つまんない。つまんないつまんないつまんない!
毎日毎日、おんなじ事の繰り返し。昨日と同じ今日、今日と同じ明日、明後日もその次もずっとずっと?
あぁ、もう、
「飽き飽きしてる――ってカオだな?」
「えっ」
突然振ってきた声に、反射的に空を仰いだ。一瞬遅れて疑問がよぎる、だって上には何も無い。空しかない。だけど。
「退屈なんだろ? ――ソレ、壊してやろうか」
あたしの耳は、案外優秀だったみたいだ。見上げた先の中空に、何処からともなく人影が現れた。掻き出でる……なんて言葉は無いだろうけど、そんな感じ。掻き消える、の反対だ。
ト、と軽い音を立てて目の前に降り立ったのは、あたしと変わらない年頃に見える男の子だった。だけど勿論、ただの男の子のわけはない。普通男の子は空中に現れたりしない。それにあの尖った耳や、吊り上げた唇の端に覗く牙は。
「初めまして、お嬢さん。オレと契約してみないか?」
悲鳴も上げられずに凍り付いているあたしにニヤリと笑い掛けて、彼はすいっと手を差し出した。あ、オレこーいうモンね。軽い調子で言い添えるその手に、小さな黒い長方形。
「名刺、とか……あるんだ」
絞り出した声は掠れていたけど、呆れの色を含んでいる。受け取った紙片にはゴシックな箔押しがされ、『2級悪魔 レン』と金の飾り文字が並んでいた。
「要するに、不景気なんだよ。オレらのギョーカイもさ」
レンという名の悪魔らしい彼は、ダルそうに言って肩を竦めた。悪魔だの魔法だのを信奉する人間がめっきり少なくなった現代、彼らも契約者を見つけるのに一苦労なんだそうな。
「たまーにいるかと思えばイッちまってるオッサンとかでなー。やってらんねーし、こりゃもう営業するっきゃねーだろって」
「営業……それで名刺配って回ってるってわけ?」
「そゆこと。オレとしたって、小汚いオッサンなんかよりカワイーお嬢さんと契約したいしな」
レンは一度言葉を切って、思わせぶりにこちらを見遣った。
「アンタみたいな、ね」
「っ!」
意味深な笑みで付け足され、かっと頬が熱くなる。単純な反応を返してしまったあたしが面白かったのか、レンは声を上げて笑った。
「いいね。アンタ、気に入ったぜ」
「なっ――ふ、ふん。そんなテキトーな嘘に引っかかったりしないんだから」
「嘘?」
可笑しげに目を細めて、レンが首を傾げる。
「オレ達は嘘は言わねぇよ。そいつは人間の特性だろ。――そうだ、ケータイ持ってるか?」
「ケータイ? あるけど……」
訝しみながらも取り出して見せると、レンは手の中に出した(と言うしかない)ストラップをかざした。次の瞬間には、それはあたしが持ったままのケータイにぶら下がり、チャラリと軽い音を立てている。
「え。……何これ」
「『気に入った』証明。お試し期間てヤツをやるよ。それを付けてる限り、そのケータイでオレに繋がる」
「デンワ1本で召喚? お手軽だね~。で、出てきた途端にタマシイ奪ってったり?」
「まさか。召喚だけでそこまで高くつくなんてのは、トップクラスの大悪魔くらいのもんだ。ま、流石にタダじゃねーけどな」
ヒニクっぽく言うあたしに、レンは肩を竦めてみせた。
「召喚の御代は……そーだな。バナナでいっか」
「安っ!?」
「『お試し』だしな、サービスしとくぜ☆」
おどけた調子で、にっと笑う。そのカオとケータイに付いて揺れるストラップを、あたしは交互にまじまじと眺めた。
本当は、気付いていた。笑みを形作るレンの、その瞳は冷たく醒めていたこと。だけど、あたしは。
気付いた事実に、蓋をした。
そうして、あたしの日常は変わった。レンは言った通り、あたしの退屈を壊してくれた。バナナが対価のお試し召喚でそれ以上何をしてくれるわけでもなかったけど、悪魔と繋がるなんていう非常識な秘密は、在るだけであたしをわくわくさせた。
だけど、ヒトは欲が出るイキモノだ。
「ねーレン、どっか遊びに行こうよ」
「悪ィ、召喚されただけじゃ魔方陣から出らんねーんだ」
「今度さ、人間のフリして来てよ。校門のところに召喚するからさ」
「そーゆーオプションサービスはナシ。お試しだからな」
召喚して、少し話して、レンは帰る。あたしはそれに満足できなくなっていった。一緒に出掛けたりしたいし、友達に自慢してしまいたいし、もっと一緒にいたい。と思うようになってしまった。
悪魔と繋がる非常識。それは心躍る秘密で、だけどそれ以上に、レンそのものが魔的な魅力を持っていた。綺麗な姿と、軽妙な会話。レンは悪魔であるという以上に、魅力的な男の子だった。
多分、それこそが。悪魔の、最大に悪魔的なところなんだろう。
そんなあたしを追い込むように、レンは少しずつ態度を変えていった。素っ気無く、あまり話さず、すぐに帰ってしまうようになった。
「もう帰っちゃうの? 今来たばっかりじゃない」
