弄ってて濡れたのと、服屋さんに促されたのとで結局お風呂に入っていた。『手伝いましょうか?』って当然の様に言われたけど、流石に恥ずかしくて遠慮した。お湯につかりながら、今更手足のあざや傷が目立つ様で気になった。お風呂から上がると脱衣所に置いた服が無くなっていた。

「あれ…?…あの…私の服は?」
「クリーニングサービスに渡しました。」
「えっ?!全部?!」
「下着も用意がありますのでご安心下さい。」

さらっと笑顔で返された。至れり尽くせりにも程があると言うか…セレブな人ってそう言う物なのかな?用意してあった中から下着とベビードールを着て、でも恥ずかしくてバスローブを着て部屋に戻ると、人が増えていた。真っ赤な髪のすごく綺麗な人。

「あったまったかしら?」
「あ…はい…。」
「怪我してるって聞いたものだから…見せてくれるかしら?」
「はい…。」

その人は私の手足の傷を一つ一つ丁寧に見ては、湿布を当てたり包帯を巻いたりしてくれる。

「大丈夫?他に何処か痛くは無い?えっと…名前は…。」
「浬音です。あの、ありがとうございます。」
「ふふっ、可愛い名前ね。折角だから、うんと可愛くしましょうか。密さんが
 見惚れる位にね。」
「あ、あの…密さん、よくこう言う事するんですか?」
「こう言う事って?」
「その…誰か助けたりとか、庇って怪我したりとか、服着せたりとか…。」
「無いわね。」
「ありませんね。」
「有り得ませんね。」

3人が一斉に口を揃えて言った。…益々密さんが判らない…可哀想な人を放って置けない性質の人でもないのかな?それから3人共代わる代わる色んな服を勧めてくれる。多過ぎてどれを選んで良いのか判らなくて困る程だった。

「浬音ちゃん綺麗な髪ねぇ、手入れも完璧、お人形みたい。」
「本当、お綺麗です。」
「あの…私、おかしくないですか?こんな服とか、着た事無くって…。」

勧められるがまま着たのは淡いローズピンクと白のワンピース。包帯が目立たない様にアームウォーマーまで選んでくれたのだけど、初めて着た服なだけにすっかりあがってしまった。恥ずかしくて、床しか見れなかった。3人が突然黙って俯いた私を心配そうに見ていると、ガチャリとドアが開いた。

「…どうした?」
「ひ…密さ…。」
「ごめんなさい、あんまり可愛いから慣れない服勧めちゃったみたいで…。」
「…あー…ちょっと、出て貰って良いか?」
「ええ、服は選び終えたし、片付けてもう行くわ。」
「失礼します。」
「それにしても珍しいわね、鬼執事長と呼ばれる貴方が女の子助けるなんて。」
「…っ!憐梨さん…!あの…!上には…!」
「ふふ…、それじゃあ、またね、浬音ちゃん。」

2人の会話が引っ掛からなかった訳じゃないけど、そこまで頭が回らなかった。どうしたら良いか判らなくて裾をきゅっと握り締めたまま、涙が出そうになるのを必死で堪えるのが精一杯だった。

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DollsGame-11.宿根霞草-

鬼執事長のアキレス腱

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投稿日:2010/07/23 14:04:17

文字数:1,219文字

カテゴリ:小説

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