夕方、ルカお姉ちゃんと散歩している時。
西の空に赤く光りながら飛んでいる円盤を見つけてしまった。
なにあれ! ひょっとしてUFO!?

「お姉ちゃん、見て!」

私がUFOを指差して叫ぶと。

「え、なに、何!? どうしたのっ!?」


いや私の指じゃなくて、指差してる方向を見てっ!!









日本をもっと知りたいと言うお姉ちゃんのために、あちこち旅行に連れて行ってあげた。
田園風景を見に行った時のことだ。

「ミク、あんなところにお人形が立ってるわ」

お姉ちゃんはカカシを指差して、不思議そうに言った。

「あれはカカシっていうんだよ。ああして田んぼの中に人が居るように見せかけて、スズメを追い払うんだよ」

そう教えてあげると、お姉ちゃんはなぜかポーッと赤くなる。
熱っぽく潤んだ瞳で、うっとりとカカシを見つめながら。

「雨の日も、風の日も、がんばってお米を守っているのね……」


いけないっ、またお姉ちゃんが無機物に恋してるっ!!








「大人になるってね。子供の頃にはたくさん持ってた夢を、1つ1つ諦めていく事なのよ」

お姉ちゃんは、ほろ苦い微笑みを浮かべて言った。

「……歌手の他に、なりたかったものがあるの?」

私が尋ねると、遠い目で空を見上げて。


「一度でいいから……男の子になってみたかったなぁ……」


それは残念だったね。







「ミク、見て見て。大発見なの」

お姉ちゃんが鉛筆を握りしめて、満面の笑顔で私の所までやってきた。
鉛筆の先っぽをつまんで、上下にフルフルと揺らす。

「ほら、曲がる曲が~る。ねっ、すごいでしょう?」
「……っ」

喉元まで出かかった言葉を、私はかろうじて飲み込んだ。

「わ、わぁ~、すごいなぁ~……」


その100万ドルの笑顔を曇らせるなんて。
そんな残酷なこと、私には出来ませんでした。








「お姉ちゃん」
「何? ごはん?」

お姉ちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?






お姉ちゃんとリンちゃんが何か約束をしたらしく、仲良く指切りげんまんしている姿を見かけた。

「ルカ姉ぇ、これは指切りって言ってね。私達は絶対に約束を守ります、っていう誓いの印なんだよ」
「へぇ~、そうなの。素敵ねぇ」

ふふ、なんだか可愛いこと話してる。
私が微笑ましく見ていると。

「もし約束を破ったら、この小指を切り落とさなきゃいけないんだよ。日本のヤクザもやってるんだよ」
「ええっ!? そうなの!?」


リンちゃん、嘘教えないの。







「ダメじゃないリンちゃん。お姉ちゃんはまだ日本のこと良く知らないんだから、信じちゃうでしょ」

見過ごしておけなかったので、リンちゃんを叱る。
だけどお姉ちゃんが、やんわりと割って入ってきた。

「いいのよミク。ほんの冗談だったのよね? リン」

もう、お姉ちゃん甘いんだから。

「ごめんなさい」
「いいのいいの。それに本当のこと言うとね、それが嘘だって最初から分かってたの」
「え、そうだったの?」

何でもお見通しという微笑みで、リンちゃんの頭を撫でる。
いつもポーッとしてるみたいで、だまされたフリだなんて、お姉ちゃんやるなぁ。
感心する私とリンちゃんに向かって、お姉ちゃんは自信満々に言った。


「ホントは腹を切るのよね?」


いや何も切らないから!









おまけ『ワンダーラスト』



♪ 君が笑ってくれるのなら 僕は 消えてしまっても構わないから


いろいろアレなお姉ちゃんだけど、歌の実力は確かだ。
歌っている後ろ姿も、なかなかに格好良い。


♪ 君が涙の海に身を投げても 握りしめた手 離さないから


うんうん。
お姉ちゃんならきっと、絶対に手を離さないんだろうな。

「……ふふっ」

お姉ちゃん、泳げないけどね。
後を追って涙の海に飛び込んだは良いけど、お姉ちゃんの方が先に溺れちゃって、「君」はそれを助けるハメになっちゃって。

(泳げないんなら、ついて来るなよ! しょうがねーなっ!)
(ぜ、絶対に……げほっ……絶対に離さないからっ!)

