人間、誰しも苦手なものがある。
目前の時間割に書いてある『体育』の二文字は、わたしをその例から漏らさないように掬っている。
「ねむこ、今日のバレーはどうするの?」
ヒョイと顔を出して、さっちゃんが現れる。
どうするって、そろそろ見学で乗り切れなくなってきたし…出るしか、ない。
「そろそろ出ないとなぁ……うう、いやだあ……」
「そんな下手でもないのに、どーして嫌がるのかなぁ」
どうしてって、なんというか『目立っちゃったりしたらどうしよう』みたいな不安があるだけなんだけど……。
「……ほほう、そういうことかぁー」
え、何も言ってないのに? さっちゃんはエスパー?
「そうだよねぇ、ねむこはジロジロ見られたら恥ずかしいところがあるよねぇ」
そう言いつつ、さっちゃんはニヤニヤしながらわたしを見ている。
なんだろう、特に恥ずかしいところなんてないと思うけど。
「……あ、全然気にしてなかったんだ……」
溜め息をついて幸せを逃がしているさっちゃんは放っておいて、仕方なく体育館へ向かうのだった。
――体育の授業――
ぽーん
「えーい」
トース
「アタックおねがいー」
ぽーん
「きゃー」
とどかなーい
そう、不運にもたった一度だけ上手なアタックを(まぐれで)決めてしまったわたしは、アタック役に任命されて久しいのである。
この低身長でどうやってネット際に寄ってアタックすればいいのか、どうやってあのまぐれアタックが出来てしまったのか、どちらも謎が深い。
そして今現在、よくわからない理由で『アタックミスしても許される』ような立場となってしまった。
失敗してしょんぼりしてても、同じチームの子がみんな励ましてくれる。 それも、何回でも。
さっちゃんに至っては
「今のアタック、すっごい良かったよ! もっかいやって!!」
なんて言ってくるから、失敗したのにアタック役を続けてて良いような雰囲気ができあがっている。
困ったな、目立たないようにする方法がわからない。
「あたーっきゃー」
ぜんぜんとどかなーい
「大丈夫! 大丈夫だよねむこ!! 何度でも挑戦していいんだよ!!」
もう立ったまま寝たい。
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