『……え?』





唖然とした表情でルカが辺りを見回す。そして耳を澄ませる。僅かに『心透視』も発動しながら。

しかし―――――船が落下していることを示す音は何も聞こえなかった。船底が空気を割り裂く轟音も、激しいGに引っ張られた積載物が天井を叩く音も。





空中戦艦『破壊者』は――――――――――墜ちていなかった。





「何……っで!!どうしてよ!?なんでまだ動いてんのよっ、この船はぁ!?」


半狂乱になり、髪を振り乱しながら叫ぶルカ。ミクら3人も、現状を信じられずにあたりを見回していた。

我慢のならなくなったルカが、虚空に向けて叫び声を上げる。『どうせ見ているんだろう』という自棄に近い何かを込めて。


「田山ぁ!?どういうことよっ、これ!?答えなさいよぉっ!?」


それに応えるかのように、すぐさま部屋に『ブツッ』というマイクの電源が入る音が響いた。

そして一拍間を置いてから、如何にも小馬鹿にしたような、醜い声が降りてきた。


《どうした巡音ルカ、何を喚いている?貴様の思惑通り動力炉は破壊出来ただろう?喜べばいいじゃないか、我々も素直に賞賛してやるぞ?》

「ざっけんなクソがっ!!これが動力炉だってんなら、何で船は墜ちてないのってのを聞いてんのよっ!!」


どんどん口調が荒くなるルカ。それが面白くてたまらないのだろう―――監視カメラの向こう側で、この上なく醜い爆笑が聞こえてきた。

ルカのみならず、ミク、リン、レンの苛立ちも天元突破する。ミクなどはその両手に『Solid・Sword』を構えながら咆え始めた。


『黙んなさいよっ!!いい加減に説明しなさいっ、なんでまだこの船は動いてんの!?』

《はっはっはっはっ……まぁいいだろう、まさか貴様らがそれを破壊できるとは思っていなかった。その褒美としてそいつの正体を教えてやる》





《そいつは『量産型VOCALOID用エネルギー生成装置』―――――つまりは『量産型』を動作させるエネルギーを作り出すエンジンだ》





「『量産型』……のエネルギー!?」


想像もしていなかった方向性に、リンの声が裏返る。

それというのも、バイオメカというのは生物要素がかなり大きめになっているため、稼働に必要なエネルギーを有機物から摂取することが可能になっているからだ。しかも燃費は凄まじく良く、極端な話味覚を考慮しなければ、適当な雑草や木の葉からでも丸1日激しい運動ができる程度のエネルギーを取り出せる。普通はエネルギーそのものを供給してもらう必要などない。

だがその考えを読みとったのか、田山は嘲笑をマイクから流してきた。


《なんだ、まさか戦闘に特化した『量産型』が有機物の摂取などというそんな時代遅れなエネルギー摂取をしているとでも思ったのか?ヒヒヒッ、考えが古いな》

「何をっ……!?」

《1万を超える数の『量産型』を常時フルスロットルで動かすために、わざわざ有機物を捻じ込んでやるなどという手間が取れるものか。その為の強制エネルギー供給装置だ。高濃度のエネルギーを船底のパラボラから照射することでエネルギーを供給する……最も、大元の装置を壊されてしまえば、『量産型』の動きも止まってしまうがな》


田山がそこまで話した時、ルカのヘッドセットに連絡が入る。

転倒したランプは赤色。―――――地上にいるメイコだ。


「……もしもし」

《ルカ!あんたなんかやったね!地上で闘ってた『量産型』が全員動きを止めたわ!電源が落ちているみたい!》

「……そう。ごめんめーちゃん、また後で連絡する」

《へ?ルカ、ちょっと一体どうし―――――》


強制的に連絡を切ったルカ。そして怒りと混乱でどうにかなりそうな思考を抑えつつ、虚空に射殺すような目線を向けた。


《くくくっ、そうキレるな。貴様らはよくやったと思うがな?まさか全てのエネルギーを弾き返すその装置が破壊されるとは思わなかった。褒美に―――――眼下の街に、最大出力の粒子砲を叩き込んでくれようぞ》

「「「「なっ!!!?」」」」


4人が絶句する。わざわざ『最大出力の』と言い加えたということは、先に撃った粒子砲は本気ではなかったということなのか。


《チャージには15分はかかる。それまでに命乞いをするなり、町の人間を逃がそうとするなり、本物の動力炉を見つけるなり、まぁせいぜい無駄な努力をすることだな!くくく……ふはははは……はぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっ……!!》


