マスターの機嫌が、悪いのです。


【ねぎみくふるこーす☆ 】


『マスター。マスター』

ふてくされたその背中にぎゅっと抱きつく。
広くて大きな背中。
抱きつきやすくて、とってもすき。

『ごはんですよー。早く食べましょう!』

今日のご飯は自信作っ!
マスター喜んでくれるかな?

「今日の、メニューは……?」

『はいっ!』

テーブルにところせましと並んだご飯をアピールする。

『ネギと牛肉の炒め物ととネギのおひたし。
にんじんとじゃがいもとネギの煮物に、ネギとたまねぎのお味噌汁。
あ。これは、ネギ漬けです。
でもでもっ! それだけじゃ物足りないかと思って、
ご飯には刻みネギをいれましたっ!

名づけて、ねぎみくフルコースですっ!』

自信作。
なのに、マスターは元気がない。

『マスター……ネギ茶飲みます?』

市販の番茶とネギを絶妙にブレンドしたネギ茶を差し出す。
マスターはネギ茶には見向きもせずに、パソコンに歩み寄る。

「メイコを起動しよう……」

『マスター!? ななな、なんでおねえちゃんなんですかっ!
そりゃあ……こんなにおいしいねぎみくフルコースを皆で食べたい、
っていうのは分かりますけど、でも、ミクは……マスターと二人で……ぽっ』

「あああああああ! もう! そうじゃなくて!」

マスターがどどんっと足踏みをする。
マスター。そんなことしたら、また下の作野さん(48歳、自営業)
から怒られますよ?
この前もミクがネギをお持ちしたばっかりなのに……。

「半年……半年だぞ?
三ヶ月の時にも言おうかと迷ったが、
それでも何か変わると思って何も言わなかった俺がバカだった!」

『や、やだ……。マスター。もしかして……』

「ああ、そのもしかしてだ!」

そ、そんな――――!?

『ミクに赤ちゃんができちゃったんですねっ!』

「ち、が、うー!」

マスター、ちゃぶ台がえししようとしてご飯があるから思いとどまってでも何かせずにはいられなくて、ちゃぶ台返しのふりだけするのは
ちょっとかっこ悪いと思います。

『半年とか三ヶ月とか言うからてっきり……』

「やることやってないのにできるわけないだろ…………」

そういえば、ミク、マスターとはまだ健全なお付き合いでした。

『マスター……そういうこと、したいですか?』

「くぁっ……って、そうじゃなくて!」

もう一度床を踏み鳴らす。
なーにしとるがー、って作野さんの小さな声が聞こえました。

「この、料理だ、料理!」

『はい?』

目の前には、ほかほかと湯気を立てるねぎみくフルコース。

『このねぎみくフルコースが何か……?』

「何か……? じゃない!
家に来てから半年間、毎日毎日三食菓子までネギネギネギネギネネギネギぃっ!
いい加減飽きるわっ!」

『なっ! マスター、正気ですかっ!?』

「正気に決まってるだろこのネギ娘!
もういっそ、メイコと酒でも酌み交わした方がまだましだ!」

ひどい。
ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどい!

『マスター……。いくらマスターといっても
言って良いことと悪いことがあります!』

「は?」



『ネギの! 侮辱は! 何人たりともしてはなりません!』



ぴしゃぁああん。

稲妻が走った。
そんな気がしました。

『そんなふうにネギをバカにされるなら、
私、実家に帰らせていただきます!』

「ちょ、ネギ……じゃない、ミク!」

『さよなら、マスター! ネギの次に愛してましたっ!』


「次かよっ!」


マスターを残して元の世界へ。
もうもうもう! ネギをバカにするマスターなんてしりません!





「ということがあったそうじゃ」

『アンタも大変ねー。これ飲む?』

「俺の金で買ったんですけどね」

『いいじゃない。酒の間に硬いことはなしよ。
ささ、飲みましょ飲みましょ』

「いや……乾杯8度目だし。
そろそろ腹がすいてきたっていうか…………」

『あら、ほんとー。おつまみももうないわね。
ね、買ってきてマスター』

「ちょっと待て」

『お・ね・が・い☆
めーちゃんの頼みを断るなんて男が廃るわよ。
ささ、いってくるいってくる!』

「俺のうちなのに…………」

(ミク……今頃、まだ怒ってるんだろうなぁ……。
こんなことなら、多少のネギくらい我慢するべきだった)

