「カガリビト」2章【ココロ】③の続きです。



【ハロー、プラネット。】

その部屋には、小さなベッド、テレビのみが置いてあり、壁には大きく『02』と数字が書いてあった。しばらく人が住んでいないのか、かなりホコリが溜まっている。
そして何故か、部屋の中央に小さな郵便ポストが設置されていた。
「郵便ポスト・・・?」
僕は郵便ポストを開けてみた。
「あ・・・」
手紙が一通落ちてきた。
その手紙には宛名も差出人も書いていなかった。
僕は悪いと思いながらも、他にヒントになりそうな物も無いので、仕方なく中を見た。
「『きみときみのあいするひとへ』・・・?」
中にはそうとだけ書いた紙が入っていた。
「あ・・・・カガリ火?」
一見すると、なんの変哲もない手紙だが、その手紙には小さな小さなカガリ火が込められていた。
「うーん、小さすぎるなぁ・・・」
カガリ火を通して、何が起きたかを見ることもできるが、この手紙の火では余りに小さすぎた。
「仕方がない・・・。探すか・・・」
僕は手紙を持ってその部屋を出た。
そして僕は、外の景色を見て愕然とした。
空には厚い暗雲が立ち込め、地上は果てしなく続く灰色の大地。そこら中に散らばる瓦礫の山と動物の骨。
何よりもカガリ火が一切ないのだ。命あるモノには多かれ少なかれ必ずカガリ火が燃えているものだ。人はもちろん、動物だって、草にだって。ただ、この世界では、全くカガリ火が燃えているものが無かった。
「うわぁ・・・」
こんな光景は生まれて初めてだった。まるで世界そのものが死んでしまったようだ。
振り返ってさっき出てきた建物を見ると、そこは『02』と書かれたシェルターだった。

僕はとにかく、シェルターの出口からまっすぐに歩いてみた。
きっと、あのシェルターからスタートしたということは、あそこに住んでいた人物が関係しているのだろうと思ったからだ。
しばらく歩いていると、小さな青い歯車のようなものが落ちていた。
「?・・・これは?」
拾って見てみるも、用途は全くわからない。
ただ、その歯車の中にカガリ火の燃え残りを見た。
それは植木鉢を持った緑の髪の少女が、あの『02』のシェルターを飛び出し、歩いていく映像だった。
映像を見終わると、燃え残りは消えてしまった。
「これは・・・ミカエラ?」
僕は、ルシフォニアで会った、緑の髪の少女を思い出した。


僕は歩いた。
痛む身体に鞭打って歩いた。
途中、何個かシェルターがあったので、立ち寄って、食料の確保と短い休憩をした。
目を閉じるといつもあの夢を見た。

燃え上がる大地、落ちてきた青空、死に絶えた生命、そして、緑の髪のボロボロのロボット・・・。

目を覚まし、僕はまた歩きだす。

しばらく歩くと、赤いお花のバッジが落ちていた。その燃え残りには懸命に歩く緑髪の少女の姿が映っていた。

雨が降ってきた。重く冷たい雨だった。僕は瓦礫の影で雨宿りをした。震える身体を小さくして、雨が止むのを待った。手紙の小さなカガリ火が暖かかった。

麦の入った袋、辞書、石版・・・。彼女の落とした物を拾うたび、その中の懸命に歩く姿に励まされた。

彼女の跡を追い、人間の遺跡に入り迷い、彼女の記録に習い気球を作り、溶岩地帯を飛び越えた。

矢印、香水、ガラス玉・・・。何の変哲のないこれらはきっと、彼女にとって大切な宝物だったのだろう。

気球から、大きな月を眺める。

もう疲れた・・・いっそ辞めてしまおうか・・・僕は一体、何の為に頑張っているのだろうか・・・。
兄さん・・・兄さんはきっと、こういう運命から僕を開放しようとしてくれていたんだよね・・・ありがとうね、兄さん・・・。