下卑た高笑いが遠ざかっていくのを最後に、操舵室からの通信は途絶えた。再び部屋を静寂が支配する。


―――――否、正確には一つだけ音が響いていた。ルカの溢れる怒りを表す様な―――――歯軋りだった。

突如、ルカが床を破壊せんばかりの勢いで手をつき、全身の発音装置を起動させた。今度は『サイコ・サウンド』ではなく、全力で響かせる『心透視』だ。


「る、ルカ姉!?どうし―――――」

『クソがっっ!!!!ここだと!!ここだと思ったのに!!どこだ!?どこなのっ、本当の動力炉はあああああああああああっ!!!』


もはやヒステリーを起こしかけている。

自分の勘違いで船を殺し損ねてしまった。殺し損ねた船は本気の砲撃を町に撃ち降ろそうという。それも後、15分で。たったの、15分!

ルカでなくても、取り乱してしまうことは必至だった。いや、むしろルカだからこそヒステリーで済んでいるのかもしれない。一般人なら悔恨の念で狂っているかもしれない。

そんな狂いかけたルカを止めることも、手伝うこともできず、ただひたすらにおろおろと戸惑うばかりのミク達。



と、その時。ルカの胸の金管飾りが輝いて、誰よりも頼れる声が飛んできた。



【ルカ!おいルカ!?どうした、何か不都合があったのか!?】

『!……ロシアンちゃん!?』


それは、かつてネルが作った心透視&テレパシー専用通信装置『心透視笛』による、ロシアンからの連絡。

この上なく頼れる存在の声に、ルカの精神は一瞬だけ落ち着きを取り戻すが、すぐにまた狂ったような感情の奔流が声に乗って溢れだした。


『動力炉がっ!ここだと思ったのにぃ!!『量産型』のエネルギー装置でっ!!!あいつらっ!!町を粒子砲で焼くってっ!!このままじゃみんな死んじゃう!!町も、私たちの町もみんな燃え尽きて―――――!!』


