14 ネカマ その2
私はmisakiちゃんが大好きだった。ゲームの世界では男の人のほうが多いので、同じ女性の友人は少ない。私と親しいのはミスティさんとmisakiちゃんだけ。
ミスティさんはとても優しく親切な人であり、いろいろと相談を聞いてくれる。しかし、歳が10以上離れているのですごく大人に感じて似たような目線での会話はあまりできない。たわいもない雑談をしやすいのはやはりmisakiちゃんのほうだ。
私はゲーム以外の日常の話しもよくmisakiちゃんと話した。それは女の子同士の男の人と一緒になっては話せないようなこともたくさん話した。好きな男性のタイプ。デートするならどんな所に行きたいか。初めてキスするなら何回目のデートでするか。肉体関係は何回目で許すか。
当然もう経験したと言っているmisakiちゃんに私は初めてのときってどんな感じなのとしつこく聞いていた。misakiちゃんは私の質問にはずかしがらず何でも答えてくれる。初めてのときは本当に好きな人がいいかもしれないけど、年上で上手な人のほうが意外といいかもとか言っていた。私はドキドキしながらうんうんそうなのかと話を聞いていた。
misakiちゃんも私のことをよく聞いてくる。どんなタイプの子だとか、顔は芸能人にたとえると誰に似ているかとか、痩せているかとか。
私は細いほうだと言うと、えー超うらやましいーーと言っていた。さらに身長、体重、スリーサイズまで教えた。
えー超スリムじゃん、いいなーー。これでもっと胸が大きかったら最高だね。まだ発育途中?そう聞かれた私は素直にハイと答えた。
うそーーwwやーーん、たのしみーー。今度顔の写真メールで送ってねとうれしそうに言っていた。
今思うと同じ女の子同士だからってそんな身体情報を細かく気にするだろうか。少なくとも私は他人のなんて気にしない。
私は私の知らなかった本当のmisakiちゃんに狙われているのだろうか?なんにせよ許せない。断じて許せない。
私は肉団子を掴んだまま箸に力を込めていた。
ふざけんじゃないわよ。私も最初は男って言ってたけど、別に人を騙すようなつもりじゃなかったし、後でみんなに言うつもりだったけど、このmisakiって人は完全にウソついてるじゃない。しかも何?ターナカさんの話だといかがわしい仕事までしてるみたいじゃない。それで私に女の子のフリして仲良くして何をどうしようってのよ。人の恥ずかしいところまで知ってさ。お姉さんのフリしてさ。
14歳ってお肌ピチピチよねーもう20過ぎるとオバサンよ。とか言っちゃってさ。何?なんなの?
もし、彼氏が出来たら教えてね。後悔しないように恋のアドバイスしてあげるとか言っちゃって、もう死ねば?
あ、あーーやだ、もう自分が死にたい。何これ、なんなの?一体なんですかーこれは。ここはどこですかー?
・・・クソッ、あのネカマ野郎・・もしリアルであったらただじゃおかない。土下座させて謝らせてやる・・。
私はいまだに箸で掴んだままの状態だった肉団子を放し、箸をグッとこぶしで握り締め勢いよくブスっと肉団子に刺した。そしてそのまま大きく振りかぶった。
「このクソったれがーーーー!!!」
ぶうんと腕を振り回した箸から真っ直ぐ肉団子が飛んでいった。そしてその数メートル先にあった高さ30センチくらいの大きな招き猫の置物にバチコーンと当たった。
肉団子を顔でまともに受けた招き猫はぐらぐらとゆれ今にも倒れそうになったが、グラッグラッグラッ、グラグラグラグラぴたっと止まった。
そして肉団子のほうは、招き猫に当たったあと跳ね返り、弧を描くようにして会場に置かれていた幸福の木(学名ドラセナ・フラグランス‘マッサンゲアナ’)の鉢のなかへと落ちていった。
シーーーーーン・・・。オフ会の会場は私の叫ぶ声に驚いたのか。招き猫に見とれていたのか、はたまた跳ね返った肉団子の見事な放物線に酔いしれていたのか、いずれにせよ静まり返っている。
ブブッ、ブ、ブー、♪~みっく、みっくにしてあげる~~♪
静けさの中、セシルの携帯が振動音と共に鳴った。
「もしもーし、おお、おう、飲んでる飲んでる。あぁ、平気平気。ちょ、ちょっとまた後で電話するわ。」
セシルは早めに電話を終わらせた。
「ちょっと、どうしたの!?」
最初私の横に座っていた親切な人があわてて声をかけてきた。
「・・いえ、なんでもないです・・。」
「いや、そうは見えないけど・・。」
さすがにこの状況、ただ事ではない。みんなそう思っている。どうしよう・・。何て言ったらいいのだろう。いや、misakiって人のことを言ってしまえば理解してくれるだろう。でも、さっきのターナカさんの言っていたことを思い出すと言えない。
しかし、みんなに教えてしまったほうがいいのではないだろうか・・。完全に悪党ってわけじゃないけど、詐欺師みたいな人には変わらない。ギルドにそんな人がいると知ったらみんな嫌だろうと思う。・・・ターナカさん・・、話しちゃってもいいかな・・・・・ってまだいない。あの人トイレ長っ!・・クッ、早く戻ってこいよ、田中・・。この状況どうしてくれるのよ。私が完全にクレイジーみたいじゃない。
さりげなくレンを見ると私を真っ直ぐ見て怯えている。
「また、あれなの?さっきみたいにうれしくて叫んだっていう?」
親切な人がそう聞いてきた。
「・・はい、うれしいです・・。」
「あぁ・・そうなんだ。結構変わった感情表現なんだね。でも心配ないみたいで安心したよ。」
「あー、びっくりした。何でもないってさー。」
「のもーー、のもーー。」
・・・そんなわけがないだろう・・。どこにそんなダイナミックな喜び方をする人がいるのよ。いたら私が会ってみたいわよ。会って喜ばせてみたいわよ。しかし、とにかくこの場をやり過ごした。正直なところ、ここの人達に私は変人と記憶されたことであろう。
しかたがない。でも私は何も悪くない。それだけは誰かにわかってほしい。もういい誰でもいい、一人でもいいから私の話しを聞いてほしい。私の屈辱を知ってほしい。
私は目を真っ赤にしながら、テーブルの上にあったオレンジジュースをビンのままラッパ飲みし始めた。
14 ネカマ その3へ続く
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