「召喚には応えたからな」
「でも、前はもっと」
「つーかオマエ、気軽に喚びすぎ。オレもそうヒマじゃねーんだよ」
言い募る声を遮られ、言葉を紡ぎかけたままで固まってしまうあたしに、アイスブルーの瞳が冷たく光る。
「忘れてんの? オレは契約する相手を探してるんだよ。遊びに来てんじゃねーの」
冷たい、瞳。ぞっとするほど。底が見えない……ううん、逆だ。深みが全く感じられない、平坦な、ガラスのような。
怖い。
あたしは、レンに対して初めてそう思った。けどそれは、悪魔を恐れるものではなくて。
「あぁ……そーいや、期限切ってなかったなあ。お試しってのも、いつまでも引っ張るモンでもねーよな。そろそろ」
「嫌ッ!」
思わず叫んで、あたしはケータイを――そこに揺れる、レンに繋がるストラップを、手の中に握り込んだ。
「嫌、イヤだよレン、あたし……っ」
「嫌ァ? そりゃ死ぬまで契約もせず付き合えってコトかよ。随分図々しいのな、オマエ」
「そっ……そんなんじゃ……!」
軽蔑の色が見える言葉に、ざっと血の気が引くのを感じる。恐怖が止め処なく湧き上がり、じわりと涙が浮かんだ。
レンの視線は和らがない。ふん、と苛立ちの息を吐き、すいと指を振れば、きつく握り締めた手の中にあった感触が消滅した。
「っあ」
「これでお試し期間終了だ。じゃーな」
「やっ、」
容赦のカケラも無い声と言葉に、頭が真っ白になった。レンの存在は眩しすぎた。目が眩んで、何も見えなくなる。何も、考えられなくなる。
「待って! 契約するからっっ!!」
自分の口から飛び出した言葉も。それが何を意味するのかも。
「契約するから――それならいいでしょ? そうしたらこれからも会ってくれるし、それにそう、来るだけじゃなくて一緒に出掛けたりもできるよね? そうだよね?」
無様な涙と、引き攣った笑みを浮かべて、あたしは縋った。レンは眩しすぎた。失う事など、もう考えもつかないほどに。
不安と恐怖が最大に高まるまで間を置いて、ゆっくりと、レンは微笑んだ。
「それを契約に依って望むのならば、な。ただし――タダじゃねーけどな?」
にぃぃ、と牙を覗かせて口の端を吊り上げるその笑みは、まさしく悪魔の姿だった。だけどあたしは、レンの眩しさに目を閉じたあたしは。
ふらふらと伸ばしたあたしの手を取って、レンはひどく甘く――残酷に甘く――囁いた。
契約の、御代は――。
コメント3
関連動画0
オススメ作品
新しいブルガリ 8 デイズ ブレスレット ウォッチにはwww.tokeikopi72.com/bvlgari-watches-m10/、ネオン グリーンのステッチが施されたブラック アリゲーター レザー ストラップと、テキスタイル パターンとフォールディング クラスプが付いたラバー ストラップが付属...
マットブラックDLCコーティングが施され
yuehhaomda
ハローディストピア
----------------------------
BPM=200→152→200
作詞作編曲:まふまふ
----------------------------
ぱっぱらぱーで唱えましょう どんな願いも叶えましょう
よい子はきっと皆勤賞 冤罪人の解体ショー
雲外蒼天ユート...ハローディストピア
まふまふ
chocolate box
作詞:dezzy(一億円P)
作曲:dezzy(一億円P)
R
なんかいつも眠そうだし
なんかいつもつまんなそうだし
なんかいつもヤバそうだし
なんかいつもスマホいじってるし
ホントはテンション高いのに
アタシといると超低いし...【歌詞】chocolate box
dezzy(一億円P)
(Aメロ)
また今日も 気持ちウラハラ
帰りに 反省
その顔 前にしたなら
気持ちの逆 くちにしてる
なぜだろう? きみといるとね
素直に なれない
ホントは こんなんじゃない
ありのまんま 見せたいのに
(Bメロ)...「ありのまんまで恋したいッ」
裏方くろ子
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
「彼らに勝てるはずがない」
そのカジノには、双子の天才ギャンブラーがいた。
彼らは、絶対に負けることがない。
だから、彼らは天才と言われていた。
そして、天才の彼らとの勝負で賭けるモノ。
それはお金ではない。
彼らとの勝負で賭けるのは、『自分の大事なモノ全て』。
だから、負けたらもうおしまい。
それ...イカサマ⇔カジノ【自己解釈】
ゆるりー
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
和麻
ご意見・ご感想
物凄っっく遅くなりましたが、拝見させていただきました!
