政略結婚だったけれど、一度だって後悔はしていません。
わたくしは貴方に最後まで恋をしていました。
貴方は賢者の知性と少年のようなひたむきさをお持ちでした。
貴方は研究ばかりで、他はてんで駄目で。
いえ、もう一つの得意なチェロはわたくし達にとても素敵な時間を与えてくれました。
無理矢理習わされたバイオリンが活きたことに、貴方と会わせてくれたことに、わたくしはこの歳になって両親を神のように称えたのです。
ふふ、貴方は私の天使です。だって、貴方はとても無邪気で神のような打算はとても無理ですから。
わたくしは貴方がいればよかった。
貴方が居ない世界なら、貴方の名を地面に、この空気に、音に、記憶に少しでも長くとどめて置きたいのです。わたくしはその為なら、この指を血だらけにしてでも爪であがきましょう。
だというのに、世界は貴方に対して、貴方が生きている間も、死んでからも冷たかった。
貴方が変人だと、研究のために遅れた結婚を、はっきりとは分からない研究の成果をあざ笑うのです。
貴方がここに居れば苦笑で済ませたかもしれません。
でも、それを払えなかったのは、わたくしの妻たる役目を務めていなかったから。
貴方に最後まで甘えてしまったのです。
貴方が居ない今、わたくしがすべきことは、世界に貴方の名を叫ぶこと。
貴方の残した研究を続けること。
わたくしはそうでなければ、貴方に顔向けできません。
ただ、貴方に褒めて欲しいのです。
夫婦になった時、初めて紅茶を淹れた時の優しい笑顔を向けて欲しいのです。
貴方が研究を完成できなかったのは、貴方が優しすぎたから。わたくしが甘えすぎたから。
悪魔が必要ならば、わたくしが成りましょう。
それで漸く対になれるのなら、こんな幸福はありません。
わたくしは、照れ屋な貴方が死ぬまで隠し続けていた恋文に毎日返事を描きましょう。
いつまでも、貴方と共に。
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