人形は、はっきり言って、すごくいいヤツだった。
機械の事を何も解っていない僕が、何か無茶な事をしても、咎めずに1つ1つ正してくれた。
最初は、僕がMasterだからかとも思ってたけど、仕事に遅れそうな時には怒られたから、そうでもないみたいだ。
そのくせ、初日に何でも訊いていいと言ってやったせいか、僕が暇な時を狙って、あれこれ訊いてくる様子は、未来たちと何ら変わらない。
まるで、本当の子供みたいだなんて、思ってしまっていた。
~箱庭にて~
五章
「あんた、最近生き生きしてるわよね」
遊び疲れて、眠ってしまった未来たち3人を見ていた時、不意に芽衣子が話しかけてきた。
「生き生きしてるって?」
「だって…その…お父さんが亡くなられたのに、魁斗がやけに元気だから…無理してるんじゃないかって…」
「あぁ…そういう事か」
言いにくそうにしている芽衣子に、僕は笑ってみせた。
「そんなに無理はしてないよ。してるのかもしれないけど…でも僕はそんなつもりはない」
「でも…今日だって…帰って、くるんでしょ?なのにどうして…そんなに普通で、いられるの?」
「普通、ね…そう見える?」
僕が訊き返すと、芽衣子はおずおずと頷く。
軍からの連絡によれば、父が…父の遺体が今日、僕の元へ帰ってくるらしい。
あの"荷物"の事もあり、父の死に対して落ち着いてはいるが、やはり、気楽ではいられない。
芽衣子が言うほど、普通ではいられていないと思うんだが。
「そうだな…いつまでもめそめそしてたんじゃ、ここでは生きていけないし…それに、なんか父さんに怒られそうで」
泣いているだけじゃ生きていけない。
小さい頃、父がいなくなって塞ぎ込んでいた時に、芽衣子から言われた言葉だ。
あれが当時の僕には衝撃で、それ以来、ほとんど泣かなくなったような気がする。
…そういえば、芽衣子が泣いたところなんて、見た事がない。
自分だって両親がいなくて、寂しいだろうに…本当に、芽衣子はすごい。
「そうね。でも…機械に殺されたんじゃないかって思うと、なんだか私も悔しくて…ごめんなさい、こんな事言って」
機械という単語に、内心ドキリとする。
芽衣子の父親も、兵として箱庭の外へ行って、機械の一体に、殺された。
多分、僕の父も…。
だから、"生き生きしてる"理由が何か、すぐに解ったけど、絶対に言えなかった。
機械を所有している事を知られたら消されるからとか、そういう事じゃない。
その前に、芽衣子に嫌な思いをさせるのが、嫌だったから。
僕にとって芽衣子は姉同然。
一緒にお母さんのところで育ってきたし…彼女が僕から離れていってしまうのは、寂しかった。
「…本当に、どうして人間は、機械なんか作ったのかしらね」
彼女の声に、悲しみと同じくらい、憎しみも込められていて、僕は何も言えなかった。
「…魁斗」
ちょうどその時に、背後からお母さんに声をかけられて、振り向く。
芽衣子には悪いが、ちょっとほっとした。
「軍の方がみえたわ」
「…うん」
とうとう来たか。
一度だけ芽衣子を見て、立ち上がる。
「じゃあ…また」
芽衣子は何も言わずに頷いただけだった。
浅く息を吐いて、部屋を出る。
軽く肩を叩いてくれたお母さんに微笑して、建物の外へ行くと、軍人が数人、僕を待っていた。
1言2言、言葉を交わした気がするが、覚えていない。
覚えていたくなかったのかもしれない。
「…こっちです」
僕の家は、この建物からそう遠くない。
ド下手な案内でも、10分強ほどで着ける。
だが、誰もほとんど何も言わないせいか、場の空気が重くのしかかってくるようで…何十分も何時間もかかったように感じた。
ようやく家に着いた時には、思わず息を詰めていた事に気付いて、盛大に溜め息を吐いてしまった。
「…では、我々はこれで」
「はい、あの…ありがとうございました」
一応頭を下げて、去っていく軍人たちを見送る。
引き返してこない事を確認して、僕はあの機械の部屋へと向かった。
「…起きて」
僕の呼びかけに、眠っていた人形がぱちりと目を開けて、僕を見返す。
「ちょっと、見てもらいたいものがあるんだ」
『みてもらいたいもの…でもボクは、あまりここをでたら…』
「今日は特別。大丈夫、誰も来ないから。おいで」
この箱庭の人口は、昔と比べるとずっと少ない。
この家の近所にも、ほとんど人が住んでいない。
優しく声をかけ続けてやっと、不安げにではあるが、彼は箱と自分とを繋げていた色鮮やかな紐を引き抜いて、僕の元へ歩いてきた。
そのまま部屋の外へと、僕に手を引かれるままに、ついてくる。
玄関近くまで来ると、やはり人を警戒しているのか、足が止まりかけたが、僕に促されて、恐々家の外に出た。
「外に来るとは思ってなかった?」
僕の問いに頷いて、彼は人のいない通りから隠れるように、僕の手をぎゅっと握って、ぴったりと寄り添う。
その様子に苦笑して、家の裏に回る。
さっきまで、軍人たちといた場所。
地に掘られた穴のすぐ傍らに、粗末な棺。
「…僕の父さんだよ。君を、作った人」
不思議そうに、彼が見上げてくるのが解った。
だが僕は、その視線を受け止められずに、ただ棺を見つめていた。
今まで人が死にすぎて、墓地が空いてない。
それだけの理由で、父がこの家に帰ってきたのが、なんとなく寂しくて、なんとなく腹立たしかった。
「馬鹿な人だと思う。禁じられてるのに機械を作って、軍に行った後も隠してて…敵の機械をこっそり調べようとして、やられたんだって」
軍人から渡された書類に書いてあった。
読みたくなかったけど、読んでしまったのは…やはり、自分の父を知りたいという気持ちがあったんだろう。
「どうして、機械に興味を持ってしまったんだろうね」
深入りしたら死ぬと解っていたはずなのに。
ずっと持っていた、父の体に埋まっていたという弾丸を、見上げてくる彼の手を、握りしめる。
「どうして…君は"僕"なんだろうね」
彼の姿を僕に似せて、父は"僕"に何を託したのだろう。
どうして。どうして…。
嫌になるくらい頭が冷めていて、涙なんか、出なかった。
【勝手に解釈】箱庭にて 五章
自分で言うのもどうかと思いますが…。
なんぞこれorz
不思議の国以来のスランプの予感が…!
とりあえず芽衣子さんの設定は書けましたし、歌詞の続きにも進めましたので、私としては、進み具合はいい感じかな、と思ってます。
でも何か…私が考えてたのと違う方向に進みつつありまして…。
その事自体は、今までも何度もあったので、単に話を書く分には平気なんですが、このままだと、暗いわ重いわ、そんな話になるかと…(滝汗
[追記]
原曲のリンク貼るのを忘れてました(汗
こちらです。
「オールドラジオ」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3349197
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