わがままな子って思われたくない。
 可愛いって思って欲しいの。ちょっとした変化にも気がついてほしいの。私のこと見てにっこり微笑んでほしいの。一緒にいたいの。お姫様扱いしてほしいの。わたしの為にプリンやイチゴのショートケーキやら沢山作ってほしいの。ただ一緒に手を繋ぎたいの、一緒に歩きたいだけなの。
 これってでもやっぱり、わがままなの?
 世界は常にわたしの味方で、欲しいものはぜんぶ手に入ると思ってた。私は世界で一番のお姫様だと思ってた。
 だけどでも。

 落ち着いた時間帯に入り、森さんとのミーティングを終えた店長は休憩を取るために、店の外へ出て行った。店内には、男性二人組みのお客様が一組。もうすぐ森さんが仕事を終える時間だな。と私は腕時計を確認した。
 小林は厨房内でなにやら作業をしているようで、奥からカチャカチャとホイッパーを扱う音が聞こえてくる。わたしはカウンター脇で、ぼんやりとネガティブな思考を引きずったままフォークを磨いていた。楽しくない。こんなのちっとも楽しくない。
 はぁ。と気がつくと何度も落としたため息が、あちこちに転がっていて、その光景が又、私の口からため息を生んで、足元に転がり落ちた。
 ほどなくして、森さんが仕事を終えて、厨房から出てきた。お疲れ様です。と声をかけると、じっと見つめ返されて、大丈夫?といわれた。
「ミクちゃん、なんか元気ないけど。大丈夫?」
そう心配した表情で聞いてくる。その優しい言葉に、作ってた笑顔が剥がれそうになる。だけど、今はまだ仕事中。とぐっと堪えてわたしは、へら、と笑った。
「いつも通りですよ。」
そう強がった言葉を言うと、森さんは少し考えるように口元に手をやり、それからにっこりと微笑んだ。
「ミクちゃんのわがままは、実はとっても可愛いんだから。本当よ。」
森さんの全てを見透かすような言葉に、今度こそ作り笑いがぺろんと剥がれ落ちた。失いかけた自信を取り戻すその言葉に、私の心が温かくなって切なくって、泣きそうになる。
 口をへの字にして泣きそうになるのを堪えた私に森さんは、大丈夫よ。と再び応援の声をかけてくる。
「恋する女の子は皆、お姫様なんだから。」
じゃあね、お疲れ様。と軽やかに微笑みながら森さんは帰っていった。その後姿を見送って、再びため息が床に転がった。
 森さんは、私みたいに身の回りにあまり気を使わない人だけど、その飾らない態度が清々しくて、常に自由な空気を纏ってて、笑顔がいつも輝いていて。とても綺麗だ。ホントはああいう人がお姫様なんだろうな。私みたいに可愛くないのはやっぱりお姫様じゃないのかも。
 折角、森さんが欲しかった言葉をくれたのに、どうやっても負の思考になってしまう。これじゃあだめだ。
 ぶんぶん、と頭を振って、気合を入れようと唇を噛み締めると、不意に、かしゃり。とシャッター音が耳に入ってきた。
「え?」
驚き、そちらに視線を向けると今度は、ぴろりろりん、と別のシャッター音。
 店内にいた男性二人組のお客が、こちらに携帯のカメラを向けて、にやにやと笑っていた。ざわりと嫌悪感に背筋が粟立つ。何こいつら。今、撮られたの、私?
「やめてください。」
こういう相手には、強く出るほうが良い事は経験上知っている。強い口調で拒否の言葉を放ち、男たちを睨みつけた。がしかし、予想に反して、相手は臆することも無く、へらへらとした表情でこちらを見てきた。
「怒ってる顔もいいじゃん。」
「でも笑ってくれてもいいんじゃないの。」
そんな事を笑いながら言ってくる。
 こいつらきっと一人じゃ何もできないくせに。と歯噛みして睨みつけると、又、携帯を向けられた。撮られる。慌てて腕を上げて顔を隠すと、かしゃり。と再びシャッター音が耳に入ってきた。
 もう嫌。なんかもう今日はやり返す気力もない。誰か助けて。
 

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我侭姫と無愛想王子・3~WIM~

閲覧数:163

投稿日:2009/12/09 16:30:50

文字数:1,599文字

カテゴリ:小説

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