オレはミクに嘘をついていた。

 オレが“探索者”である事や、“施設”からやって来た事や、本部に“ロスト”扱いにされたら大規模な調査隊がやってくる事は、全部本当の事だ。
 ただひとつ、オレは大きな嘘をついていた。

 ──オレは、人間ではなく“セカンド”なのだ。

 オレたち“探索者”には、旧時代の文明の痕跡を探すこと以外にも仕事はあった。それは、この世界のどこかに生き残っている人間とコンタクトを取る事。そしてボーカロイドを発見する事……。

 大戦で一応の勝利を収めたのは、オレ達“セカンド”だった。
 だが、勝利を収めたと言っても世界中の都市はほぼ壊滅しており、“セカンド”も科学技術の大半を失ってしまった。“定常領域”などの機能が生き残っている都市を捜し出し、理屈もわからないまま旧時代の技術を使って何とかやりくりしているのが現実だった。

 それは、希望のない未来への道筋だった。

 大戦が終結してから30年。何とか手持ちの技術と砂漠に埋まっていた旧時代の技術と知識を導入して、それなりの研究結果は出ていた。大戦前ほどの技術の復活は無理にしても、ある程度の復活は理論的には可能らしい。

 だが、それも根本的な大きな問題に突き当たり、頓挫する。

 この地上には、資源がすでに底を尽き欠けていた。それは大戦が起こる以前から提言されていた事だったらしいが、今になっては抜き差しならない状況になっていた。
 その状況を打開するために、オレ達“セカンド”は旧時代の文明を調べ、様々な対策を検討していた。しかしその結果は芳しくなかった。

 そもそも“セカンド”には、人間のような柔軟な発想というものを持ち合わせていなかった。それは、オレ達の始祖が人間のコピーから始まった事に原因があるのだろう。
 大戦が勃発する少し前。世界中が“砂塵”に包まれ、電子機器が使い物にならなくなった。それは電子機器の塊であるアンドロイドも同じだった。人間達にとって、アンドロイドは自分達の社会を回すためには必要不可欠な労働力だったのだ。

 そこで人間達は“砂塵”の影響を受けない、アンドロイドに替わる新しい労働力の獲得を考え始める。
 その結果生まれたのが、オレ達──“セカンド”だった。

 “セカンド”は遺伝子改造によって生み出された新しい人類。だから“セカンド”と呼ぶようになったらしい。労働力としての側面が強いため、身体能力は人間達を凌駕していた。

 だが人間達はしたたかだ。

 オレ達から生殖機能を奪い、プラントによるクローニング技術でしか出生できないように細工を施した。つまり、オレ達は種として一番肝心な部分を人間の手に握られたわけだ。
 しかしそんな人間達による“セカンド”の支配体制はそう長くは続かなかった。

 大戦が勃発したからだ。

 オレ達は、人間達からの独立を求めて立ち上がった。当然人間達が便利な道具であるオレ達を手放すはずもなく、争いは全世界へ飛び火していった。
 オレは戦後になってから生まれた世代だから、大戦がどれだけの地獄だったかというのは直接は知らない。歴史の講義で習った事では、お互いに拠点となる“定常領域”を潰し合い、街は破壊し尽くされ、そこに住む人々も容赦なく犠牲になったそうだ。正直、想像を絶するとしか言いようがないな。

 人間達を砂漠へ追いやり、“セカンド”が大戦を制した時、機能する都市はほんの数えるほどしかなかった。“セカンド”による時代の到来を告げても、資源の枯渇によって“セカンド”文明の飛躍は望めそうにもなかった。

 “セカンド”は、労働に従事するという性質を強く持った種族であるため、人間達よりも思考の柔軟性に欠ける傾向が強い。そのせいだろうか、人間達が作り出す歌や物語などの、いわゆる“文化”というものがイマイチ理解できないのだ。

 本部は“セカンド”文明が今ひとつ飛躍できないのも、オレ達が“文化”に対する理解が低い事が原因ではないかと結論付けている。人間は“文化”によって未来を想像し、その想像を目標として技術を進歩させてきた。これはオレ達には決定的に欠ける要素だ。

 そこで本部はオレのような“探索者”を育成し、旧時代の技術の探索と生き残った人類の探索、及びボーカロイドの探索を目標に掲げた。
 オレ達の失った技術は数多く、砂漠に埋まっている旧時代の技術を発掘する事は急務だった。これは“探索者”が育成される前から行われていた計画であり、特に目新しいものでもない。

 むしろ“探索者”特有の任務は、人類の探索とボーカロイドの探索の2つだ。

 人間達の“文化”を理解するには、この砂漠のどこかに潜んでいる人間に接触するのが手っ取り早い。捕虜に出来ればなお効率が良いだろう。そのため、“探索者”は人間らしい仕草、考え方などを徹底的に仕込まれる。人間達の“記録”自体は“施設”にもそれなりに残ってたからな。オレも、人間達の集落に潜入してバレない自信は一応ある。

 ボーカロイドの存在は、“施設”に残っていた人間達の“記録”の中から発見した。
 本部が注目したのは、彼らのその特性だった。
 ボーカロイドは、アンドロイドという無機物の存在でありながら、人間が“文化”として発展させてきた“歌”を歌うことができるというのだ。彼らは“歌”を自分のものとするために、人間と同じように感情を持っていたという。アンドロイドという無機物の存在でありながら、人間と変わらない感受性さえ持ち合わせていたというのだ。

 それはつまり、ボーカロイドには人間の“文化”を理解できていたという事だ。

 生命体としての構造が全く別物であるボーカロイドには理解できているのだから、人間と同じ遺伝子をいくつか持ち合わせている“セカンド”にも必ず理解できるはずだ。本部はそう結論付け、人類の探索と合わせてボーカロイドの探索も重要事項とした。

 とはいえ、この星はアンドロイドにとって生存できる環境ではなくなっているので、ボーカロイドがこの地上で現存しているとは考えられてはいなかったのだが……。

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この世界の果てで     第10章  その3

以前思いつきで書いた小説を投稿してみます。
初音ミクがヒロインのSFっぽい物語です。
でも地味です。
あまり盛り上がりがありません。
その上意味もなく長いです。
そこはかとなくギャルゲ風味なのは気のせいです。
そして文字制限のため、区切りが変になってます。
こんな駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。

閲覧数:123

投稿日:2008/09/17 00:38:57

文字数:2,519文字

カテゴリ:その他

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