俺の目の前に立っている、いや正確には浮いているとでもいうのだろう、その美少女。

俺と彼女の間に沈黙が生じる。

俺と彼女は見つめ合う。

きっと恋人同士であればこれ以上ない至福の時間であろうに、

今の状況はとても楽しめるものじゃない。

しかも、彼女は目線を外してくれないので俺も外しようがないじゃないか。

頼むから何か言ってくれ。

沈黙はきつい。 言葉にしがたいプレッシャーみたいなのがある。


そこで俺はふと気づいた。 首が楽になっていることに。

それは小さなことだが、俺の心に少し余裕を生ませた。

俺は彼女の目線を、ゆっくりだが、外すことができた。

しかし依然、彼女はこちらを見ている(感じがする)し、

沈黙はまだ続いている。 首の痛みは・・・やはりない。

殺人未遂犯(といっても死にそうにはなってないが)はどこへ行ったんだ?

首が楽になったのは俺にとってはかなり良いことなのだが。

いや、それについて考えるのは今の状況では優先度的に結構な感じで、低い。

とりあえず後回し、ほうっておこう。

えっと・・・どうすればいいんだ。

とりあえず何か話しかけてみるべきか。

「お前、だれ?」

とかかな。いやでも俺が付きまとっていたことを怒って黙っているなら

「勝手に後追ってごめん。君、だれ?」

と言った方が良いな。うん。

いやでもこういうときでも自己紹介から入るべきか。

それとも辞世の句か。いや、それは死ぬ間際のやつだ。

あれ? でもこれから

「一緒に来ない?」

なんて誘われて“あっちの世界”に連れてかれるのなら詠んでおいたほうがいいな。

違う、そんなことじゃない。

もうほんとに何か話しかけてくれ。気まずすぎるだろ。

こっちから話しかけても無視されそうだ。

そこで俺はかすかな声でも聴き取れるよう、耳を澄ました。

・・・呼吸の音すらしてねぇじゃねぇか。


もうほんと勘弁してくれ。

誰かこの沈黙を破る奇跡のスーパーヒーローを探し出してくれ。


そんな状況でも俺は、彼女がわずかに前のめりになったのを見逃さなかった。

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なつきたるらし ~視れる少年、視えない少女~ 08

なぜ俺の首は楽になったのか。

閲覧数:112

投稿日:2009/08/18 02:40:38

文字数:891文字

カテゴリ:小説

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  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    読みましたww
    あとがきのあのつっこみだめです><
    理由後で出てくるんじゃないんですか!?

    2009/08/17 05:17:06

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