今までに出会った人たちの顔、そして、夢の中で見た緑の髪のボロボロのロボットの姿が思い出される。


「・・・・でも、兄さん、僕は辞める訳にはいかないんだ」


そのまま目を閉じて眠った。またあの夢を見た。

燃え上がる大地、落ちてきた青空、死に絶えた生命、そして、緑の髪のボロボロのロボット・・・。だんだん夢が鮮明になってきた。どこか教会のような場所でロボットは倒れているようだ。


雨が強くなって、気球が使えなくなった。
僕は気球を降りて、再び歩きだした。

ベル、つるはし、大きな鍵・・・。残り火の中のロボットもボロボロになっていくのが分かる。それでも、彼女は前を見て歩き続けた。そして、僕も彼女と同じように歩き続けた・・・・・・


ついにたどり着いた。
丘の上の小さな教会。
そこはこの世界では珍しいことに、ほとんど無傷のまま、そこに建っていた。

僕は、左手でその重たいドアを開けた。
中は広く、正面には十字架の付いた祭壇があり、ステンドグラスから差し込む光で明るく照らされていた。
「あっ・・・!!」
祭壇の少し手前、緑の髪のボロボロのロボットが倒れていた。
「ミカエラ!!」
僕はロボットに駆け寄った。
ロボットは本当にボロボロだった。左手は千切れ、所々塗装が剥げ、汚れで黒ずみ、そこら中ヒビが入っていた。そして、その傍らには土の入った小さな植木鉢が落ちていた。
「ヒドイ・・・ボロボロじゃないか・・・」

「お前だってボロボロじゃないか」

背後で声がした。
「?!・・・エレク兄さん!」
背後のドア近くにエレク兄さんが立っていた。
「エレク兄さん・・・!この子に一体何をしたんだ!?」
僕は大声で怒鳴った。
「俺は何もしていない。俺が来たときには既にその子は完全に壊れていた。この世界はこういう運命だったんだ」
僕は兄さんを睨みつけた。
兄さんは優しい口調続けた。
「なぁ、アレク、もう終わりにしよう。俺たちカガリビトが身を粉にして物語を紡いだ所で何になる?俺たちが・・・いや、お前が犠牲になる必要は無いんじゃないか?」
僕は、言い返せなかった。
「俺たちが居なくても、物語は進む。だからアレク、一緒に帰ろう。な?」
兄さんは僕に手を差し伸べた。
僕は首を横に振った。
「アレク・・・!どうして?」
「・・・・ごめん、兄さん・・・。もう少し、もう少しなんだ。もう少しで答えが見つかりそうなんだ・・・。もう少しだけ待ってほしいんだ・・・」
エレク兄さんは振り返り、教会のドアに手をかけた。
「・・・わかった。次の物語で待ってるよ」
そう言うと教会を出ていった。

僕は自分の身体を見た。
「ホントだ。ボロボロだ」
少し笑えた。
「さて、と・・・」
僕は改めてロボットを見た。ロボットも本当にボロボロだった。完全に稼働していない。当然その中のカガリ火も消えている。
本当にこんな壊れた子のカガリ火を燃やして何かなるのだろうか?そんな疑問が頭の中に浮かぶ。
僕は最初のシェルターから持ってきた手紙を広げる。
『きみときみのあいするひとをたいせつにね』
愛する人・・・大切に・・・・。
大切にするって言うのは難しい事だと思った。僕はエレク兄さんからすごく大切にされている。でも、僕はそれを正しいとは思えない。

じゃあ、僕が正しいと思う事はなんなのだろう・・・?