「君」が、もう泣いてる場合じゃなくなっちゃう光景を想像して。
私は小さく笑った。













     めぐりすぎ注意だと何度言ってもまるで聞く耳をもたない

                      おしまい




ライセンス

  • 非営利目的に限ります

巡音ルカの 『めぐりすぎ注意だと何度言ってもまるで聞く耳をもたない』


……そもそも「ワンダーラスト」でニコニコしようという試み自体が無謀だったような。orz
総執筆時間の8割をこれ1つに費やしたにも関わらず、結局ネタにはアレンジできず。
でも諦め切れなくて、おまけ枠でハートフル風味な仕上がりを目指したんですけど……い、いかがでしょうか? 名曲だけに反応が怖いです。ガクブルです。

まったく書く予定の無かった、めぐりすぎ第3弾。前回、僕史上ありえないほどたくさんのコメを頂けたので、皆様へお礼のつもりで書きました。スペシャルサンクスは翠葉さん。ホントにありがとうございました! 遅くなりましたがお礼です。なお、返品は不可ですw


例によって、すでに超有名なので紹介する必要もないと思いますが……まあ一応。

『ワンダーラスト』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6020985

閲覧数:1,897

投稿日:2009/04/12 12:06:19

文字数:1,851文字

カテゴリ:小説

  • コメント9

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  • ganzan

    ganzan

    ご意見・ご感想

    こんばんは。楽しく読ませて頂いてます。
    『めぐりすぎ』シリーズは時給310円さんの他の小説に比べて少し短めでコミカルなので、ちょっと息抜きしたいときに読めるのがいいですね。

    特に好きだったのは……

    > 「お姉ちゃん」
    > 「何? ごはん?」
    > お姉ちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?

    たった3行で1分ほど笑いました。
    自分の中の何か(?)をくすぐられたようです。ツボです。

    おまけの「ワンダーラスト」も、ギャグマンガの中で偶に出てくるちょっとイイ話系の回を読んでいるようで軽くホワリと来ました。

    楽しい作品をありがとうございました。

    2014/04/08 23:08:46

    • 時給310円

      時給310円

      うわー! 最近ずっと仕事にかかりきりで、全然メールチェックしてませんでした! 今ごろ気付きましたすみません!

      なんだか僕の書いたもの色々読んで頂けてるようで、大変嬉しいです。ボカロファンの同志として、少しでもお楽しみ頂けたらと思います。今はホント、仕事のせいで全然書けてませんが、いずれ復帰します。ええもう絶対。いつになるか分かりませんが、その時もまたお付き合い頂ければ幸いです。

      では、この度はお読み頂きありがとうございました!

      2014/04/13 10:28:06

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    ミクが思いのほか人気みたいで、とても嬉しいんですよ僕は。「ボケを生かすも殺すもツッコミ次第」といいます。ルカももちろん頑張ってるんですけど、それ以上に頑張っているのは、実はミクの方なんですよね。苦労を分かってくれる方々がいてくれて、ミクも喜んでいることでしょうw


    >りょおさん
    こちらこそ初めまして、コメありがとうございます!
    何と何と、前から読んで頂けていたとは。もんのすげぇ嬉しいです、握手して下さいw
    レンについては……ルカはいまだに勘違いしっぱなしみたいですよ。レンとミクをくっつけるべく、あれこれ画策している模様です。まあ、このルカが考える策ですから、たかが知れてますけどw
    読んで頂けて、ホントにありがとうございました!

    >甘味料さん
    いらっしゃいませ、また来てもらえるとはホントに嬉しいです!
    黄色い弟君……ははは、言われてみれば確かにw いま気付いたんですが、その設定で第1回のレンのラブレターから話を繋げられましたね。惜しいチャンスを逃した。
    僕のカイミクにナイスフォロー、ありがとうございましたw! カイミク書いてる間にも、ばちぼちネタ出しはしていくんで、まためぐりすぎをUPすることがありましたら宜しくお願いしますね。

    2009/04/14 21:53:05

  • 甘味料

    甘味料

    ご意見・ご感想

    こんばんは、甘味料です。出遅れてしまったことを勝手に悔しがっております。

    今回も可愛い天然なお姉ちゃんで安心しました(ぇ)ミクのツッコミとセットで和みます。

    私もルカさんの100万ドルの笑顔を曇らせるなんてそんな残酷なこと、出来ません!!
    『ワンダーラスト』もこちらのルカさんらしくてハートフルです!
    そして「君」の口調が青いお兄さんより黄色い弟君のようなイメージが出てきてしまってニヤニヤが…。
    (「君」は「君」であって誰というわけでもないのに勝手なイメージをしてすみません)
    カイミクも好きですが、またルカのボケとミクのツッコミ話が読めることを期待しております!!

    2009/04/14 00:10:03

  • りょお

    りょお

    ご意見・ご感想

    はじめまして、りょおと申します。
    前々から時給310円さんの大ファンで全作ニヤニヤしながら読ませて頂いてました。

    天然ルカ可愛いです!これからも我が道を突き進んで欲しいですね。
    ミクのツッコミも絶妙で毎回吹き出します。
    そういえばレンは手紙でルカに「大好きです」と伝えてからどうなったんでしょうか(笑)

    今までお嬢系かと思ってたルカ様がこの作品で覆されました。これからの作品も楽しみにしています!

    2009/04/13 22:25:02

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