電車を降り、最寄りの駅に着く。
そのまま歩き、とあるアパートに入る。
「206」と書かれた扉の前で止まり、鍵を開ける。部屋の中に入り、テレビをつける。
「・・・私の歌が」
テレビの画面はニュースを流していた。私の歌が3週連続オリコン1位に入ったことを伝えていた。
私は無言でテレビを消した。
私は思い立ったようにケータイを取り、メールを送った。
そして身支度を整え、再び家を出た。
「やっほ~wwwまった~?」
普段どうりの元気な声。グミだ。
「実は今日は相談があって呼んだの」
私は切り出した。いままで相談はグミ以外の人にしたことがない。
「また~ぁ?まあいいや。何?ここで話すのもなんだし、そこの喫茶店はいろっか」
私とグミは喫茶店に入った。
喫茶店に入り、席に着く。
「じゃ、あたしアップルパイとコーヒー」
「私もそれでいいや」
店員が私たちの注文を聞き、そそくさと厨房にかけていく。
「で、何よ。いってみ」
私は迷った。下を向いてしまう。スカートの裾を握り締める。しかしここでグミに打ち明けなければ。
グミに逆らうための勇気をもらわないと。
「あのね、実は・・・・」
「歌手、やめたいの」
私とグミの周りの空気が凍り付いていく。
グミは呆気に取られたような顔をしていた。
グミが声のトーンを落として聞く。
「な・・・なんで?・・・」
グミが一瞬うつむく。そして、顔を困惑の表情で埋めながらいう。
「・・・・・・わかった。ミクがそう思うんだったらやめたほうが良いよ。私に言えることはそんだけ。
あとはミク自身の問題でしょ?」
アップルパイが運ばれてくる。
「ありがとう・・・グミ」
私は、自分を縛る鎖が少しゆるくなるような、そんな錯覚を覚えた。
次の日。私はプロデューサーを呼び出した。
「なんの用なの~」
私はこう切り出した。
「歌手、辞めたいんです」
プロデューサーは、昨日グミがした表情と同じ表情をした。
「困るよ。ミクちゃん。僕にとってミクちゃんは家族のような存在なんだよ」
嘘つけ。そんなこと、これっぽちも思ってないくせに。
嘘だらけの言葉で、私を惑わさないで。
「・・・ミクちゃん。君は僕の決めた道さえ歩いてればそれでいいんだよ。僕の言う通りにしてればいいんだよ!」
あなたの言いなりなんか、もうやめるんだから。
私の心は、世界でひとつだけの、大切なもの。
あんたの私腹を肥やすために、私は存在してるわけじゃない!!
私の中で、何かが凝縮された。そしてそれは、言葉として口から外界に放出された。
机を叩き、立ち上がる。
「もうたくさんです!私はあんたの操り人形なんかじゃない!!」
「私の心を、鎖で縛り付けるのは、もうやめて!!」
そのまま部屋を出た。裸足のまま、まだ朝の喧騒が残る街を走る。
私は、やっと苦しみから抜け出せたのだ。頬を涙が伝った。
次の日、緊急特別番組として、私の引退会見が生放送された。
私は、人気のためにずっと自由を取り上げられていたこと、ファンへの謝罪の気持ちなどすべてを打ち明けた。
そして会見が終わり、私を覆っていた鎖は音を立てて錠が外れ、消えてなくなったように思えた。
街の喧騒は、いつもより少しだけ明るく感じた。
END
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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ご意見・ご感想
wanita
ご意見・ご感想
初めまして!wanitaと申します。ピアプロでは好きな曲に物語をつけて遊んでいます。足跡散歩していたらたどりつきました☆
歌は好きだけど歌手にはなりたくなくて苦しむミクの心情に、共感するものがあって、つい読みふけりました。
こ、これは気になる……!
歌は好きだけど歌手として人気を得たことの忙しさを幸せと感じられなかったミク、
あっさりやめたらいいよ、と言ったわりには困惑の表情を残したままのグミの本心、
そして、世間に対してのアプローチは、オリコン1位をとらせるほど上手いくせに、ミクに対しての発言では最悪の不器用さを発揮するプロデューサー氏……!
わくわく要素満載ですね!このまま終わるのがもったいない気がしましたが、楽しませていただきました。ありがとうございます!
2011/07/31 14:05:44