ある恋の物語
1
もうすぐ十年たちます あなたに告白してから
あの日 高校の卒業式の後 桜の樹の下で思いを伝えました。
「僕も君を」とあなたは微笑みました
でも首を横に振りながら
「進む道が違いすぎるから 受けとめられないんだ」と答えました
紡いだ言葉 風にあおられ空に散りました
心はまぶしい太陽に照らされ
気づけばまっすぐな瞳が見つめていました
「10年後、運命があったら またここで」とあなたは言いました
ああ 私は早咲きの桜に そっと頬をよせて うなずきました
ふとつけたラジオから あなたの歌が聞こえます
あの時の熱い思いは 今でもこの胸を焦がしています
2
今日で十年たちます あなたに告白してから
私は仕事を抜け出して 懐かしい母校へと 電車を乗り継ぎました
桜が今年も咲いています
生徒たちが別れを惜しみ 握手を交わしたり 再会の時を約束しあったりしています
故郷を離れ 夢を叶えたあなた 今日はどこで歌っていますか
あの日のこと覚えていますか 高校時代の切なく閉じた最後のページを
不意に昔のあだ名でイタズラっぽく呼ばれました
ああ神様 桜の樹の下で あなたが笑って手を振っていました
「歩んだ道はちがったけれど 今度は僕から伝えたい」
変わらないまっすぐな瞳に 私は「はい」とうなずきました
00:00 / 05:00
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想