ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#17】



 るかさんの帰りが遅いような気がする。るかさんがうちにくるのは初めてじゃないはずだけれど、まさか迷っているのかしら。そんな風に思いながら、ふと、机の上に何もないことに気づく。
「いやだわ、お客様が来ているっていうのに。お茶の一つも出さないで……」
「あ、いいんだ、構わないで」
 椅子を引いて立ち上がりかけた私を、慌てた風のかいとが引きとめる。……そういえば、かいとはうちでお客あつかいされたことがなかったっけ。いまさら改まって客あつかいされると、委縮してしまうかもしれない。せっかく雰囲気も和んだところなのに。
 それにしても、いくら慌てていたからって、かいとが立ち上がらなくてもいいのに。
 ふふっと笑みを洩らすと、机に手をついて立ち上がったままのかいとが、すこしだけ首をかしげる(ほんとうに、仔犬のようだ。しぐれの仕草にすこし似ている気がする)。座っていいのよ、と促すと、彼ははっとして、それからあたふたと椅子に収まった。立つとあんなに上背がある男のひとが、こうしてちょこんと縮こまっているのは、初めて見るものじゃないにしても、すこし滑稽だ(という言い方をしては、かいとが可哀そうかと思うけれど)。妙にへりくだった態度のひとや、妙に緊張した風のひとを見るのは好きではないけれど、かいとの仕草だというだけでゆるせてしまうとは、私もいよいよなにかの悪い病気かもしれない。
「背、高くなったのね。小さい頃は私と変わらなかったのに」
「そりゃあ男だから」
 めいこよりはね、なんて、ちょっと心外そうに言う。私もいまさら背の高さを競おうとは思わないけれど、小さい頃なら、かいとの方が私より背が高いなんて、絶対に認めたくなかっただろう(男の子には負けたくなかったのだ)。
 それにしても、
「ちょっと男らしくなったんじゃない、前は女の子みたいだって言われてばかにされていたのに」
 幼少の頃のあのまるくてふにふにした可愛らしい印象は、見事に薄れている。鋭角的、というには鋭さが足りなくて、剛健というには、やわらかい。目の前のかいとはそんな印象だ。
 私が成長していたように、かいとも成長していたのだと、この目に見えることが嬉しかった。
「……めいこは」
「ん?」
「めいこは、その……とても綺麗になったと思うよ」
 ……ん?
 一瞬遅れて、頬に火が灯る。
「な、何言って……!」
「え、あ、いや、でも嘘なんかじゃなくて、俺、本当にめいこは綺麗になったと思って……!」
 なんていうことなの、爆風にあてられた気分ね、あっつくて死にそう!
 でもそれは、爆弾を放った側のかいとも同じようで、真っ赤になりながら視線をそらしてしまった。『言ってしまった』と言わんばかりに口に手を当てて斜め下の床を見ている。
「もう……」
 いつの間にそんなお世辞まで言えるようになったのかしら、なんて思ってしまう。きれい、かわいい、すてきだ――外見について褒められたことなんてそれこそ数知れない。似たような褒め言葉は聴きあきるくらい言われていたはずなのに、どうしても口角が上がってしまう。勝手ににやつく表情を抑えようとしてみるが、うまくいっているだろうか。
 でも、お世辞だとわかっていても、これほどくすぐったいのは……少しでもうれしいと思ってしまうのは、やっぱり、そういうことなのだろう。
「ご、ごめん……」
 さっきの呟きが、よほど気分を害した風に聞こえたのだろうか、それとも私の表情がしかめ面にでも見えたのだろうか。かいとはしょげた声で謝罪の言葉を零した。その様が、昔のかいとの面影を存分に残していて、私は思わず顔を綻ばせた。
 私が食ってかかったとき、けんかになりそうなとき、真っ先に謝るのはかいとだった――謝らなくてもいいときに謝ってしまうわるい癖は、幼いころから変わっていないみたいだ。
「でも、嬉しい」
「え?」
 ぽつりと呟いた言葉のつもりだったのに、かいとは耳聡く訊き返してきた。
「こうしてまたゆっくり話せるなんて夢にも思わなかったから」
 ほんとうに、夢みたいだ。こうしてかいとがここいいることも、話をしていることも、また会えたことも。今この現実が夢なら、さめなければいい。
 ――そうして、あの手紙を送ったことも、間近に控えている結婚のことも、全部、夢みたいに消えて忘れてなくなってくれたらもっといい。

