陽も焼かない廃墟の片隅に座って
顔も分からない誰かをずっと待っている
揺らいだ花の香は私の身体をすり抜けて
錆色の世界に溶けて消えた
待っている
手を伸ばしても掴めるのは枯れた夏の大気だけ
閉ざされた廃墟
眠れる繭 或いは揺り籠の中
誰かをずっと待っている
冷たさも暖かさも感じないこの場所に
誰かが来るはずもないのに
夢を見たんだ
海岸を歩く夢
身体が自由が利かず歩いていく。
あの灯台の一番上にあなたがいる
一秒でも早く会わないといけないのに届かない
全てが消えてしまう前に、忘れてしまう前に
会いたい
言葉は時雨、廃墟の中で
声を編んで届けようとするのに
誰も此処には来ないから
廃材の様に積み上がる心
手を伸ばして、空を切る手の中
夢の中のあの人だけが
この夜を越えてくれる。
母胎の街が私を呼ぶ
廃墟と揺れる生命の声
何年待っただろう
生まれ変わった身体でも良いから
この日々を抜けないと
冷たさも暖かさも感じないこの場所に
誰かが来るはずもないのに
夢を見たんだ
夏の丘を歩く夢
身体が自由が利かず歩いていく。
向日葵畑の停留所にあなたがいる
一秒でも早く会わないといけないのに届かない
全てが消えてしまう前に、忘れてしまう前に
言葉を遺したい
時間は一会、廃墟の中で
声を束ねて伝えようとするのに
誰も此処では見えないから
廃頽の色に染み付いた藍
手を伸ばして、夜をなぞる日の中
夢の中のあの人の足音が
何処かで鳴った気がした。
夕暮れの校舎、神社の鳥居前、廃駅、無人病棟
幾つもの夢を編んであなたを探した
最後の夢、月の真ん中
その姿を見た
何十年も何百年も姿を変えて
何十回も何百回も歩いて
その先であなたに追いついた
拝眉は久遠、夜空の中で
時を重ねて幾度も夢を見て
「言葉は時雨、廃墟の中で
声を編んで届けようとするのに
誰も此処には来ないから
廃材の様に積み上がる心
手を伸ばして、空を切る手の中
夢の中のあの人だけが
この夜を越えてくれる」
と言っていた。
出会いは別れ、廃墟の中で
夢を編んであなたに届いたんだ
誰も此処には来ないから
空想の中で積み上げた音も
手を伸ばして、掴むあなたの手
夢の中で泡沫と揺蕩って
この夜が光った。
胎動が終わる。
その日に私は生まれ落ちた。
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