もはやいつもの冷静さを完全に失った、途切れ途切れのその説明。

しかしそんな文章とも思えぬルカの言葉を聞いたロシアンは一瞬で状況を理解し、『まだまだ心は弱いか……』と小さく呟いた。そして息を大きく吸って―――――




【囀 る な 小 娘 が ッ ッ!!!!!】




『ッ!!!?』


思わずミク達も耳を塞ぐような、大音量の一喝が叩き込まれた。


【思い出せ。貴様が守るべきは何だ?乱れた心で何を成すつもりだ?どんな旋律を紡ぐつもりだ?その程度の覚悟で町を護る等と抜かすつもりか?】


一言一言を拳で殴りつけるかのようにぶつけてくる。その衝撃に、ルカは僅かながらも、しかし簡単には薄れない冷静さを取り戻した。


『……あり、がとう。ごめんなさい……ロシアンちゃん』

【ふん……さて、だいたい状況は把握できた。その上で、先程地上でお主自身が吐いていた言葉を思いだせ】

『私の……言葉?』

【そうだ。お主は何千体と倒してもなお数多いる木偶人形を見た瞬間、何といった?】


未だ回復しきっていない思考のまま、ルカは自分の言葉を思い出す。1万体以上の『量産型』を前に、つぶやいた言葉を。



―――異常どころじゃない……これだけの数を収納するには、必要ないものを片っ端から除去しないとスペースが作れないでしょうに―――



【そう、確かにお主はそう零していた。ではその言葉を踏まえた上で1つ問いを出してやろう―――本来船が備えているもので、その戦艦に最も必要のないものは一体何だ?】


ルカの返答に、更なる問いかけを返すロシアン。心透視を船中に巡らせながらも、ルカはその答えを探した。


『食料?』

【確かにそれも要らんだろうな。だがもっと削れるものがある】

『居住区かしら?』

【それも要らんな。だが、その船にはそれ以上にないものがある】

『もう、何なのよ!時間がないの、早く教えてよ!!』

【やれやれ……ではもう一つ踏み込んで聞くぞ、ルカ】


【本来このような大戦艦で、最もスペースを喰うのは一体何だ?】


その言葉を聞いた瞬間、ルカの頭に一つの答えが浮かんだ。

それは船ならば絶対に積み込まれているもので、だけどこの空中戦艦に侵入してからは一向に見た覚えがない代物―――――



『……燃料!この船、燃料が積まれていない!』



【その通りだ!このふざけた戦艦め、あれ程の収納スペースを作るには一番容量を喰う燃料を全て取っ払うしかあるまいて】


確かに燃料が入るためのスペースをも利用してしまえば、あのふざけた数の『量産型』も積み込めるだろう。積み込めるだろうが、しかし―――――


『それなら……それならいったいどうしてこの船は動いてんのよ!?燃料を燃しもしないでどうやってエネルギーを!?』

【発想の転換だ。『燃料を燃焼させてエネルギーを取り出す動力炉』ではなく、『それ自身がエネルギーを保有している動力炉』が搭載されているとしたらどうだ?】


一瞬、ロシアンが何を言っているのかさっぱり理解できなかったルカ。

だが次の瞬間、とある『常識外れなバイオメカ』がその脳裏に浮かんだ。





『……『エネルギー蓄積型バイオメカ』!!』





エネルギー蓄積型バイオメカ―――――『摂取した有機物を電子・陽子・中性子レベルで分解し、エネルギーを取り出して蓄積する』という、つまりは原子そのものが保有する化学エネルギーを取り出す突拍子もないバイオメカだ。

粒子と粒子の結合は強ければ強いほど、そこに大量のエネルギーを抱え込む。ましてや、原子を電子と陽子と中性子にまで分解すれば、そこには莫大なエネルギーが発生する。

そうして得たエネルギーを、分解時に得られた電子や陽子と共にほぼほぼ無制限に貯め込む、次世代のエネルギータンクと言われる新世代のバイオメカなのだ。





【吾輩もかつて一度だけそれを見たことがある。特別な意匠こそついていない武骨な代物だったが、それに内包されたエネルギー量は恐ろしいものがあった。もしもそれと同じものが使われているとすれば、燃料など積み込む必要はない!】


ロシアンの言葉に思わず大きく頷くルカ。人間が一食に食べる程度の量の有機物であっても、それを原子が崩壊するまで分解すれば、生半可ではないエネルギーが生じるだろう。

同時に得られる陽子や電子、中性子も、そのままエネルギーと共に放出すれば高威力の粒子砲として使うことができる。まさしく巨大兵器の動力にするにはうってつけだ。


『だ……だけど、そうだとしたらどうして見つからないの!?私達が壊した装置以外に巨大なエネルギー反応はなかった!仮にそれが本当の動力炉だとして、ならばいったいどこに……!』

【……恐らく今お主は、奴等の策にまんまと引っかかっているな。お主の音波術を知る奴等が、そんなエネルギーの塊を分かりやすい場所に置くと思うのか?】


はっとした。わざわざこの量産型用エネルギー装置の存在感を大きく前に出したのは、恐らくは本物の動力炉を隠蔽するため。

だとすれば、本物の動力炉は『心透視』で動力炉を探そうとした時、最も見つけづらい―――即ち、意識を向けづらい場所――――――――――!





『――――――――――逆に完全にエネルギーが遮断された……“真っ黒に見える場所”ね!!』

【それこそが動力炉だ!!!探せ、ルカ!!!!!】





ルカからの返答を聞く間もなく、ロシアンとの通信は途切れた。それは答えを見つけたルカが、すぐに行動を起こすであろうという信頼から来るものか。

その信頼に答えるように、ルカは瞬時に『心透視』を切り替えて船内探査を始めた。


(どこだ……どこにある!?エネルギーを感知できない……“真っ黒い部屋”はどこだ!?)


先程と同じように全ての情報に目を凝らす。しかしその眼にはもう狂気の色はない。

信頼している小さな神獣に、自信と共に送り出されたルカは、もう絶望的な状況に狂うことはない――――――――――


『……!!見つけた……この真上だぁっ!!!』


ルカのその言葉を聞いた瞬間、弾かれたようにミクが真上に向けて『Solid』を放った。

上階とは少し部屋位置がずれていたらしく、切り開かれた穴の上には廊下の天井が見える。

飛び上がった4人は、すぐ目の前にある扉を蹴破った。今度こそは間違いなく、本物の動力炉だろうと確信を持って。

そしてその飛び込んだ部屋で―――――――――――――――真ん中に座する『それ』を見た瞬間――――――――――





――――――――――――――――――――四人の息が止まった。











「おい、あいつら『本物』に出くわしちまったみてーだぞ?」


操舵室で安治が若干面倒くさげな声を上げた。いざとなればロボット兵を総動員して撃滅するか、船体に負担をかけてでも粒子砲チャージを高速で完了させ、地上に撃ち降ろす必要があると考えたのだろう。

