「まずはやってみたらいいよ」なんてウソだ。

「きっとうまくいくから」ふざけんな。

そんなことを言えるのは、余裕があるからなんだ。

何かあってもどうにかしてくれるケツ持ちがいなかったら、そんな適当なこと言えるはずが無い。

僕にはそんなの、ない。なんにもないから、これでうまくいかなかったら死ぬしかないんだ。

父さんのように。


僕の父さんは、普通のサラリーマンだった。

やさしくて、まじめで、いい人だった。

何かあると僕や母さんにお土産を必ず買ってきてくれた。
一人っ子で寂しがりな僕を、疲れているはずなのにそんな気一つ見せないでかまってくれた。

けど、死んだ。まじめすぎたせいなのだろうか。

「あなたもやってみよう、必ず成功する起業の5つの法則」

そんな変なセミナーに行って、父さんは起業して、それで失敗して。借金を抱えて死んじゃった。

本当にまじめすぎるから、借金は全部自分ひとりでなんとかして。

僕たちには少しばかりのお金を残して逝ってしまったんだ。

「やってみれば何とかなる」なんてウソなんだ。

父さんは、そんな甘言に殺されたんだ。一度の失敗で、命を奪われたんだ。

もしも宝くじが当たりでもして、お金がたくさんあったなら、父さんは死ななくて済んだ。
今日も僕と一緒に遊んでいられたはずなんだ。

ふざけるなよ。

余裕があるヤツだけが失敗を許される社会なんて、くそったれだ。



僕も――そんな余裕なんてない。



でも、失敗してしまった。
学校を出た後、どこに所属して何をするか、まったく見通しが付かない。

僕も父さんと同じように、死んでしまうのだろうか。

これまでずっとうまくやってきたはずなのに。

みんなと同じ道を行けなくなってしまった。

たったそれだけで、もう終わり。

「あなたの人生は"失敗"しました。ゲームオーバーです。さようなら。」

そんなの、ひどいよ。

そんなの、生まれた時点でほとんど決められた運命じゃないか。

なんで、どうしてこんな、ふざけた出来レースに参加しなきゃいけないんだよ。

しぬ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

出来レース

即興小説より

閲覧数:126

投稿日:2014/12/11 14:50:01

文字数:884文字

カテゴリ:小説

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