12 リンの修行とレンのトラウマ その6
「たしかにレンも悪いけど気絶するほど蹴っちゃだめでしょ!」
「そんなこと言ったってお母さん~。」
私は完全に号泣している。
「いいから話はあと!ちょっとレン、いつまで寝てるの?起きなさい!あらやだ、ほんとに起きないわね。もうしょうがない救急車呼ぶわよ。リン、あなたはお家にいなさい。お父さんが帰ってきたらこのことを言うのよ。」
「はぁい・・。」
5分くらいで救急車が家に到着した。家の外に出ると近所の人が何事かと見に来ている。
「あら、リンちゃんどうしたの?もしかしてお母さん倒れたの?お母さんよく働く人だったからねー。おばさん気にかけてたのよー。」
隣のおばさんが話しかけてきた。母が倒れたと思っている。まさかレンが倒れたとは思わないだろうし、私が蹴ったからなどとは言えるはずがなかった。。
「あ・・いえ、レンなんです。」
「あらーー!レンちゃんなのー?どうしてあんなにいつも元気だったのに。ちょっと奥さんレンちゃんが倒れたんですって。若いのに気の毒ねー。」
うう・・おばさん、これ以上事を大きくしないで・・・。
救急隊の担架に乗せられたレンが玄関から出てきた。まだレンは気を失ったままでいる。さすがにやりすぎたか・・・私は反省と後悔を感じた。
担架が救急車に乗り込もうとしたとき、急にレンは目を覚ました。
あっと皆が声をあげ、私はよかったーとほっとした。が、しかし、レンは私の顔を見るなり走って家の中に駆け込んでいった。
何事かと私と母はレンと追いかけると、レンは自分の部屋の隅で背を向けてしゃがみこみガタガタと震えていた。
「ちょっとレンどうしたの?頭は大丈夫なの?」
母が問いかけた。
「こ、怖い。」
「え?怖い?何が怖いの?」
レンは私のほうを指差した。
「こ、怖い。」
「怖いってリンが怖いの?も~リン、レンがこんなに怖がっているじゃないの。ここはね、ちゃんとレンに謝りなさい。」
「ちょっとお母さん!謝れってもとはレンが悪いのよ、私のポスターにあんなことしなかったら顔なんて蹴ってないわよ!」
「ひぃぃぃぃーー!」
レンは悲鳴を上げてよりいっそう震えだした。
「あのーすいません。病院のほうはどうしますか?」
振り返ると救急隊の人が気まずそうに立っていた。ついでに近所のおばさんまで家の中に入ってきている。何かものすごくはずかしい。
「あ・・いえ、息子は大丈夫そうなので病院のほうはいいです。すみません、お手数おかけしました。」
母は申し訳なさそうに謝り、救急隊の人達と近所のおばさん達はそれぞれの場所へ撤収していった。
「ちょっとレンいい加減にしなさい。男の子が女の子に蹴られたくらいで何をそんなに怯えてるの?みっともないでしょ。しっかりしないとお小遣いあげませんよ。」
レンはまだ怯えている。
「リン!いいからもうレンに謝りなさい。お姉ちゃんでしょ!こういう場合は年上が一歩引くものよ。」
年上って、先に生まれただけで同じ年でしょ。とにかくしょうがないここは謝るほかなさそうだ。
「あ・・・蹴ってごめんなさい。・・・」
レンは私に振り返りこう言った。
「・・・もう怒ってない?」
「あ・・うん、怒ってないよ。」
「ほんとに?」
「うん、ほんとに怒ってないよ。だからさ、もう元気だして。」
「もうあのポスターのこと怒ってない?」
ポスターのことに触れるな・・。私はイラっときたが抑えた。
「うん、もうポスターのことも怒ってないよ。」
私は感情を押し殺し、無理に笑顔をつくり答えた。
「なんかうそくさい・・・。」
クッ・・こいつ・・・。私はさらにイラついてきた。
「いや、もうほんとに怒ってないからさ、平気よ、平気。」
「あのポスターあんなにしちゃったんだよ。それでも怒ってない?」
「う、うぅ、クッ、うん、怒ってないよ。」
「じゃあ、あのポスターずっとあのまま貼ったままで平気?」
・・・こいつ・・わざと言ってるだろこれ。私はかなり限界に近づいてきた。
「う、・・うぐ、うん、平気だよ。しばらく飽きるまで張ってるかな。」
「ほんとー?よかったーリン怒ってないんだー。」
ようやくレンは落ち着き笑顔を取り戻した。
「まったくもーお母さん心配したじゃないの、一時はどうなることかと思ったわ。」
非常に私としては後味の悪い展開となったがとりあえずことはすんだ。頭を切り替えよう。あのポスターのことは忘れてまた今度レコード店の人にもらえるようお願いしてみようと思う。
「それじゃーリン、次、別のポスター貼ったら教えてなまたイケメンにしてやる。」
「このクソレンいい加減にしろーー!!」
完全にキレた私はレンを思いっきりひっぱたいて首を締めだした。
「ちょっとリンよしなさい!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃーーー!!」
この後母と帰って来て事情を知った父にこっぴどく怒られた。生まれて初めてだ。こんなにも両親に怒られたのは。そしてしばらくの間レンは私から逃げるように生活するようになった。いつも私と目が合うと怒ってない?と聞いてくる。正直な話、相手をするのがめんどくさくなった。幸いこの後すぐ夏休みに入ったので学校の人達にはレンと私の妙な光景を見られずにすみ、学校が始まる頃にはレンの様子も元に戻っていた。
しかしながら私は今後、気をつけなければいけないと思った。
12 リンの修行とレンのトラウマ その7へ続く
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