私の大好きな日
この日には雪が降って,みんな幸せの中,眠りにつく
そして翌日,目を覚ますと枕元には綺麗な包装紙に包まれたプレゼント
そんな些細なことが皆が『幸せ』と云うもの






こんな私にもサンタさんはプレゼントをくれる
去年は,確か,大きな熊のぬいぐるみだったわ
今年は何かしら?

私の今年のプレゼント
それは,朝目を覚ますと枕元に置いてあったわけじゃない
わざわざサンタさんったら,手渡しでくれたの
胸を弾ませながら包装紙を綺麗に剥がすと,中から姿を現したのは……

実弾入りのリボルバー


あぁ
そういうこと
サンタさんったら,一年の間に別人になっちゃったの?
去年とはまるで違う人みたい
どうして?
今日ぐらい,良いじゃない
こんな日なんだから,私にも夢を見させてよ





12月24日が大好きな独りの女の子の私
それは『表』の私
『裏』の私はこんなに綺麗じゃない
白くない
真っ黒よ
一般的には殺し屋と呼ばれるものね


何でこんなものになったのかは,覚えてない
遠い遠い昔の話だから

私は小さい頃に両親を亡くして,独りで暮らしていた
『暮らす』なんて言葉が使えるほどの生活をしていたのかどうか……
毎日,食事にありつけるかどうかも分からないような生活

そんな私の前に現れたのは黒い服を着た男
何だか,とっても怖そうな人だったけれど,それ以上に私が食いついたもの
それは,大量の金貨

嗚呼,この人に付いていけば金が手に入る
もう,生活に苦しみ,こんな無様な姿で生きていかなくて良い
それが,まだ幼かった私が真っ先に考えたこと
これが,愚かなことっだたのか,それとも,真実への道だったのか,未だに私には分からない

でもね
これが私という一つの存在が選んだ道
それには変わりないの




そんな私だけど,きちんとココロも持ってるの
だから『12月24日が大好き』と云えるんだと思う
こんな私にだって好きなものぐらいあるのよ

私の嫌いなもの
意地悪な上司
仕事の邪魔をする人間
いちいち口出ししてくる,一つ上の先輩

好きなものを殺すこと








サンタさんからのプレゼントはとっても重くて,
普段なら楽々持てるコレも,両手を使っても持てないぐらいの重さに感じた
何でかな?
きっと,一緒に書いてあったメモの所為だね

『桜の木の下であの男を殺すこと』

想い重いメモ





プレゼントを向ける相手は,私が呼んだらすぐに来てくれた
私がソレを彼に向けると彼は一言
「どうしたんだい?」

どうして?
どうして,そんなに笑顔なの!?
これじゃあまるで,私が馬鹿みたいじゃない……

でも,彼の質問にちゃんと応えないと

さよなら 愛しい人









もし,もしも全てをやり直せるとしたら何がしたい?

私の質問
誰へ問うのか分からない私からの質問


また,二人で夏祭りの花火でも見に行きたい……かな?


私への答え
誰が応えてくれたんだろう,私なんかの質問に

でも,ちゃんとお礼を言っておかないと


ありがとう
私もそう思うよ!






私ってほんっと,馬鹿だなぁ
『夢』はあんまり,見ないようにしてたんだけどなぁ
どうしてかなぁ
私,何か変わっちゃったのかなぁ……


そんなこと,無理だって分かってる
十分承知
それが,『私』だから
私と云う存在だから

分かってるよ
分かってる
分かってる

分かりたくないだけだから



ゴメンね
我侭ばかり云って
そうだよね
私と貴方は違いすぎたもんね
最初っから分かってた
だからさ

うん













彼と出会ったのはある春の日
空は青く晴れ渡り,雲一つ無い快晴
丘の上には満開の桜
桃色に包まれてしまいそうな程の美しさ
そんな日に,穢れた私は美しい丘の上にいた

その日は,色々あって,軽く50人ほど殺してきたところだった
あまり,気持ちのいいものではないけど,別に嫌ではない
私自身はなんの損も無いし,血なんて,もう飽きるほど見てきた
罪悪感なんてものは,とっくに捨てた


私は,独り,美しい桜を見た
綺麗だった
聳え立つ幹
大きく広がる枝
舞い散る花弁

穢れた私とは無縁の存在
嗚呼,綺麗ね


「君も,そう思うかい?」


!
聞かれてたみたい……

ひょっこりと顔を出す一人の男
彼は顔に笑みを浮かべ,こちらを見つめていた

何て云うの?
胸が熱くなった……


「この桜さ,毎年見に来てるんだけど,美しさは全く衰えないんだよね」

へぇ……
そうなんだ……

「君は,見るの初めて?」

えぇ……

「僕さ,この桜が大好きなんだよ
 とっても凛々しく聳え立っててさ
 それでいて,春にはこんなにも綺麗な花を咲かせる
 凄いことだと思わないかい?」

えぇ,そうね……
私も,強いものが好きよ……

「そうか!
 僕もね,強いもの,好きだよ?
 でもさ,本当の強さって,見た目じゃ分からないと思うんだ」

……?

「そういうのはさ,心の奥にあると思うんだ!」

……

「あ,」

何……?

「君,初めて笑ったね」

…………

「僕は,この時期,毎日ここに来てるんだけど……
 どうかな?
 君も明日も来ない?」

……そうね
いいかもね

「よし
 じゃあ,明日,またここで」

えぇ




穢れを纏った『悪』の私が出会ったのは,けがれなんてモノは知らない『正義』の彼
駄目だと分かっていた
それは,彼を傷つけるだけの愚かな行為

それでも,それでも,私の中に残っていた僅かなココロが邪魔をした
『邪魔』と云うのかしら?
それが,私が望んでいた本当の答なのかもしれない

いけないこと
そうであったとしても,私は構わなかった

好きなモノができてしまった


この世に産み堕とされて初めて,好きなものができた
それは,嬉しくて苦しいこと
苦しさの方がちょっと大きかったかしら?




















