少女の後を追って建物の中に入ると、そこはまるでどこかの屋敷のようだった。
「ひ、広い…」
「…そう?普通ですよ」
「え…」
「むしろ…けっこう前に住んでた家に比べると…狭いほうです」
「えー…」
もっと上があるのか、と言いたくなるほどの広さだ。
「でも、こんな大きい家…俺は始めて見ました」
「……そう、ですか…
その、私のこと…わかりますか?」
「え?」
俺は褒めたつもりなのに、少女は顔を曇らせた。
何かまずいことでも言ったのだろうか?
そして、俺は彼女がわからない。
初対面のはずなのに、何故…?
「…やっぱりなんでもないです」
「あ、すみません。あともう一つお願いが」
「…?」
少女は訝しげな目でこちらを見る。
「あの、タオル貸してもらえますか?髪とか濡れてしまったので…」
「あ、そうか。…全身びしょ濡れじゃないですか」
「あ、ほんとだ」
「風邪ひいてしまうといけませんね…お風呂入っていきます?」
「…え?いいんですか?でもそこまでお世話になるわけには…」
「ていうか入ってきてください。本当に風邪ひきますよ」
「じゃあお世話になります」
なんだろう。
この少女、一瞬殺気を感じたような…
「着替えは後で持っていきますので」
「はぁ…どうも」
初めて会う人にここまで優しくしてくれるとは、いい人だな…。
…うん?着替え?
*
「あら、似合ってるじゃないですか」
俺がもとの場所へ戻ってくると、少女は嬉しそうな声で言った。
「…」
「ん?どうしました?」
なんで俺にピッタリ合う服がここにあるんだ。
まるで、少女が最初から知っていたみたいに。
「…」
「大丈夫、前から家にあったものです。新品です」
いや、新品とかを気にしてるんじゃなくて…
これ、何?
「なんでこんな服なんですか?」
ジャケットはベストと燕尾。
そして、右手にバラリボンである。
「凄く似合ってますよ」
「いや、そうじゃなくて、なんでこんな…」
「あぁ、そうですか。じゃあわかりやすく言います」
「私の執事になりなさい」
………え?
「あなたを助けたんです。これくらい、聞いてもらえますよね?」
「ん、いや、まぁ、そうですけど、ほら家とか」
「あなたが来たと思われる方向…何やら燃えてるのに?」
「え!?」
窓を覗き込むと、何か燃えていた。
「えぇ!?」
「雨の中大炎上よ。すごいわね」
すごいとかじゃなくて…
どうしてこの大雨の中、あんなに燃えてるの?
不思議でならない。
「ということよ。観念なさい」
「…はぁ。わかりました」
「やった!」
その時、初めて少女の笑顔を見た。
「そうだ、名前教えてくださる?」
「名前…?」
「そうよ」
名前。
俺にもあるはずなのに。
普段から知っているはずなのに。
一ヶ月前のあの日から、俺から何かがなくなっていた。
自分がわからない。
俺は誰?
「どうしました?」
「…わからない」
「え?」
「俺はわからない。記憶が無いんです…自分が、誰なのか」
あの日目覚めたときから、何がおこったのかはわからない。
気づけば、何もかも失っていた。
「…がくぽ」
「え?」
「教えてあげる。神威がくぽ、それが…あなたの名前」
「かむい…がくぽ…?」
それが俺の名前?
「丁度いい、話を聞かせてもらうわ。…彼も一緒に、ね」
俺は彼女の言葉を聞いて振り返る。
すると、そこには誰かがいた。
「あなたと同じ境遇。名は…始音カイト」
「俺と…同じ境遇…?」
「…僕と、同じような人間、か…」
青い髪の男が、そこにいた。
【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 2【自己解釈】
まだ原曲の歌詞出てきてない^q^
本家様 http://www.nicovideo.jp/watch/sm16321602
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