発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
ひやりと風が動いた気がして、サナファーラが目を覚ますと、頭上の穴からのぞく空はすっかり暗くなっていた。
ミゼレィはまだ眠り込んでいる。
「ミゼル。ミゼル」
揺り動かすと、ミゼレィはゆるりとまぶたをあげ、うーんと体を天地につっぱるように伸ばした。
「もう、夜だよ」
幸いにも、洞窟の入り口から吹き込む風は、緩やかで温かい。
潮の流れは止まっていたが、眠る前に見たときよりもたっぷりと満ちていた。
「うん。今がちょうど満潮みたいね。サナ。ごめん。帰るの、日付越えるかも」
さらりととんでもないことを言ったミゼレィだが、サナファーラはもう、何も驚かなかった。
「いいよ。なんか、それも楽しそうに思えてきた」
「すごく怒られると思うよ?」
「うん。慣れてるから」
にこりと笑ったサナファーラに、ミゼレィが尊敬のまなざしを向けた。
「ううん、やっぱり違う。こんなふうに心配させて怒られたこと、あたし、じつはぜんぜん無いから、なんていうんだろう……むしろ、楽しみ?」
「えええぇ?」
ミゼレィは驚きの声を上げる。
「サナってやっぱり変だよ! 」
「ううん、ミゼのほうが変だ!」
「こらああ! やっぱりここかミゼレィ! なにやってんの!」
言い合いの途中で、突如別の声が響き渡った。
海水が、入り口のほうでちゃぷりと動く。
ゆらりと、たいまつの明かりが見えた。
「満月の祈りは重要だって言ったでしょ! ミゼレィ!」
見ると、巫女たちが草で編んだ船に乗って、洞窟の中へこいでくる。
すいすいと船を寄せて、あっというまにサナファーラの足元にこぎついた。
「ミゼレィが初日からごめんね、サナちゃん。怖かったでしょ?」
思いも寄らない優しい言葉をかけられ、サナファーラは首をふる。
「どうしてここが解ったの! 秘密の場所だったのに!」
「あのね。あんた、巫女でしょ? ちょっと落ち着いて観察したら?」
先輩巫女が、ミゼレィをたしなめ、ミゼレィは頬を膨らましつつも首をかしげる。
あ、とサナファーラは声を上げる。
「これ」
木の葉が、潮の流れに沿って、洞窟の入り口へと道を作るように続いている。
にこっと巫女が笑った。
「そう。この木は、『導きの木』と呼ばれるの。潮の中に生えるから、こうして落ちた木の葉が、潮の流れに沿って道をつくるのよ」
「というわけだ、ミゼ。『導きの木』は、我らがパイオニアにとって重要な木なんだ、どこに生えても私達巫女が見逃すわけがなかろう?」
わざとえらそうに言ってのける先輩巫女に、ミゼレィが悔しそうに口をとがらせる。
「うふふ。でも、ミゼレィを探そうとしなかったら、この木を見つけることは無かったわ。だから、ミゼレィ、そういう意味ではお手柄よ」
「うぅ……秘密だったのに」
先輩巫女がサナファーラを先に支えながら船に降ろし、続いてミゼレィにも手を貸した。
ミゼレィは軽くその手に触れただけでひょいと枝から船に乗り移る。
サナファーラとミゼレィ、二人を回収した船は、ゆっくりと洞窟の出口へと向かった。
「わあ……」
明るい月夜が、パイオニアの巫女達を乗せた船を迎えた。
「……満月への祈り、ここでやっちゃう?」
ひとりの巫女がささやき、サナファーラは驚く。
「祈りの場所って、決まってないんですか?」
「決まっているわよ」
あっさりと、年長の先輩巫女が答えた。
「でもね」
ふっと、空を見上げた。
「本当に祈りたくなるようなところで祈るのが一番いいと思うの」
ふわりと、先輩巫女が、サナファーラの髪をなでる。
「無事に二人が見つかって、こんな綺麗なお月様がみえるんですもの、ね」
そのしぐさに、本当に心配させてしまったのだと、サナファーラは気づく。
「あの、ごめんなさい」
謝罪に、言葉は返ってこなかった。
かわりに、静かに祈りの唄が始まった。
ryutty shilphe ra miiya louce
リュティ シルフェ ラ ミィヤ ルーチェ
“大いなる天恵に感謝せよ”
myully tann atus sunirre deer
ミュリィ タン アトゥス サニーレ ディア
“天啓に導かれ新たなる創造を”
初めは主旋律だけをしずかに。やがて、ミゼレィを含む十人の巫女が、それぞれのパートに別れて和音を、対旋律を重ねていく。
かさなる音は、まるで潮の流れがあちこちから重なるように、音楽の水面を複雑に、そして美しく揺らしていく。何度も何度も繰り返される。
「ryutty shilphe ra miiya louce ……」
「どうしたの、サナ」
突然問われて、はっとサナファーラが我にかえる。
「どうして、ないているの」
ミゼレィが覗き込み、初めてサナファーラは、ほほに伝った涙を自覚した。
「……苦しくて」
え、と他の巫女もサナファーラに注目する。
「この詩。『苦しくて、涙あふれ』って、いっているように聞こえて。
そんなに苦しくても、新しい土地を求めなければいけなかったのかな。って……」
首をかしげた巫女たちだが、そのうちひとりが、あ、と手を打つ。
「『リュティ シルフェ ラ ミィヤ ルーチェ』。
……たしかに、いわれてみると、そう聞こえるかな」
「すごい、サナはやっぱり詩人だよ! 」
ミゼレィの声が夜空に響いた。
「でも、本当に、サナファーラの言うとおりかもしれないわね」
先輩巫女の言葉に、え、とミゼレィが振り向く。
「私達パイオニアは、つねに今よりいい暮らしを求めて土地を耕し、出来上がったらさらなる新しい土地を求めて海へ漕ぎ出してきた。
死ぬのは怖くはないけれど、広い海に浮かぶ私達の小さな船の上では、寒かったりつらかったりすることも、多かったでしょうね」
巫女が空を仰ぐと、ひしゃくの形をした七つの星が見えた。
大きく空をまたぐひしゃくの汲み取る先は、つねに一つの方角を示す。
その姿は頼もしく、そして壮大な不思議であった。
「大地にいるときは、作物を育てる昼の太陽を拝み、海に出たときは、道しるべとなるあのひしゃくの七つ星を拠り所とする。
みんな、神様が教えてくれたことよ。
神様の住んでいる星も、私たちと同じ、七つの星が海を渡る神様達を導いたのですって。
……この星は、神様の住んでいたところに、本当によく似ているのですって」
じゃあ、神様も、あたしたちと同じように、苦しい思いをしたのかな。
サナファーラはそう思ったが、巫女たちがしずかに祈りを捧げ始めたので、そのことを口にすることは無かった。
満月に照らされた夜空に、強い光をもつ七つ星だけがくっきりと浮かび上がる。
新天地へ向かう、苦しみの中で、パイオニアたちの支えとなり、導く星。
そのひしゃくの形は、みなの苦労をひょいと救うためにあるのかな。
それが天に光っていると思うと、すてきだな。
そんなことも思っていたサナファーラだが、やはり、黙っていた。
そして、海の波のように重なりながら響いてゆく巫女達の唄に、身をゆだねたのだった。
* *
それから二年後。
神が降臨を伝えた年の夏。
サナファーラとミゼレィは、背が伸び、体も育ち、すっかり娘盛りに成長していた。
* *
続く!
小説 『創世記』 7
発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj
……ちなみに、wanitaの中で、『パイオニアの花』と『導きの木』は、ある実在する植物をモデルにしています。
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