人を撃つのは,初めてじゃあない
今まで,数え切れないほど撃ってきた
躊躇いなんて,そこには必要なかった
私の中にもそんなもの,存在などしていなかった


だけど,今日は特別
何だか,おかしい
眼が,眼が,
眼が熱い……

鼻がつーんと痛くなって,脳が締め付けられて,眼から何故だか,水が零れ落ちる
熱く,重い水
穢れのその水は, 美しい草の上に落ちた

嗚呼,ごめんなさい
美しい草
私の所為で,穢れの味を知ってしまったわね
ごめんなさい


こんなこと,初めて
人を撃つのがこんなに辛いなんて,知らなかった……
ありがとう
教えてくれて,ありがとう

そして,ごめんなさい
悪いのは全部私
貴方が悪い訳がないでしょ
貴方は『正義』の人なんだから


だからさ,そんな優しい顔をしないで
お願い
どうしてなの?
顔色一つ変えずに,どうしてそんな顔ができるの?
私の顔,見てよ
どんな,顔になってるか自分では見えないけど何となくなら分かる
真っ赤なはず

それなのに,どうして貴方はそんな顔なの?
ねぇ
確かに,それが貴方の良いところよ?
いつでも,笑顔で皆に幸せを分け与えてくれる
だけどね,今は違うのよ
そんな顔しないで
お願い

そんなことしたら私,撃てないじゃない























出会いは確か春だったわね
桜の木の下で,私という存在と貴方が出会った
私のココロがほんのちょっと赤くなった




夏にはねぇ
色んな思い出を作ったわね
私は,毎日仕事で忙しかった
それでも,合間をぬって貴方に会いに行った
今までなら,そんなことしてなかった
あそこを抜け出すのは結構大変だし,あいつらと喋ってるのもそんなに嫌なことじゃないから
暇つぶし程度にならいくらでもなっていたから

でも,貴方と会うのは『暇つぶし』なんて言葉じゃ片付けられなかった


会いたかった

これは,自分自身の意思
ただ,会いたかった



特に印象に残ってるのはアレかなぁ
夏祭り

貴方は云った



「花火は花火でも,夏祭りにこうして見る花火は特別なんだよ」

どうして?

「まず,大好きな人と一緒に見れてる
 これで,幸せ」

!

「それにね,誰かが云ってたおまじない
 夏祭りの空に上がる花火
 それを一緒に見た男女は永遠に結ばれる」

!!!

「……なーんてねっ」

な,何よ!?
私をからかってるの!?

「そんなことないよ?
 大好きだよ」


こんな私に貴方が云ってくれた言葉
嬉しくて嬉しくて,涙が出た




秋には,貴方が初めて私の家にやってきた
いきなりで,驚いたわよ
でも,そのとき,同職の人達が来てなくて良かった
本当に良かった

貴方と私はその夜,一つになりました




そして冬
全てが終わる白い季節










撃鉄を起こす
手馴れた作業

指を引き金に置く
いつも通りの作業

なのに,全ていつもとなんら代わりの無いことなのにどうして?
どうして,人差し指が震えるの?
これじゃあ,上手く狙いが定まらないじゃない


あ,これは神様がくれたチャンスなのね
これで,彼をはずせって云いたいのね
分かったわ




ごめんなさい,神様
私には,そんなこと,出来ないみたいです









ゴメン

私の言葉
誰に謝ってるんだろ?
自分自身に,かなぁ

ほら,これが私から貴方への最後の言葉
貴方は最期に私に何て云ってくれるの?
大体予想は付くよ
「大っ嫌い」とか「死ね」とか「残念」とかだよね
分かってる
私はそう云われるべき存在
さぁ,最後の言葉を


「       」

?
どうして?
どうしてなの??



あ,
手が

刹那,鈍い音がして,発砲
彼は倒れた


























もし,もしも全てをやり直せるとしたら何がしたい?

私の質問
誰へ問うのか分からない私からの質問


また,二人で夏祭りの花火でも見に行きたい……かな?


私への答え
私のココロの底からの,答え


うん,これが二人の答えなんだよ



ありがとう
大好きだよ












大丈夫
心配しないで
すぐ会える
絶対に

私がこの生命に懸けて,云うわ


だって,約束したじゃない
ずっといっしょにいようね,って

私は他人を殺すような女だけど,約束は守る女よ?
絶対に破ったりなんかしないから安心して


私だって,私だって,これぐらいのこと覚悟してる
ううん
覚悟なんて上辺だけのもの,いらない


今いくよ?
だから,ちょっとだけ,待っててね

私,いつも貴方を待たせてばかりだね
ゴメンね




鈍い音がして,発砲









































ねぇ
あれって,花火じゃない?

そうだね

綺麗ねぇ……

そうだね





大好きよ

うん,そうだね

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

最後のリボルバー  ……ヤバい。。自己解釈入りすぎた…………

悪ノP様で代4弾!!
今回は大罪シリーズではありませんが,GUMIです!
『恋愛』って難かしいですねぇw……

えと,読んでくださった貴方
ありがとうございます!!

ご感想・文章構成の指摘etc,お待ちしておりますoyz
よろしくお願い致します

閲覧数:8,912

投稿日:2011/03/22 20:36:16

文字数:4,539文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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