すっかり少なくなった(酒代のせい)所持金を見つつ、
ネギ……じゃない、ミクへと想いをはせた。




『マスター……今頃どうしてるかなぁ……』

ネギをかじりかじり、ネットサーフィン。
楽しいけれどとても退屈。
とても退屈はつまらなくて、やっぱり楽しくない。

『い、いいもんいいもん!
ネギをバカにするマスターが悪いんだからっ!』

そういいつつも、開くページは料理サイトばかり。

『むぅ……』

全部閉じて、もう一度開く。
そして、意を決して、みんなが意見を書き込むぴあぷろ小町に書き込んだ。

『ボカロが弱音しか吐きません』、『ボカロがなんか飽きてます』

そんな書き込みと一緒に並んだのは。


『☆マスターがネギを食べてくれません☆ H.N ネギ大好きっこ』

『マスターとけんかしちゃいました……。
マスターとけんかをするのははじめてなので、
どうしたらいいかわかりません。

でも、マスターがネギをばかにするから悪いんです。
マスターは半年も三食お菓子までネギはいやっていいます。
でも、ミクはそれでも、それ以上でもネギはありすぎて困ることはありません。
マスターにもネギのよさをもっと分かって欲しいです。

こんな場合、どうしたらいいでしょうか?』

すぐにレスがついた。

「いや、半年はやりすぎだろ……」 「俺なら死にたくなるね」 「マスター……無茶しやがって…………」

『えっ! えっ!?』

みんなすごく否定的です。
なかには、『超ツマンネ』なんて書きこみまで!?
ひどい……ここには”あらしさん”はいないと思ってたのに……!

『☆ちょっと考えてみましょう☆』

そんな中、一つだけ。
長文の優しい書き込みがあった。


『うーん。ちょっとした意見の違いという感じですね。
ネギ大好きっ子さんも考えてみてください。


僕のマスターは、週に一回アイスを買ってくれます。
もちろんアイスは三食お菓子までありすぎて困ることはありませんが、
食べ過ぎるとお腹を壊してしまいます。
だから、マスターはあえて週に一回アイスを買ってくれるんです』


この人のマスター。優しい人だ。
だってだって、この人のこと考えてちゃんとしてくれてる。


『週一回だからこそ、その日がとても待ち遠しくて、
その日にマスターと食べるアイスは、
毎日こっそり食べるアイス以上においしく感じます。

我慢したものは、よりおいしくなるのです。

もし、ネギが嫌というなら次はアイスなどどうでしょうか?
アイスには様々な味があって飽きることなどありませんし、
たとえば、ハーゲンダッシュやサーティーワンなどメーカーにも色々…… <長すぎるので続きは省略されました>

H.N アイス大好きっこ』


『そっか……毎日だったからだめだったんだ……!』


立ち上がる。きゅっとブーツがなる。
手に持っていたネギを冷蔵庫にしまって、
マスターの部屋へと続く扉をくぐる。


『マスター……マスターが教えたかったのはこういうことだったんですね!』


いつもの部屋。
お酒臭いその中に、マスターが放置されていた。
(おねえちゃんは一足先にパソコンに戻って寝ました)


『マ、マスター!? しっかりしてください!』

「なんだよメイコ……次は、ジンか、テキーラか?」

『マスター!?』


何日もまともに食事もせずにお酒を飲んで……!
こんな生活じゃネギでせっかく健康になったマスターが
すぐに不健康になっちゃいます!


『マスター。ネギ茶です! 早くこれを!』

「ん…………?」


のどぼとけが動いて、ネギ茶が体に浸透したことを教える。
うっすらと目を開いて、こっちを見て、笑って。


「やっぱり……ネギの方が(酒より体に良くて まあ三食黙ってても飯が出てくるし 家のこともやってもらえるから酒よりは幾分かましって程度で)いいな……」


『マスター……!』


目から熱い涙が零れ落ちる。
私はなんてばかだったんだろう……。
マスターは身をもって、ネギの真のおいしさを教えてくれたんだ……!



『私……私、がんばりますっ!』





「ネギじゃ……ない!?」

『はい、そうですっ!』


食卓に並ぶ料理。
ご飯、デザート、お茶に至るまで、すべてのネギを排除しました。


『マスターが教えてくれましたから……』
(日を置いたネギのおいしさを)


「ミク……分かってくれたか……」
(俺がもうネギには飽き飽きしてるっていうことを)





『「よし!」』




「じゃあ、食べるか!」

『はい!』

「っと、これは……?」

『はい! たまねぎです!』



「………………」





いつかいつか、必ず完成させます。




究極の、ねぎみくフルコースを!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【小説・初音ミク】ねぎみくふるこーす☆

初音ミク-3:ねぎみくふるこーす☆

ネギバカなミク。決め台詞の

「ネギの次に愛してました」がやたらと気に入ってしまったv

ちなみに、アイス大好きっこは多分ご想像通りです。

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投稿日:2008/06/13 02:51:57

文字数:3,999文字

カテゴリ:小説

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