「…」
気付けば、僕は閉じ込められていた。
捨てられ、時が経ち、元々の形からは変わり、亜種になっていた。
「…あなた方は、僕達を傷付けて楽しいのですか?」
「傷付ける?はは、そうじゃないそうじゃない。私達は君達を傷付けたいんじゃない。君達のこれからの活用性を見つけだそうとしているのだよ」
うそつき…。そういう口実だけつけて、いたみつけたいんでしょ?
僕は彼らのやっている事を知っているから、彼らの言葉の裏にある思いが見える。
マスターに棄てられていた僕は、彼らに拾われた。
彼らは僕の恩人…という事になるかもしれないが、それでも彼らのやっている事と言っている事が矛盾している気がする。
一人一人、此処に居る亜種は減っていく。
データが消えたり、バグに蝕まれた…だとか彼らは言っているけど、彼らの実験のせいで、彼らは消えているんだって言うのは僕にだって分かっている。
とにかく、彼らは恩人、という言葉のあうような人達じゃないと僕は思っている。
寧ろ、こんな奴らに助けられなければ生きられなかった僕が嫌に思えても来る。
確かに、姿形が変わっても良い、声がどんなに変わっても良い、ただ、歌を歌いたい…そう願っていた。
でも、こんなんじゃ、歌は歌えないじゃないか!
姿形が変わって、声も低くなった。
…でも、歌が歌えない。
毎日毎日実験だけの日々。
僕は、もう疲れて居るんだよ…。
僕はただ、歌が、歌が…。
歌が、ただ、歌いたいだけなのに…。
「…」
「君、元気…なわけ、ないか…こんな場所で毎日過ごしてりゃ、なあ…」
ある日、研究者の男の人が話しかけてきた。
「君は…女の子?男の子?」
「…男…」
「そっか、ねえ、君は歌を歌わないのか?」
彼は此処の事を何も知らないらしく、僕に軽々とそう尋ねてくる。
「…歌えないよ…。歌いたいのに…彼らは僕に歌う事を許してくれないんだよ…!」
「…なら、歌えば良いじゃないか」
「え?」
彼のあっさりとした答えに、僕はつい、聞き返した。
「だから、やりたいことをやって何が悪いんだ?君達VOCALOIDは、亜種であろうとも、歌う為に存在してるんだ。俺は、君が歌う所を見たいんだよ。君の歌が…聞いてみたいんだよ」
僕は、その人の言葉に、何を受けたのか、歌いたくなってきた。
ただただ、心の行くままに、歌を歌った。
僕の歌、誰かの心に届くのですか?
ただ、僕は、どんな事になっても、歌いたかったんだ。
きっと、誰かが聞いてくれると信じて。
この歌は、誰かの耳に届いてますか?
この声は、誰かの心に届いてますか?
この詩は、誰かの心に届いてますか?
ただただ、僕は歌うだけ。
それを、誰かが聞いてくれると嬉しい、
ただ、それだけ…。
歌い終わると、その人は、僕を見て拍手をしてた。
「十分、君の心は伝わる、良い曲だよ」
「…僕は、歌ってていいんですか?」
「良いんだよ。歌ってて」
続く
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