知ることと分かることは違う。初めて友達と出会った時、僕はそんな事を言われた。爺ちゃんと知り合って爺ちゃんの話を聞いて、初めての冒険で出会った相手にそんなことを言われるなんて思いもしなかったけれど、今はなんとなくだけど言葉の意味を分かりつつある。爺ちゃん風に言うなら百聞は一見に如かず。爺ちゃんと違って友達の言葉は分かりやすくてためになる。友達の言葉は誰の言葉よりも信頼できると僕は思う。
その一方でお前は他人を信じすぎだとも言われたけれど。
それは単に考え方、あるいは生き方の違いだと思う。人を信じず頼らないと明言する友達が普段どんな生活を送っているのか僕は知らないけれど、あえて知ろうとも分かろうとも思わない。生きたい様に生きればいい。これは爺ちゃんの受け売りだけど。
そんな友達にこれから僕は頼りに行こうとしている。師匠に関する情報がほとんど無い以上(爺ちゃんより年上って事がはっきりしたのは救いだ)探すなら仲間が多い方がいい。猫の手も借りたいと言う言葉がぴったりだ。問題は手伝ってくれるかどうかだけど。
結構な長居をしていたらしく寺の正面へ戻るといつも通り人でごった返していた。この寺は結構有名な場所らしく日が高く昇る頃にはいつもこんなもんだ。最初は戸惑ったけど今となっては賑わいもこの寺らしくて僕は気に入っている。友達は絶対に近寄らないだろうけど。人の間を上手く抜け大通りへ出る。この辺は車の通りが多くて正直怖い。まあ、車の間を抜ける必要はないからそれほど危険はないんだけど。寺に大通りに長い坂道、路地裏を通り、公園を目指す。
最初は危険と新鮮に溢れた大冒険だと思えた道も今となってはいつもの通り道だ。あんなにドキドキして通ったのに今は鼻唄混じりだ。慣れてしまうのも考えものだ。
公園にはいつもの様にいつもの顔ぶれが揃っていた。期待通り、というかここまでは予定通りだ。
「ようメイ、今日は珍しく遅いじゃねえか。お天道様が真上だぜ」
でかい声が耳元で響く。相変わらず心臓に悪い挨拶をしてくれる。
「やあ、友達。ちょっと爺ちゃんのところで話し込んじゃってね」
心臓を落ち着かせ、僕は言った。
「ああ、トゲヌキジジイんとこか。お前も相変わらずだな」
「そりゃお互い様さ」
「違いねえ」
友達は豪快に笑う。
僕らは互いに名前を知らない。それは友達がこの公園で強いてるルールが原因で、代わりに呼び名で呼び合うことになってる。「友達」と言うのはほぼ呼び名だ。
「で、今日はなんだ。新しい遊びでも考えたか、それとも冒険の土産話か?」
友達は僕よりも年上で身体だってずっと大きいけどそんなこと気にもせず普通に接してくれる。
「今日はどっちでもないんだ。折り入って頼み事があって」
僕は言った。
「頼み事か。どんな話かは知らんが聞くだけは聞こう。今日は暇だからな」
ベンチに座り友達は言う。いつも暇じゃないか、なんて冗談も今日は控える。
「ありがとう。実は爺ちゃんの師匠を探してるんだ」
僕は知ってること、今日話したことの全てを伝えた。
「というわけなんだ」
「…………」
友達はなんだか難しい顔で唸った。こんな話聞かされたら当然だろう。
「僕はその師匠に会ってみたいんだ。まだ知らない場所の事を聞いてみたいんだ」
「お前の気持ちは分かった。本気なのも伝わった。……だが、どうも気が進まねえ」
友達は続ける。
「お前は俺達がこの街について詳しいから頼りに来たんだろう。確かにお前よりも行動範囲はずっと広いし詳しい。けどな、そんな奴見た奴はこの中には少なくともいない。
「…………」
「それも最近の話じゃない。お前と知り合うずっと前からだ。また大ボラ吹いてるに違いない」
「……………」
「…………。……あー……、つっても、別にそんな奴を探すために俺達は街を歩いてるわけじゃないからな。……見逃してる可能性もある。
……だからまあなんだ、その目でコッチを見るな。協力してやるからその顔はやめてくれ。これじゃ俺が虐めてるみたいじゃないか」
それがどんな顔だったのかわからないけれど、頑固な友達から協力を得れるくらいの顔だったらしい。
僕は協力を取り付けられて満足だ。
「……ったく、単純な野郎だ。そういうなんでも真っ直ぐに見る目が嫌いなんだよ。一度痛い目を見た方がいいのかもな」
「? 痛い目になら何度も遭ってるよ?」
「……はん、違いねえ」
友達は吐き捨てるように言った。
意味がわからなかった。
この日は友達の協力を取り付けられたことで満足し、僕は家で眠りについた。
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