だが、それがどうしたと言わんばかりに田山はふんぞり返った。その顔に、こらえきれない嘲笑を浮かべながら。


「壊せんさ、奴等には。動力炉が『アレ』である限り、あの甘っちょろい考えのロボット共には破壊できんだろうよ」

「ああ、それもそうだったな」


安心したように機器の調整を再開する安治を横目で見ながら、田山が醜い笑みを浮かべた。ルカ達が浮かべているであろう、驚愕の表情を脳内に思い描いて。





「くくくくく……さぁて、仲良こよしの甘ちゃん共が。その動力炉を――――――――――『VOCALOID』を破壊できるか?」










その部屋でルカ達が見たのは。



真ん中に座る、人型のバイオメカ。



紅い髪、大きなアホ毛、童顔、機械造形のボディ。



嘗てソフトだった頃、幾度となく共に歌った仲間。










――――――――――SF-A2 開発コードmiki――――――――――

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SOUND WARS!! Ⅸ~動力炉捜索作戦~

神獣の神言に導かれて。
こんにちはTurndogです。

このロシアンとルカさんの激しい信頼感は濡れる。
見てるこっちが燃えてくるこの強固な信頼。
あっちょっとメイコさんそんな嫉妬に狂った表情で弓を引かないでくだs(ゴワッシャアアアアアアア

そして最後の展開。
そう言えばミキちゃんいつの間にかV4出てたんですね。
今どのV4が一番強いんだろう、やっぱルカさんだろうか。
いやルカさんが強くないと泣くわ(ウザい

閲覧数:270

投稿日:2016/02/27 17:30:19

文字数:5,983文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    新作だあああああ(`・ω・´)
    飛びついて読むと…とんでもないことになっているではありませんか(戦慄)

    前回までの私「動力炉ぶっ壊した!シンクロ100%ルカさんかっこいい!」
    今回の私「狂乱するルカさんかわいい!」
    末期ですかね?

    ロシアンからの通信!
    ルカさんの精神状態をよくわかっていらっしゃる。
    さすがロシアン!イケメンですね!
    「探せ!ルカ!」で信頼して通信を切るのがかっこよすぎて……!

    エネルギー蓄積型バイオメカの説明で、ちびボカロを思い浮かべたのですが。
    確かちびボカロも有機物からエネルギーを蓄積しますよね?原子炉に近いっていう話だったような気がします。
    「人間ひとりの食べる分からのエネルギーでもやばいってことは、VOCALOIDだったら最悪じゃん」と思ってたらその通り!大ピンチ!

    mikiちゃん…mikiちゃん!?
    今まで一度も出てきませんでしたよね!?
    どんな音波術使うんだろう…
    残り10分近くで倒すのはさすがに無理ですよね。
    (これmikiちゃんを戦艦から引きずり下ろせば万事解決なのでは?)

    次回も楽しみにしています(`・ω・´)

    2016/02/27 18:10:48

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      最近一番書きたいところに入ったから筆が進む進むw
      元からとんでもないというセルフツッコミはナシですかね?((

      多分それルカ廃の基本症状ですから問題ありません(つまり末期

      アニメや物語を読んだり見たりする時感動で鳥肌が立つ瞬間ってありません?
      『探せ!ルカ!』のシーンは自分で読んでてその感動肌が立つような展開を目指した結果ですw

      相変わらず素晴らしい読み込みに涙がナイアガラなんですが(脱水症状
      因みにちびボカロの設定は『分子レベルで分解』でしたがこちらは『原子を電子や陽子にまで分解』なので最早最悪とか言うレベルじゃありません。
      言葉にするなら『災厄』です(誰うま

      mikiちゃんはねー、まぁいろいろ考えてたわけですよ、設定!
      いつから考えてたって大学受験でストップしてたこr……すでに3年経っている……だと……?

      一気に筆を進めて年度変わるまでに第一部完結を目指す!

      2016/02/27 20:04:42

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