悪魔だよ!イケレンな悪魔がおるよ!!
しかし、このヒール系小悪魔レンくんがマジでイケレンすぐる!!
ヤヴァいくらいイケレンで俺まで契約しちゃっいそうだ(*'艸`*)
Tricksterの衣装設定を(勝手に)描かせていただきましたので
Tricksterの歌詞とこのノベライズ化に関連リンクを貼っやいましたが、まずかったら外しますので仰って下さい<(_ _)>
2011/09/08 12:50:57
藍流
読んでいただいてありがとうございます?!
イケレン連呼ww ありがとうございます!
アクマなレン、なかなか好評ですね?☆
やはり男はクールなくらいが魅力的なのでしょうか。
そういえば今更気付きましたが、ボカロでこういう酷いキャラ書いたの初めてかもしれませんw
衣装設定&関連リンクもありがとうございます^^
リンク大歓迎ですよ?ヽ(*´∀`)ノ
2011/09/09 22:29:05
sunny_m
ご意見・ご感想
契約の御代が気になるところです~!!
やっぱり千疋屋のバナナかしら?w
ともかく、なんというイケレン!!パソコンの前で、キャ~☆となりました!!
藍流さんの書くレン君が新鮮でそこも面白かったです。
兄さんだと、ヤンデレてもどこか可愛らしさがあるけど(でもアイスピック的な怖さがあるけどw)、レンくんだと容赦なく残酷だよ。的な。
駄目だよお嬢さん、この悪魔、まじで悪魔だよ!!
と、本当、読みながらドキドキでしたよ(笑)
それではありがとうございました!
2011/09/02 21:04:16
藍流
こちらこそ、ありがとうございます!
契約の御代、何でしょうね??w
イヤこのレンだと、結構シャレにならない気はするんですが。
願いを叶えた、という夢を見せて魂イタダキ……くらいはしそうです。
とりあえず歌詞の2番はそんなイメージだったりします^^;
キャ?☆となっていただけましたか!
書いてる方はイケレンとか全く意識してませんでしたw
完全に純粋に、あの歌詞をノベライズしただけだったので……。
マトモにレンを書くのは『希求』と合わせてまだ2本目で、私も新鮮でした!(←
レンだと本当、容赦なさそうですよね。無邪気に冷酷な感じ。
まさに、まじで悪魔だよ!!ですw
そこを意識して書いたので、ドキドキしていただけて嬉しいですヽ(*´∀`)ノ
悪魔は嘘を吐かない。が、ヒトを騙す。――というのがテーマ(?)でした☆
2011/09/03 00:46:14
acuzis
ご意見・ご感想
ノベライズ化、早速拝見させていただきました!
うpおめでとうございます\(^∇^)/
これでレンの機嫌も直る事と思います(/_;)ぅぅ
しかしこの役はレンにハマり役ですねー(*^q^*)
イケレン~vvv冷たいトコロがまたイイですねvvvv
歌詞で私がイメージしてたレンはなんか幼かった///
幼い感じだけどマセた子…みたいなww←
今後の作業の参考にさせて頂きます(*^^*)ウフフ
声にイケレンさが出ればいいんだけど…^^;
∑(゜Д゜)…ってもともとのワンシーンのイメージはカイt((し―――――ッ!!!!!
「ゼロ、そこのガムテープとって!マスターの口に貼っとくから!」
「…こっちの方がいいんじゃない?」
「ゼロ君、いくらなんでも瞬間接着剤は…って二人とも目がマジすぎるしッ!!!」
で…ではこのノベライズ版掲げてレン君の捜索行ってきま――――…s((逃←
2011/08/31 07:09:40
藍流
早速ありがとうございます!
レン君のご機嫌も直ったようで、良かった良かったw
今回はノベライズではありますが、元が『レンのイメージ』で書いた歌詞ですからね^^
ある意味アテ書きなので、役にはすんなりハマってくれました☆
とは言え、レンをメインで書いた事って殆どなかったのでドキドキでしたが……。
おkだったようで安心しました?(ホ
えぇ、最初は兄さんの「アナタがいいな」から、『アナタ』が意味するところは色々に取れるよな?、意味深で美味しいなぁ?と思って、そのシーンが脳裏に浮かんでw
脳内がメフィスト兄さんに制圧完了されそうだったので(w レンだとどうかなー!と慌てて軌道修正を図ったのですよww
その結果、1本書けそうだったのでGO!してみました☆
……そういえば、こうなっちゃったからには兄さんver.は封印かしら。
折角帰ってきてくれたレン君がまた旅立ってしまいそうで……w(←
お忙しい中、コメントありがとうございました!
レンver.がどんな風になるのか、楽しみにお待ちしてます?♪
2011/08/31 23:56:59