鏡音レン開発物語2「開発者の手記2/5」


○月○日

どうもデスクが汚れると思ったら鼻血だ。

リンの開発チームとは、毎日午前10時から連絡会議を開いているが、
これが毎回、鬱でたまらない。
うまくいかなければ荒れるし、そうでなければ退屈極まりない。

今日も今日とて、こんなにつらい思いばかりさせるくらいなら、
いっそリンに「人の心」なぞ持たせない方がいいのではないか、などと言う奴がいて、
冒頭から、さっそく大喧嘩になった。

冗談じゃない。

人の心を動かせるのは、人の心だけだ。
だからこそ俺たちは、人の心を持ったボーカロイドを作るために、
毎日心血を注いでいるのだ。
見てくれのいい蓄音器なんぞ作って何になる!

貴重な時間ばかりが、無為に過ぎてゆく。


○月○日

用を足した後、ふと便器を見たら血まみれだ。
だがそんなことはどうでもいい。

ここにきて、大きな決断をしなければならない。

レンには、これまでずっと、リンの保護者的な役割が期待されてきた。
リンの心理回路の脆弱性を補うのが、レンの役目であるからには、
レンは、強靭な心理回路の持ち主でなくてはならない。ずっとその方針でやってきた。

だが、それが間違いだった。

そんなものは 「リンが求めているパートナーではない」ということが、
徐々にはっきりしてきたのだ。

発想の転換が必要なのはわかっている。だがどうすればいい? もう時間がない。


○月○日

昨日思いついた、あることをこれから試してみる。

さすがに、これにはチーム内から反発が出た。
今まで蓄積したデータが、ほぼ御破算になるうえに、結果が全く予想できない、
まるっきりの丁半博打なのだ。

これには一人ひとりを捕まえて、尽きるまで意見を吐き出させ、
考え得る全ての問題点を洗い出し、突き合わせ、時間をかけて徹底的に議論した。

それに、これが上手くいかなければ、どの道、もう俺たちに未来はないのだ。

怖いものは、何もない。


○月○日

チームは何とかまとまったが、なにやら上と横がうるさい。

曰く、使えないガラクタを、もう一機増やしてどうするつもりだ?
曰く、今から作り直しはあり得ない、販促には、何て言えばいいんだ?
曰く、さて、この責任は、だれが取るのでしょうねぇ?

これが終わったらこいつら、まとめてぶっ殺してやる。


○月○日

生まれ変わったレンが、どうにか、形になった。
明日、いや、あと4時間後に、仕切り直しの適合性試験に入る

孫の代まで自慢できるだろう、凄まじい追い込みだった。
周りを見ればチームの面々が、デスクで、床で、テーブルで、
思い思いにくたばっている。

いろいろ不満は尽きないだろうが、皆、本当によくやってくれている。
だが本番はこれからだ。
苦しいだろうが、この踏ん張りどころで抜かってもらっては困る。

もう少しだ。待ってろよ、レン。
俺たちの力で、必ずお前を、男にしてやる。


(3/5につづく)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡音レン開発物語2-2/5「開発者の手記」

リンレン・アンドロイド設定。
アンドロイドとしてのレンくんは、一体何のために作られたのだろうか、
ということを、もっともらしく考えてみるシリーズ。

今回はレンくんを作った開発者が手記を書いたら、こんな感じだろうか、と想像してみました。

好き勝手に仕事が出来れば誰も苦労はない、ということで社内苦闘編。

閲覧数:114

投稿日:2011/12/29 19:53:12

文字数:1,250文字

カテゴリ:小説

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