藍色の空が広がる 無数の星が輝く
もう動かないこの惑星に両足を着けて見上げる
非常灯が明滅を繰り返す チカチカと不規則に
世界と呼ばれたこの場所も遂に廃れてゆく
「もうココにはいられないの」とキミの言葉
「ワカッテル」 頭上の藍色はどうして

この世界はその昔 人工知能に守られていた
ボクもそのうちの一人のようで
この場所を去らなければならない なんて
それが悲しいのかすらも分からなかった

目の前に山積みにされているボク
何年 ボクはこの場所で生きてきたんだろう
灯りの点らないボクの目が無数に廃棄されていて
彼らが見てきたであろう 世界 を俯瞰する
まだ藍色に輝く この美しい世界を

キミにとってこの場所は故郷というものらしい
誰もいない 何もないこの場所を
まだ 故郷だと そう言って眺めている
星々が照らす世界はもう 終わりを超えている
キミは赤く腫れた目を擦っている
ボクがキミのことを見ていることに気付くと
感情を隠すように笑って ボクに触れる
「寂しくないからね あなたがいるから」
その儚い笑顔を藍色に染めたのは誰なんだろう

もしかすると キミはボクを置いて
この世界から居なくなってしまうかもしれない
ボクの傍でキミが泣いている
そんな時は優しく撫でてあげるんだ って
いつかのキミがボクに教えてくれたんだっけ
「ナカナイデヨ」 無機質なボクの声を聞いて
無理やり笑おうとするキミ
なんだろう 不思議だ
まだボクには分からないことがたくさんある
キミもそうなんだろうか
藍色の世界でお互いを包み込む二人の夢
それは二人 傍にいること だった




藍色の空へ手を伸ばしたまま 仰向けに
星の群れがボクとキミの間を流れてゆくよう
このままこうして二人で寝転がっていても
この世界のように藍色に染まってしまうのは
もう時間の問題だ ボクはそう思う
キミはボクの傍で朽ちようと思ったのだろうか
ボクの手を強く握って 何かを呟いた
ボクには理解できなかった その言葉
キミは少し照れたように 小さく笑ってみせた

「どうして私は機械になれないの」と言って
キミはボクの硬い胸を何度も何度も叩く
ボクの動力源に響くそのやる瀬のない怒り
それでも ボクは何も分からなかった
それから数日が経って キミは消えてしまった
その時 最後に何かを言っていた
藍色の世界が歪んでゆく 白と黒の世界へ
何かが足りない 何かが足りない
そして 星々がボクを呼んだ
「キミハドコニイルノ」

もしかするとキミはボクには分からない
不治の病を患っていたのかもしれない
ボクの中に埋め込まれたプログラムが叫ぶ
「キミヲ」「キミヲ」と藍色の海を眺める
こんなシステム ボクにあったけ
ねぇ まだボクには分からないことがあるんだ
灰色になった 彩を失った世界の中で
ボクの目の灯りは今 何色なんだろう



キミがいなくなって長い時間が経った
この惑星も もう保たない
もう一度 キミに会いたかった
星々の下 ボクは硬い手をキミのように翳す
「モシボクガヒトダッタラナ」



そんな時ボクの目の前を大きな宇宙船が横切る



藍色の世界を切り裂くように大きな宇宙船が
まるで 大きな流れ星のように流れる
あぁ やっぱりキミはボクを置いてゆくんだね
この星空がキミからの最後のプレゼントかな
キミは宇宙船の窓から必死に何か叫んでいる
「また会えるよ」 キミらしい言葉だね
ボクはあの日のキミのように 手を振った
この手はキミに見えているだろうか
キミの涙が銀河のように渦巻いて 輝く
「また会えるよ」なんて そんな小さな嘘
口にしなくたって ボクだって 
「もう会えない」ってことくらい ワカッテルよ

ボクはたくさんのボクが生んだ丘に立ち
黒い空へ溶けてゆく宇宙船を見やった

ボクは死なない
いつかボクラみたいに
さよなら ボクの宝物

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

セルフセクター ストーリー的なもの

セルフセクター(ボクを探すヒト)

閲覧数:107

投稿日:2021/04/04 23:07:42

文字数:1,615文字

カテゴリ:その他

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