女の子のタイプは? と聞かれると、やはり凝りに凝って考えてしまう。出るとこ出てる子、おとなしい控えめな子、笑顔の素敵な子、料理が上手な子、いろいろとある。高望みもあれば、それはどうなんだと思う好み、嗜好でもって女の子のタイプを決める男もいる。
だがまぁまてまて。人にはいろいろな面がある。一義的に見て、判断して、それが実に事実たらしいことはあるけれども、それは正確ではないのだ。自分をある側面――それも色眼鏡をかけた形で見られるのは悲しいことだろう。うん、俺いいこと言った。
その時頭に何かあたってふと気付く。今はそういえば公民の授業だった。地方政治の予算配分の法令うんぬん言っている。どうにも高校生相手では荷が重い。
――と、何かあたったんだった。どうも右からだったらしい。ふっと机の上から目を離して床を見ると、折りたたまれた紙が落ちている。
クラスの女子が、授業中の退屈にあかしてまわす、あの特徴的にたたまれた手紙とは――わけが違う。とても事務的な、四角いメモ用紙を二つに折りたたんだものだ。
投げた相手は見当がついていたので、すぐそちらに目を向ける――隣の席。目が合う。
何だ、と態度で知らせる。向こうでは何の表情も作らず、床に落ちた手紙を指さす。まずは読んでからってことかい。一応先生の挙動に注意する。そっと身をかがめて手紙を拾った。手紙にはこう書いてあった。
『正気かどうか確かめてみた』
何が書いてあるかと思えば、こんな人を食ったような――。呆れて隣を見てみれば、肘をついてニヤニヤしている。こう馬鹿にされてはたまらない。かと言ってうまい言葉でやり返すすべもない。窮するってのはあまり経験したくないものだ。
無視を決め込んで黒板に集中する。しばらくすると目の端で、机の上に腕を組んで、あごをのせてボケーッと黒板を見つめている姿がうつる。
僕は黒板に目を向けながら、誰に悟られるのを恐れるでもなく、また女の子のことを考え出した。僕はもてるほうじゃない。だからこそ選り好みできない。でもゆずれない基準を設けておくのは悪いことじゃないと思うのだ。女の子のタイプは? と聞かれて、たぶんこんなところだろうと思う、と言う回答をスラスラとして何の得になるのだという疑問を差し引いたとしても。
隣をふと見ると、まだボケっとしている。こいつのほうが正気かどうか怪しい。浮き沈みが激しいと言うか判然としないことが多い。
僕がこの子の何を魅力として捉えているのか考える必要がある。いつも笑ってふざけ合う仲であっても、芯の部分で揺らがないものが欲しい。真剣になる必要があるのだ。
男と女が違うことはわかる。でも通じ合える感情があるから、一緒でいられる。実はそこが一番重要でそれ意外はどうでもいいのかもしれない。
――どうでもいいことはないか。通じ合うより前に、気を持つのは、その人がタイプかどうかだ。
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