「はあ……」
「リンちゃん?何かあったの?」
 あたしが溜息をついたと同時に通り過ぎようとしていた、カイ
ト兄さんが心配そうな顔で見つめてきた。
「ああ……レンのことかい?」
「わかるの?」
「最近、ミクも楽しそうなんだ。この前、ミクの後を尾行してい
たら、レンと一緒に手を繋いで歩いていたし」
 今まで、ミク姉とカイト兄さん、レンとあたし、とずっとお揃
いという言葉が付きまとっていたこの関係が、崩れた。
 そう……レンとミク姉が恋人同士になったのだ。デートの時、
リリィちゃんと偶然目撃したけれど、これで、レン以外の誰かに
恋することができると思ったのが半分、でも、レン以外の誰かと
共にいる自分が有り得ないと思ったのが半分だった。
 俗に言えば、あたしとカイト兄さんは「余り者」だった。
「ねー、カイトー」
「リ、リンちゃん、なんでいきなり呼び捨てになったの?」
「……ストーカーを兄さんって呼ぶのいやだもん」
 あ、カイト兄さん落ち込ませちゃった。でも、ミク姉達を尾行
したのは本当のことだもの。
「あたしたちもどっか遊びに行こうよ!」
「ええ?!リンちゃんと?!」
 すごく慌てられた。嫌なのかな?
「嫌なの……?」
 目にいっぱいの涙を溜めて、上目遣いでカイト兄さんを見つめ
た。
「でも……!リンちゃんと歩いてたら、俺……!」
「……?」
「ロ、ロリコンって言われちゃうじゃないか……」
「……ふーん……」
 カイト兄さんは、あたしのことを子供としか見てないんだ、そ
う悟った。ミク姉と2つしか年齢変わらないのに。
「リンちゃん、ピコくんとかミキちゃんとかと行ったらいいんじ
ゃない?」
「……え?」
 確かに、あたし、レン、ピコくん、ミキちゃんで4人暮らしで
仲がいいけれど、あのアホ毛コンビはアホ毛コンビで、いつの間
にか2人っきりで仲良しだったりする。友達以上恋人未満、とい
うところだ。
「あたし……カイトと一緒に遊んじゃダメなの……?」
「……」
「あたしは……!カイトが思ってるほど、子供じゃないもん!」
 カイト兄さんの沈黙から、「俺と関わらないでくれ」と間接的
に言われている気がした。そして、その場から走って逃げた。
「リンちゃん……」
 カイト兄さんがそう呟いたとも知らずに。

「(やっぱり、カイト兄さんにとっては、あたしなんて妹にしか
……幼い妹にしか見えないんだ!)」
 黙ってしまったカイト兄さんの顔ばかりが頭の中に巡る。
 そうして、走って行った場所にあったのは、とある公園だった。
少し昔の話。ただただ歌うのが好きだったあたしとレンが、メー
ちゃん、カイト兄さん、ミク姉と出会って、ルカちゃんとも会っ
た思い出の公園。一緒に歌を歌い笑って、仕事の都合で離ればな
れになると聞いて涙したこともあった。
 公園に居た子供たちは、母親に手を引かれ、それぞれの家に帰
る。「また明日ね」「バイバイ」その言葉が飛び交う中、大好き
なブランコの元に行き、ギーギーと座って揺らした。
 4月の半分が過ぎたとは言え、夕方になると、それなりに冷え
込む。いつもの腹チラの服じゃないから余程マシではあるが、薄
手のワンピースで肌寒かった。
 それでも……それでも、その場所から離れたくはなかった。そ
のまま、あの頃の思い出に浸っていたかった。
「寒い……」
 藍色の空に、一番星が光った。
「リンちゃん」
 揺らすのをやめた自分のブランコが自分の名を呼ぶ声と共に少
し揺れた。青いマフラーが視界に入る。
「……何よ、バカイト」
「大好きだよ」
「……妹として……でしょ?」
「少し前まではね、でも今は……」
 そうやって、あたしの前に屈み、顔を見つめられる。
「悪いけど、妹としての好きならあたしいらないよ」
「リン。ちゃんと話を聞け」
 口調が変わったカイト兄さんに、思わずうつむかせていた顔を
上げた。
「……ミクとお似合いだって何度も言われて、リンちゃんのこと
を妹として、見るようにした」
「……」
 いきなり腕を引かれて、気が付けばカイト兄さんの腕の中に閉
じ込められていた。
「でも、もうそう思う必要もなくなった。リンちゃんのことを妹
と思って我慢する必要もなくなった。そうでしょ?」
「……カイト兄さんの……カイトのロリコン……」
「なんとでも言えばいい。それでも俺はリンちゃんのことが大好
きだから」
 抱きしめられ、そっと右の耳から聞こえるレンより低い声、近
所に住むがくぽより爽やかな声。そして、あたしが初めて好きに
なった声。お互いに想いが繋がるとは思わなかった声。
「さあ、帰ろ?今日は、みんなでワイワイするんでしょ?」
「ミク姉もメーちゃんもいる?」
「もちろんさ」
「……カイトー、おんぶしてー」
「ハイハイ」
 返事は、今しない。明日、本音で返事を返すの。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

明日、本音の日。


「本日、ウソの日。」のおまけというか、続編ですね!ハイ。

レンとミクが恋人同士になって
お互い寂しくなっていた2人に
今まで心に残っていた思いを告げる。

女の子は、本音を出すのに時間がかかります。
・・・僕だけでしょうか??

この小説を読んでくれた皆さんに幸せが、
ほんのわずかないいことが訪れますように!!

それではっ!!

閲覧数:204

投稿日:2011/04/18 21:06:16

文字数:2,008文字

カテゴリ:小説

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