窓の向こう側から、いつも通りのさんさんとした太陽が注ぎ込んでくる。
カーテン越しとはいえ、相変わらずの強い日差しだ。慣れていなければあっという間に参ってしまうくらいの、強い日差し。
でも、僕はこの太陽の日差しが好きだ。
どことなく、生きているって感じがするから。
ふと、本当に何となく、立てかけてある相棒――コントラバスに触れ、調律。弓を手に取り、ゆっくりと奏でる。
ゆったりとした低音が響き、それは次第に僕を中心に音楽を奏でていく。
もちろん奏でる曲は即興。譜面はすべて、僕の頭の中。
最初はゆっくりとしたプレリュード。そしていつも練習用に使っているエチュードへ。
いつの間にか、窓辺には小鳥たちが集まっていた。
何時しか偉い人が言っていたっけ。人って言うのはヒエラルキーの上の方にいるから何とかって……
でも、演奏中はあんまり関係ないみたいだ。集まった小鳥は、眠そうに身を寄せ合ってうとうとしていた。
思わず笑みがこぼれる。
(だったら、こんな感じの曲調はどうかな)
そこからは、僕自身が考えたノクターン、レクイエムと繋げる。ゆったりとした曲調。子守歌のような音の流れは、僕にとってもお気に入りだった。
そして、そのままフィナーレに入ろうとしたとき――
「クフェア、今大丈夫?」
ツーノックしてから、部屋に入ってくる母さん。ぎゅっ、という異音を響かせて一度演奏を止め、相棒を所定の位置に立て直す。
「どうしたの、母さん」
いつの間にか書いていた汗を拭いながら、僕は問いかける。すると、母さんは小さなメモ紙をエプロンのポケットから取り出して
「ちょっと買い物、頼まれてくれないかしら」
そんな風に僕に言った。
さっき、買い物行ってきてたよね、と僕が問いかけると、たはは、と苦笑していた。どうやら、その買い物の途中で友達と世間話に花を咲かせてしまい、買うのを忘れたものがいくつかあったのだとか。
「しょうがないなぁ。任せて」
母さんからお金を受け取り「次いでにおやつのリンゴも買ってきていい」という約束も取り付けて、僕は家を出る。
たたっ、と駆け足になりながら目的のお店へ向かう。
家を出て少し。ふと上を見上げると、西の空が黒く染まっていた。
嫌な色の雲だ。あんな色の雲が見えたら、もうすぐ嵐か何かが来るって、少し前に父さんが言っていた気がする。
少し、急ごうかな。小さくつぶやいてから、頭の中に周辺の地図を組み上げる。
(よし、あの裏路地からなら最速で行ける、かな)
そんな風に思いながら、くんっ、と方向転換。地面を蹴り抜き、思い切り加速して裏路地に入る。
入り組んだ裏路地。段差や壁、食材が入っていた木箱や鉄パイプが露出している場所を――
「よっと」
速度を殺さずにワンステップで木箱に飛び乗り、そこからもう一跳びして片手で鉄パイプをつかむ。
捕まった勢いで体を揺らし、遠心力を使って大きくジャンプ。少し離れた建物に飛び乗る。
くるり、と受け身をとりながら再加速、次の壁で三角跳び。自分に身長より少し高い壁に楽々飛び乗る。
進行方向をコンマ数秒で確認。飛び乗った方向と真逆とわかった瞬間そのままエアリアル、いわゆる側宙からのバク中で方向を転換。着地の力を溜めて、再び思い切り飛び出す。
駆け出してそのまま、思い切りジャンプ。走り幅跳びの要領で距離を稼いで、向かいの建物に飛び移る。
そこから段々になっている建物をくるくると回りながら走って降り、目的の店に到着する。
身体を動かしまくって汗だくの僕を見て、店主のお兄さんはちょっと驚いていたけれど、ちょっと近道ついでに走ってきたと、嘘でもない嘘をついてみる。そんな嘘は当たり前のように彼は解っていたみたいで、苦笑しながら目的の品物を渡すと、オマケと言いつつお茶の入ったスキットルを渡してくれる。
お金を払って店を出ると、嫌な色の雲はいつの間にか消えていて、空は変わらない快晴だった。
ちょっと急いだの、意味なかったじゃん!と心の中でツッコミを入れながら、僕は今度は来た道ではなく、大通りをゆっくりと歩きながら家へ戻るのだった。
短編 クフェア編~駆け抜けてどこまでも~
クフェア・タイニーくんの情報をお借りし、チョイとした短編を書いてみました。
彼の「特技はアクロバット」というところをピックアップし、パルクール、フリーランニング的な描写を描いてみました
正直、もうちょっと書きたかったのですが全力出したら字数制限を超えてしまい……(ムネン
今作や「Two Ideal」を読んでみた方なら既にお察しかと思いますが、本来の自分の作風はこんな感じです。人の動きを思い切り描くのが得意です。それゆえに、本職はゴリゴリのバトルシーンが得意です。
影響されたのが菌糸類のせいなのか、そんな感じの描写が好きです、得意です。(上手、とは言っていないです
そのうち、アウルムくんの短編もかきます。
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