「その写真、どのくらい前のものなんだ?」
ミクはしばらく答えなかった。写真立てを見たまま、自分の中にあるものを整理しているように見えた。色々と、複雑な思いがあるのだろう。
「……20年ぐらい前かな」
オレを見ているというよりは、オレの後ろにいる誰かを見ているような遠い目をしながら、彼女は口を開いた。
「私たちは、やっとこの街に落ち着く事ができたの。その時の記念写真が、それ」
「落ち着くことが出来たって事は、元は他の所にいたのか?」
「そうよ。今じゃもう、地図にないでしょうね。あの戦争……あなたが大戦って呼んでいる戦争は、本当に酷かったもの。多くの人が死んだし、多くの街が消えた。……大陸の形さえ変わってしまったわ。それほど酷かったのよ……」
当然ながらオレは大戦の事は詳しくは知らない。オレが生まれる前の出来事だからな。そうか、ミクは大戦を生き抜いてきたのか。だから、凄く辛そうな顔をしているんだな。なんか、見ているこっちも苦しくなってくるほどの痛々しい表情だ。くそ。
「住んでいた街が戦火に巻き込まれてね。街を捨てて私たちは砂漠をさまよったわ。最初は100人近くいたのよ。でも、次々と死んでいった。戦闘に巻き込まれる事もあったし、病気で死んだ人も多かった。子供なんか、体力がないから特に……」
ミクは拳を握りしめているんだろうか。腕が震えていた。俯いて、テーブルの一角を睨んでいた。そうでもしないと収まりがつかないというぐらいに。
「この街にたどり着いたときには18人しかいなかったのよ。出発したのは100人ぐらいいたのにね。本当に酷い話よ……」
「…………」
オレに何が言えたと言うのだろう? オレは大戦の事なんてまるで知らない。彼女の悲痛な表情に、慰めの言葉なんてかけられなかった。オレが何を言っても、それは嘘にしかならないような気がしたからだ。
オレたちの間に重い空気がのし掛かる。この砂漠の中にある一室は、ミクの悲しみをずっと受け続けてきたのだろうか。その時間の重さが、今のオレにも感じられる。どうしようもない事が、余計に腹が立つ。
「……ごめん。やめよ、この話は」
ミクはいかにも無理してます、と言わんばかりの明るい声を出して言った。
「……あ、ああ」
オレも明るく返そうかと思ったが、無理だった。ちょっと声が掠れているのが、自分でも情けないと思った。
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「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
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