ある放課後、俺…久太は学校内バラ園を散歩していた。
「春だなぁ…。」
桜は散ってしまっても、春の暖かさは変わらない。俺はベンチに腰掛け、眠ろうとするー…。
『んー、可愛いなぁっ!』
(……?)
バラ園の隅から、甘ったるい声が聞こえる。
『わーっ、バカ…やめろよ。そんなになめるなよ~っ!』
それも、この声には聞き覚えがある。
少しかすれた(いいように言えばハスキーボイス)男子生徒の声。この声は光輝で間違いないだろう。
(何やってるんだ…?)
俺は声がする茂みの中へ入る。
「光輝…?」
茂みの中にいた光輝は、激しく体をビクッとさせる。そして…抱えている『何か』を隠した。
「お、おおおおおう…久太…。」
裏地がヒョウ柄の学ランとは似つかないほどにガクガクと震えながら、光輝が俺を見た。
俺は優しく問う。
「何を隠したの?」
光輝は宙を目で仰ぐ。
「え、ええ~?何も~?」
やっぱり誤魔化した。ここで引き下がるほど俺は潔くないんだなぁ…。
「何 を 隠 し た の ?」
俺はにっこりと笑い、光輝の腕をがっしりと掴む。途端に光輝の顔が青ざめ始めた。
「は、はいすいませんごめんなさい。」
光輝はエセ不良だし、正直手なづけるのは簡単だ。
光輝は腕の中の暖かそうなモノを俺に見せた。
「…猫?」
光輝の腕の中には、可愛らしい猫がいた。どうやら光輝に相当なついているらしく、光輝の頬をなめている。
「この子…どっから来たの?光輝って猫飼ってなかったよね?」
光輝は猫を見つめながら、語り始めた。
「こいつと出会ったのは一週間前…ここバラ園だった。俺はいつものようにバラを愛でてた。その時だ…バラ園に一際輝く、この瞳を見つけたんだ!」
光輝は猫の顔をこちらに向ける。
確かにキラキラしてるけど…。
「俺はその時この子に恋をした!俺はこの子を愛してるんだ!この子がいるなら…人間の彼女はいらねぇ!」
……………。
こいつ頭大丈夫か?
「名前はなんていうの?」
愛してる猫には…名前があるだろう。
すると、光輝が何故か照れ始める。あーキモい死んでくれ。
「…す…。スリちゃん。」
俺はその名前を聞いた途端、とあるハリウッドスターを思い出す。
「あれ…その名前…確かトム・クルーズの娘さんも同じじゃなかった?」
光輝はうなづく。
「…トム・クルーズ気分になりたくてな…。」
いや、お前は何転してもトム・クルーズにはなれない…。
スリちゃんは光輝の腕から出て、にゃあと鳴いた。
「あっ…スリちゃんが帰るみたいだ…。」
とことこと走り去るスリちゃんに、光輝は元気に腕を振る。
「スリちゃん!また明日なーっ!」
俺は光輝の元気な笑顔を見て、『壊してやりたい衝動』にかられる。
いくらなんでも…猫に恋はマズイ。
俺はその次の日、ある作戦を決行する事にした。

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下剋上~in kingdom~番外編前編~ 光輝と猫

下剋上の番外編です。
下剋上bot→@in_kingdombot
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投稿日:2013/04/24 23:58:56

文字数:1,167文字

カテゴリ:小説

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