9月63日の 晴れ渡る午後12時過ぎ
コンビニを飛び出した僕は レジ袋をすぐかなぐり捨てた

プラスチックの個包装を 裂くように乱雑に脱がす
高まる心拍 速まる呼吸　一糸纏わぬ姿になって
なおも君の心 頑なだった

『肉欲を抑えられぬケダモノ』と　そう冷ややかに 蔑んで見えた
「　所詮は税込￥138の女よ　」
買う買われるの関係なんだと、食う食われるの存在なんだと、
割り切った君は 微動だにしなかったね

薄氷のような芯の強さは さながらチョコレートのようで
凍てついた君のその心を 溶かしたくて yeah
燃え上がる僕のこの想いを 届けたくて yeah
有らん限りの温もり込めて 君にささやいたんだ

「　いただきます　」

君の面差し　少し和らいだ
ような気がした　秋の空

寄せる唇 歯と舌が触れる
柔らかなその身 マーガリン香る
濃厚を冠すチョコレートは 口の中でパキパキ喘いで

279kcal　君の熱量 僕の胃の中
タンパク質 3.7g　僕の内にて 白濁となる
脂質17.3g　香りよく舌によい恵み
27.1gの炭水化物　今だけは何も考えずに
Naは159mg　この美味しさを 噛み締めていたい

純白の聖域 前人未到
味覚の官能　這う舌の快楽
咀嚼と嚥下で織り成す五線譜
D.S.　D.S.　Fineなんていらない

跡形もなく君のことを 奪い尽くしてなお飽き足らずに
僕の手は無意識に 財布を取り出していた


僕は垂涎 君は据え膳
食わぬは男の何とやら

僕の垂唾は 君のせいだ
人はパンのみに生くるなり


僕は知ってる　誰もが知ってる
消費期限 別途記載している
君の温かな 優しさを


僕は知ってる　誰もが知ってる
日光・高温・多湿は厳禁
君の変わらぬ 繊細さを



《※grandioso e grazioso》
株式会社　フランソア工場
　ああ　走って行ける距離

株式会社　フランソア工場
　ああ　秋風に君を感じてる

株式会社　フランソア工場
　ああ　君とひとつになりたい

株式会社　フランソア工場
　今すぐセブンに会いに行く──。


クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは愛すべき人の世のパン

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは人生の悦び

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは幸福の抽象なるもの

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは賜りし命の源


好きより大きなこの愛で

何度でも君に伝えたい


「　ごちそうさまでした　」




あの吹き荒ぶ雨の日の午後 いつも待ち合わせている場所
レジの中 トイレ 事務室まで探し倦ねても 君の姿はなくて

僕の手中から滑り落ちた 給料1/1000ヶ月分
外の雨音も金属音も 僕には全く聞こえなかった

豪雨の中 コンビニ前にて ウロウロ13時間超
店員さんも心配げな顔　君は今どこで何してるの

でも大丈夫 僕はここにいる
また逢えるって信じているから

満を持してやってきたのは 君を荷に乗せた高級トラック
ブレーキより速く飛びつき 荷台をこじ開け君を救い出す──。



「　……ごめんなさい……


……待たせたかしら？　」


「　……いや……


……今来たところさ。　」




駆ける稲妻　貪るような 熱い口付け
雨の中 君と交わしたキスは
出来立ての香ばしい味がした

ドライバーには殴られたけど
それだけ君に逢いたかったんだ

ポリスマンには叱られたけど
それほど君は美味しかったんだ



《※grandioso e grazioso》
You are a delicious bread,
　美味しい　美味しい　クロワッサンよ

to make life happy, oh
　クロワッサンよ　人生を楽しく

making the everyday better.
　クロワッサンよ　毎日をよりよく

　美味しい　美味しい　クロワッサンよ
　　愛しい　愛しい　クロワッサンよ

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは愛すべき人の世のパン

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは人生の悦び

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは幸福の抽象なるもの

クロワッサン　ah　クロワッサン
　ああ　それは賜りし命の源


好きより大きなこの愛で

何度でも君に伝えたい


「　ご ち そ う さ ま で し た　」