした未来の口を後ろから全力で塞ぐ芽衣子。
「ん、何? 」
その場の誰もが知らぬ振りを決め込んだ。知らぬは留佳ばかりである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、ところでお前ら。部活動はどうした」
留佳が顔を出したことで面子が揃ったこともあり、岳歩は急に顧問らしい発言をしたかと思うと、いそいそと教室の隅に移動して寝床を作り始めていた。
「先生、何してるんですか」
「何って、顧問だから活動の監督をな。その為にはまず座るところを確保しないと」
「いやそれ僕には寝る為の活動にしか見えないんですが」
「大丈夫だ。お前がいれば問題無い、後は任せたぞ副部長」
どんな任せ方だと諦めた櫂人は芽衣子と留佳の方へと向き直ると今日の活動について話を始めた。実質決めるのはほぼ留佳なのだが、それを諌めながらどうにか真っ当な方向へと示唆するのはいつも櫂人の役目である。案の定、留佳は疲れてやる気がしないらしく適当でいいと言ってきたので櫂人は芽衣子と一緒に活動内容について話し合いを進める。その横で拍が留佳にお茶を運んでいた。すでに寝る態勢を整えた岳歩は何処から出したのかアイマスクを目の上に乗せ、それを見てさすがの久美も呆れたが、凛と漣がそんな岳歩に悪戯しようとにじりにじりと寄る姿に思わず噴き出した。
「雨の日は確かにあまり音が乗らないしなぁ」
「あ、なら櫂人先輩っ。アタシあれやりたい! 」
悪戯の途中で凛がおもむろに主張した。いつ借りたのか、漣は未来から借りたデジカメを手に岳歩の間抜け顔を取ろうと狙っている。
「何を? 」
「前にTVでやってるの見てやってみたいなーって思ってたのー! コップに水を入れて楽器にするヤツ」
「あぁ、あれか」
「それならグラスもちょうどあるし、たまにはいいんじゃない」
「そうだな、それで俺らがいつもやる曲が演奏出来たらそれはそれで面白いだろうし、1年生達に色んな楽器の広がりを教えるのにも役に立ちそうだしな」
「曲は、どうする? 」
「拍がこの間持ってきていたやつはどうだ。確かSkatalitesってアーティスト、『Ska Fort Rock』って曲辺りしっとりと和むにはいいと思うよ」
今日の活動も決まり、久美と芽衣子と未来がコップの準備を始めた。櫂人と拍が音源をデッキにセットしに行く。双子はそれには参加せずカメラの遠近を利用してほぼハメ撮りに近い画面を増やし続けていた。留佳はグダッと椅子に寄りかかって微動だにしない。各々が過ごす中、準備も終わり部活動は開始された。中に入れる水の量は未来が携帯ネットを使って調べたものから引用し、まずは試しに櫂人がグラスの縁をなぞって音を出してみる。綺麗なドの音が響き渡った。デッキから音源を流して手始めに曲に合わせグラスを奏でていく。上手く音が出ずに途中失敗したところもあったが、反響音が曲に合わさって雨の日の酒場の光景を沸き立たせる様な不思議な空間を彩り出した。
「アタシもやるー! 」
岳歩いじりに満足したのか、双子が勢い顔を出し、そこからは曲を流しっぱなしにして全員でグラス演奏に触れる方向で活動は続いた。賑やかしいその光景を岳歩は後ろからこっそりとアイマスクを透かして覗き込み小さく微笑んだ。
to be continued...
『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:6
原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです
梅雨からかなり外れた時期に雨ネタをやる暴挙
そして楽器を手短なもので出来るものを取り入れてみたかった、というか単に自分が一回やってみたい楽器もどきで彼奴等をはしゃがせたかっただけ(笑
そして多分自分の愛が強すぎるせいだろうなぁ・・・何この岳歩祭
留佳と久美が少ないよっ!
どうしても6月中に間に合わせたかったので急ぎあげる
校正も構成もほぼ行き当たりばったりで出来てないよっ!!
でも書き始めると止まらなくなるのは何故なんだろうね・・・
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悲しいから歌った。
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