僕は大きく息を吸い込み、手紙からカガリ火を吸い込んだ。
そして、僕は叫んだ。
「我が右目を犠牲にし、この者にカガリ火を灯したまえ!!」
僕は折れた右手を左手で支え、彼女の胸にあてがった。
右目の視界が真っ赤になる。痛い。すごく痛い。
右手を通して、カガリ火が彼女の体内に入っていく。
「ハァハァ・・・あっ!」
彼女の中に入ったカガリ火は、少しの間燃えると、まるで穴のあいたバケツに水を入れた様に、みるみる小さくなって消えてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
僕は彼女を見つめた。彼女は相変わらず生気の無い顔をしている。
「・・・・・やっぱり僕のしてきた事は無駄だったのかな?」

『いい?アレク。アレクが諦めちゃったら、それこそ物語は終了よ?どんなに辛くても必ず希望を捨てたら絶対ダメだよ?』
急にミカエラの事が思い出された。このロボットと彼女がそっくりだからだろうか?
「ミカエラ・・・」

僕は今まで出会った皆の顔を思い出した。

ガスト・・・
リリアンヌ・・・
アレン・・・
ミカエラ・・・

レンジさん・・・
リンダさん・・・
リン・・・

僕が諦めたら、この物語はここで終わってしまう。
こんな悲しい結末は絶対にイヤだ。
物語を・・・物語を・・・結末へと導くんだ!!

僕は深く息を吸い込んだ。
「我が命の炎を贄とし、この者にカガリ火を灯したまえ!!」
僕は再び、右手を彼女の胸にあてがった。

炎が注入される。しかし、すぐに小さくなる。
「もっと、もっとだ・・・!!」
絶え間なく炎を注入する。
次第に彼女の身体が温かくなる。それに、比例するように僕の身体が冷たくなる。
「もっと!!いっけえええええぇーーーー!!・・・」






「ポタッ・・・・」





彼女の目から、たった一粒の水滴が溢れ、植木鉢に入った。
そして、カガリ火は再び消えた。

この一瞬の間に、彼女に何が起き、彼女が何を見たかは誰にも分からない。
でも、その表情は以前よりも安らかに、まるで人間のように微笑んでいた。

僕はそのまま気を失った。


夢を見た。
クチナシの花の揺れる丘、一人佇む白髪の青年、そして・・・・。



どの位気を失っていたのか、僕は目を覚ました。
「・・・・生きてる?」
僕は自分の身体を確かめた。身体中あちこち痛い。もう、どこが無くなっていてどこがあるのか分からない。それでも生きていた。
「あっ・・・・」
緑髪のロボットが大事そうに抱えている植木鉢。その中から小さな小さな芽が出ていた。
僕にはその小さな芽が、眩し過ぎて直視出来なかった。
一見すると緑色の普通の小さな芽だったが、その中に、まるで世界中全てのカガリ火を集めたような大きな大きなカガリ火を宿していた。


「あぁ、良かった・・・・」



僕は立ち上がった。
一歩、また一歩と動かない義足を前へ出す。
「やっと分かったよ・・・兄さん・・・」

そして、教会のドアを開けた。

僕はボロボロになった身体を引きずりながら、心に最後の火を灯した。
「僕が、守らなきゃ」




「カガリビト」終章へ続く→

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

「カガリビト」3章【ハロー、プラネット。】

※これはmillstones様の素晴らしい楽曲「カガリビト」を元にした「悪ノ娘」「ココロ」「ハロー、プラネット」の二次創作です。私の妄想です。
ちなみに
「カガリビト」・・・楽曲を聞いただけ。設定読んでない。
「悪ノ娘」・・・小説は一回読んだけど実家に置いてきてしまった。
「ココロ」・・・楽曲は聞いた。小説もミュージカルも見てない。
「ハロー、プラネット。」・・・楽曲は聞いた。ゲームやりたいなぁ。
てな感じで、かなり原作様とは食い違っていると思います。勉強不足ですみません。
・あらすじは、カガリビトの少年アレクが楽曲の世界を回ってカガリ火を灯していくお話です。
・中途半端に原作を汚されたく無い方は観ないことをお薦めします。

閲覧数:390

投稿日:2013/01/20 02:02:27

文字数:4,217文字

カテゴリ:小説

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