アヤがこの塔に戻った後。かつてアヤが過ごしていた寝床がそのままである事に喜び、結局ちゃんと育てる事が出来ずに植木鉢と土だけが残されている植物の残骸に苦笑し、獣がほとんど手をつけずに箱に入れてしまいこんでいた未知の兵器の設計図を見つけて。アヤは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
そう言ってアヤは獣にぬくもりを与えてきた。
 獣はその温かさを拒否し、顰め面で返事をした。
 アヤはひとつひとつ温かいものを与え続け、獣はひとつひとつ叩き落した。
「これは違う。私は、本当は独りが良いんだ。」
そう言って獣は孤独を選び続けた。
 それでもアヤは追いかけて手を伸ばして獣の腕をつかんできた。
 逃げては追いかけられ触れられて、そして又、逃げて。
 切れ切れの幸福が半世紀、続いた。


 折角、あんた綺麗なんだからさ。もっと身ぎれいにしたほうがいいよ。勿体ないよ。髪とかちゃんと梳かしなって。あーあ、寝癖がついたまま。

 寒いんだったら上着を着ようよ。温かい飲み物でも作ろうよ。てか、絨毯を羽織るって。どうかと思うよ。さすがにないわ、それ。

 ほら見てよ。花が咲いたよ。どうだ。あんただって育てる事は出来るんだ。まいったか。

 それ、好きだろ。その料理。いやいやそんな顔しても分かるんだよ。だってあんた、その献立を出すと食べるスピードがいつもと違うんだ。あ、キノコだけどかして食うなよ。子供じゃないんだから。

 そうやって書物に没頭しすぎて、眠る事すら忘れるって、どうなんだよ。なあ。俺がいなくなったらあんた、どうするんだよ。そうやって自分に無頓着で。誰も面倒みる奴がいなくなったら、本当にどうする気だよ。

 起きて。今日は月が綺麗だ。言っただろ?一緒に見たいって。もう最後かもしれないんだから。一緒に見るのは。

 嘘をついて、ごめん。ずっと一緒にいるなんて、嘘をついて、ごめんな。

「ずっとなんかあるわけがない。こんなの、わたしは予想していた。知っていた。いつかおまえがいなくなることなど、最初からわかっていた。そんな、だから、ごめん、なんか、言うな。」

―嘘です。知ってはいたけれど、理解はしていませんでした。この幸福な時間はずっと続くと、どこかで思っていました。アヤがいなくなるなどと考えたくなかったのかもしれません。

 けれど、アヤは人で私は獣。同じ時間を刻む事など出来ない。

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愚者の塔・11~The Beast.~

閲覧数:309

投稿日:2010/11/25 21:08:09

文字数:1,001文字

カテゴリ:小説

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