ハクが集中治療室に運ばれてから、もう2時間は経っただろうか?
自分では病室でずっと待っているつもりだったのに、デルの足は無意識に集中治療室へと赴いていた。
大きい鉄の扉の上には、『使用中』というランプが点滅している。という事は、まだハクは治療を受けている最中なのだろう。
気を紛らわそうと、近くの自動販売機で何かを買おうとしたその時だった。
治療室の扉が開き、担架に乗せられたハクが出てきた。治療を受けた直後という事もあり、ハクは麻酔で眠っているようにも見えるが……。その身体はまるで死人のようにぐったりしていた。
「ハク!?」
「落ち付いてください、大丈夫です。麻酔が効いているだけですから。」
担架に乗せられたハクに続いて出てきたカイト医師は、冷静にデルに言った。
「あ、あの、ハクの身体は……?」
「出来る限りの処置は一応全てしましたが、これで寿命が延びたというわけではありません……。そこのところはご了承ください……。」
「そうですか……。いえ、ハクを助けてくださってありがとうございます。」
デルは一礼をすると、そそくさと15階のハクの病室へと戻った。
そこに運び込まれてきたハクは、まだぐったりとしていて、ついにベッドに寝かされてもそのまま目覚めなかった。わずかに聞こえる吐息が無ければ、もう死んでしまっているのではないかと錯覚してしまいそうなほどだった。
「ハク……。俺、お前の為に何も出来ないんだな……。」
デルは眠っているハクに独り言のように呟いた。
「お前の為に、何か一つでも出来る事があればいいのに……。」
デルの声は無意識のうちに沈んでいった。いつしか俯き、もうほとんどハクと変わらないようなネガティブ思考になっていた。
ハクはこのまま目を覚まさずに死んでいくんじゃないか…。もう二度とハクの笑顔も見れないんじゃないか……。そんな考えがグルグルと頭の中で無限に回転していた。
その時、
「そんな事……、無いよ……」
ベッドの方から小さなつぶやきが聞こえた。慌ててベッドに駆け寄る。
「は、ハク……?目、覚めたのか?」
「うん。」
「そっか……。あ、もしかして今の独り言、聞いてたか……?」
「……うん。デルの気持ちは凄く嬉しい……。でも私、もう何の望みもないんだ……。だからデル、そんなに自分を責めないで……?」
「え?けどお前、昨日も今日も、一度でいいから雪が見てみたいって……。」
「あぁ……、そうだったね。でも自然の力に人間は勝てないよ……。人工じゃない天然の雪なんて、生涯もう見る事は出来ないだろうって、心では分かってたから。」
「…………。」
デルはどう声をかけていいか分からず黙ってしまった。そんなデルを見てハクは続けた。
「現実を知って絶望するくらいなら、最初から希望なんて持たないほうがいい……。現実世界にはやっぱり限界ってものがあるから。」
昨日言っていた言葉をハクは繰り返した。
「そ、それは違う…!確かに絶望する事は誰だって嫌いだけどな、何事もまずは希望を持たなければ、どんな小さな事も成功しないんじゃないか?」
「まぁ確かに、それもそうかもね……。」
ハクはくるりと寝返りを打った。
「今日は……もう、ゆっくりしたい。悪いけど、もう一人にさせてくれないかな……?」
「あ、わ、悪い。じゃあ、また明日な。」
「うん、おやすみ……。」
名残惜しかったが、デルは扉を開けると病室から出ていった。
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