あたしは、君の事が好き。あの子も、君の事が好き。君も、君は気付いていないけれど、あの子の事が好き。
だから分かりきってるんだ。君はあの子が好きで、あの子も君が好き。・・・まぁ、男の子相手に“あの子”、て使うのもどうかと思うんだけど・・・・。
あたしは、ずっと君の事が好きだった。君の事、“男の子”だと思ってたから。家の事情で、男の子の格好をしてた、“女の子”だって気付いたのはつい、もう本当に最近の事。あの子が“女の子”じゃなくて、“男の子”だって知ったのも、其れ位。・・・何だかややこしいね。
でも、あたしは君が女の子だって分かっても、其れでも、君の事が好き。友達のlike、じゃなく、loveの好き。可笑しくても良い。だって人を好きになるのに理由なんて要らないでしょ?
だから、あたしにとってあの子は最大のライバルだった。今でもそう。・・・敵わないのは分かりきってる事だけど、それでも、ライバルなのに変わりは無い。
だけどね、如何したんだろう? 前は君の事が好きだったの。今でも好きだよ? なのに、なのにね? あの子が気になるあたしがいるの。気が付いたら、君じゃなくてあの子の事を見ているの。可笑しいよね? 可笑しいよ。だって、だって。あたしが好きなのはあの子じゃない。君なんだから。でもでも、目は、耳は、身体は、心は、あの子の方に向いていくの。
可笑しいよ、可笑しいよね? 駄目、駄目なんだから、そう思っても身体は、耳は、目は、そして心は、言う事を聞いてくれない。日を追う事にあたしはあの子に惹かれていく。
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼。
何だか、可笑しくなったみたいだ。
そんなある日、あたしはふと、とある噂を聞いた。
「桜の花片を掴んで願いを言うと、願いが叶う」
何だか流れ星みたい。そう思ったけれど、今の季節は丁度春。桜の花も綺麗に咲いている。あたしは早速、この噂をやってみる事にした。
「えいっ、えいっ!」
ひらひらと花片があたしの手の平をすり抜けて宙で踊る。その間にも桜の花片は風も無いのにあたしの手の平から逃げる様にしてすり抜け、宙を舞う。
「あう~・・・。出来ないよぅ・・・」
・・・一つ、言っておく。あたし、かなり出来る出来ないの差が激しい。良く周りから「マイペース」だ「おっとりさん」だとか言われてる。そしてそれは強ち、間違いでは、無い。
「うぅ~・・・。何か此処まで出来ないとなるともういっそ清々しいよ・・・」
三十分ほど掛かっているが、全くと言って良いほど花片は掴めない。思わず肩を竦め、止めにしようかと思った時、その声は聞こえた。
「あ、ベルじゃん」
・・・今、一番聞きたくない声。其れでも振り返って見て見ると其処にいたのは、“あの子”―黒髪短髪の男の子、ブラック君だった。
「・・・ブラック君、如何して此処に?」
「ん~? いや、特に当ても無く歩いてたらベルが桜の花片を掴もうと奮闘してたのを見かけたから話し掛けただけ」
最初の方は少しだけ小首を傾げ、ブラック君はそれとなくサラリと言う。あたしの姿、見つけて話し掛けてくれたんだ。少しだけ嬉しかったけど、慌てて首を振る。不思議そうに首を傾げるブラック君に「気にしないで」と言うと納得してくれた様だ。
「ベルがしてたのってあれだろ? 桜の花片掴んで願いを言うとその願いが叶う、て奴」
「ふえ!? ど、如何して分かったの?」
「何かそんな噂、聞いた事があってな」
話していたあたしとブラック君の間にヒラリと花片が落ちてきた。ブラック君は其れを何の迷いも無く、ただ、ごく自然に、けれど一瞬で、掴んで捕まえてしまった。
「何だ、ベルが奮闘する位だから難しいのかと思ったけど、結構簡単じゃん、此れ」
「う・・・。・・・悔しい! 何か悔しい! 何でブラック君に出来てあたしに出来ないのよう!」
「・・・その台詞ホワイトにも言われたな・・・。・・・まぁ、一応、人の血以外も入ってるからね、俺」
ブラック君の台詞にあたしは何だか納得してしまった。雷を司る、黒き龍。其れがブラック君のお父さんだ。確かにそれならブラック君に出来て(しかも至極あっさりと)しまった事は納得できる。
「・・・で、ブラック君。それ、如何するの?」
あたしは花片を指差しながら問い掛ける。勿論、頂戴? なんて聞かない。だって願いを叶えるなら自分で捕まえて、それに願いを込めたいし! ・・・でも、あたしが掛けたい願いって何だろう? ふとそんな思いにぶち当たり、ブラック君と一緒に居れたら―― そんな思いが浮かび上がって来てあたしは慌てて頭を振るった。
一方、ブラック君はそんなあたしに目などくれずに(ちょっと胸が痛かった)花片を見つめていた。そして ス、と目を閉じると数秒の間、ジッとしていた。
そしてゆっくりと目を開けると花片を指から離した。ヒラリ、と花片が宙を踊った。
「・・・何、願い事したの?」
まぁ、どうせホワイトといれます様に、でしょ? 茶化す様にそう聞くとブラック君は予想外な事に首を横に振った。
「え・・・? じ、じゃあ何?」
「ベルの事」
え、 トクン、と心臓が跳ねた音が聞こえた気がした。
「多分、ベルの事だからホワイトとずっといれます様に、見たいな願い事したかったんだろ? だから“ベルとホワイトがずっと一緒にいれます様に”、て願いかけた」
多分、今、あたしの顔は真っ赤になっているだろう。ブラック君の事を直視できずに顔を俯かせる。そんなあたしの様子に気付きもせずに(やはり胸が少し痛い)、ブラック君は それじゃーな、と言って、その場を後にした。
ブラック君がいなくなった後、あたしはその場に座り込んでしまった。
「・・・うぅ・・・。ブラック君の馬鹿・・・」
あたしが叶えたいのはその願いじゃないよ。気付いちゃった。気付いてしまった。あたしが好きなのは“君”―ホワイトじゃない。
「あたしが好きなのは、ブラック君だよ・・・」
でも、この願いは叶う事の無い白昼夢。桜の花片がヒラヒラと舞う様子は、まるであたしを慰めてくれている様だった。
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