 いや。
 なくなることなんてない。夢はいずれさめる。居心地のいい夢なら、終わらせなければ。
 現実に戻るのがつらくなるまえに。

「――ところで、何しにきたの?」
「え」
 自分でも、びっくりするくらいつめたい声が出た。いつぶりだろう、こんなに冷たい声を出すのは。
 ああ、でも、できることなら、このひとに向かって、こんな声で語りかけたくなんかなかった。
「お手紙は届いたのかしら」
「う、うん」
 胸がちくりと痛む。
「それで、俺」
「私、結婚するのよ。このあたりで一番の富豪のお家に嫁入りするの。神威というお家よ。大きな会社をいくつももっていて、経営も安定していて、何不自由なく暮らせる保証をいただいたわ」
 なにか言いかけたかいとを遮って、言いたいことばかりをつらつら述べる。途中で何度か口を挟もうとしていたかいとが、そのたびに口を噤んで、痛々しい表情を浮かべた。
「旦那様になるひともいいひとで」
 うそつき。そんな風に思ったことなんて、一度もないくせに。
「私のことをいちばんに考えてくれる、優しいひとだわ。この間の衣装合わせでも、衣装が重すぎるとわがままを言ったら、衣装屋にかけあってすぐなんとかしてくれたわ。今日も一緒にお芝居を見に行ってきたのよ。とてもたのしかったわ」
 うそつき。そんなことを望んだことなんて、一度もないくせに。
「すごく素敵な殿方よ。だから」
 私はいつからこんなにすらすらとうそをつける人間になったのだろう。
「心配しないで?」
 しあわせだから、と、呟いた声は、はたしてきちんとしあわせそうだっただろうか。にっこり笑ってみせた笑顔は、きちんときれいに見えていただろうか。
 彼は、ふっと目を伏せた。その次にはどんな表情をするのだろう。手紙を何年もやりとりして、期待をもたるようなことをしておいて、勝手な女だとののしるだろうか。昔とはずいぶん変わったね、と、あわれむような目で私を見るだろうか。
 それとも、彼は――
「――そっか」

 ふんわりと、それでいてしっとりと、笑った。
 その表情に、心臓が止まるかと思った。

「幸せなら、いいんだ」
 かいとの声は、落ち着いていた。秋風のように軽くかさついた声だった。
 違う、そんな顔をさせたいんじゃない――叫んだつもりだったのに、さっきあんなに臆面もなく薄っぺらい言葉を吐いていた口はまったく動かなかった。
「縛り付けてごめん」
 縛り付ける――なにを、誰を? 家に縛り付けられていた私を外に連れ出してくれたことはあっても、私はあなたに縛られた覚えなんてない。結婚や家のつきあい、しきたりにがんじがらめされて凝っていた私のこころを解したのは、他でもないあなたの手紙だったのに。お願いだから、そんな風にいわないで。
「俺は大丈夫だから、そんな顔しないで昔みたいに笑って?」
「何を言ってるの」
 そんな顔しないで。昔みたいに笑って。それは、こっちが言いたいわ! 大丈夫、なんて、そんな泣きそうな顔で言われても、ぜんぜん説得力なんかない。泣き虫かいとのくせに、へなちょこかいとのくせに、なんでそんな風に笑うのよ……!
 そうだ、突然こんな話をしてごめんなさいと言えばいいのだ。ほんとうはすごく会いたかったのだと、今でも昔の約束をばかみたいにたいせつに思って生きてきたのだと、かいと以外のひとと結婚なんかしたくないのだと、言ってしまえば――
「今までありがとう。幸せになってね」

 けれどそれは、さようなら、を、告げるには、あまりにも痛ましい笑顔だった。

 小さく会釈をして出て行こうとするかいとを、引きとめることなんてできるはずもなく、茫としながら、こわばった笑顔で見送ることしかできなかった。
 かいとは、むかしからうそのへたなひとだった。
「うそつき」
 大人になった私はじゅうぶんうそつきだけれど、大人になった彼もじゅうぶんにうそつきだった。
 かいとは、傷ついていた。そのくせ、無理に笑おうとしていた。
「うそつきっ……!」
 誰に向けた罵倒なのか、わからないまま、笑顔の剥がれない頬に涙が伝った。

 せめてごめんなさいと、ひとこと言いたかったけれど、そんなこと言える立場じゃないのだ。
 だってほら、自分からさようならを告げたくなくて、かいとからさようならを言わせるように仕向けたんだ。
 最後まで、うそでも笑顔でいてくれようとしたほどのかいとに、私がしたのはそういうことだ。
 かいとはきっと無神経な私を軽蔑しただろう。嫌いになっただろうか。
 そうだ、それでも彼は私のしあわせを願ってくれたじゃないか。さようならと、私が言ってほしかった言葉をくれたじゃないか。これ以上彼になにを望むというのだ。
 まさか、かいとがなんとかしてくれる、なんて。かいとが私をこの現実から救ってくれるなんて、そんなの、そんなの。
「もう、手遅れよ……!」
 取り返しがつかないほど手遅れな状態にしたのは私。こんな風にしたのは私。かいとは何もわるくない。何もわるくないのに、ひどいことをしたのは私だ。もうどうやっても覆ることなんてない現実を、この状況にあきらめて甘んじるために、かいとを傷つけたのだ。自分のために、かいとを傷つけたのだ。なんて最低な。なんて卑劣な。
 思わずぎゅっと瞑った目頭が、思わずぎゅっと握りしめた拳が、液体をはらんで痛んだ。けれど、この程度で、痛がってはいけない、と、思った。
 だって、彼はもっともっと痛がっていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#17】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、うそつきになるの巻。

めえぇぇぇぇちゃあぁぁぁぁん! ってなったひとは私と握手しましょ、握手。
かいとくんのセリフは先にぷけさんから貰って泣きそうになってたのですが、
紅猫を書く際、ちょうど件のかいとのセリフ書いてるときにカゲフミ聞こえてきて
泣きそうになりました。書きながら泣きそうって何事。めーちゃんに感情移入し過ぎ。

あ、実はこのあたりから執筆速度が劇的に遅くなってましたね。卒業論文のための
調査があってですね。……うん、学生生活最後の大仕事なんです、よ……!(泣
野良犬は毎回1話分以上はストックして投下してるので、話じたいはもう19話まで
できていたりしますが、執筆が遅いので投下も遅くなって……相方にも読者にも
申し訳ないです……! 2月まではこんな調子だと思います、気長にお待ち下さい!

青犬編では、かいとくんが必死にお話しようとしてくれてるようなので、こちらも是非!

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かいと視点の【青犬編】はぷけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:446

投稿日:2009/10/18 23:06:54

文字数:4,263文字

カテゴリ:小説

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    つんばる

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    コメントありがとうございますー!

    わーい、西の風さんとあくしゅあくしゅ! めーちゃんファンにもかいとくんファンにも
    怒られやしないかとびくびくしてたのですよ、めーちゃん泣いてるし!

    だいじなものを壊したいのは、大概ある話だと思います。それを実際にやると、ヤンデレと
    呼ばれるわけですが、とくにめずらしいってわけじゃないんじゃないですかね。
    よくなるかどうかもわからないから、今の状態が心地いいから、そこで時を停めてしまいたいと
    思うのは自身にも覚えがある話です。

    なんかいろいろ書いていただいてありがとうございます、読み手になにか訴えられるような
    話になっていたんだなと思って安心しました。続きはゆっくりお待ちくださいー!

    2009/10/20 19:24:50

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    …(←言葉もないことを示す三点リーダ)。

    …は。これでは何の感想にもならないですね。スミマセン、西の風です。
    叫ぶことも出来ないくらい凍り付いてしまいました。…これは握手フラグになるのでしょうか?(何

    ああ、でも、大切なものほど、壊してしまいたくなる、のかもしれませんね。終わらせることで変わりゆく様を見ずに済みますから。
    良くも悪くも変わっていってしまうものだから、良くなると思えないのなら、自ら終止符を打たずにはいられなくなるのかもしれません。
    …なんだかずれて変なこと語り始めたので自重します(苦笑)。

    自分を何処までも傷つけてしまえるくらい深く思っているのだな、とか。
    同じ痛みを、同じように、抱えることが出来ているのなら。それもまた繋がりの証なのかな、とか。
    辛いからこそ希望を探してしまいつつ、続きをゆっくりとお待ちしております。長文乱文にて失礼しましたっ

    2009/10/20 01:10:27

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