少女はその星でたった一人の人間だった。
 少女は膝を抱えて座っていた。来る日も、来る日も、来る日も、星の草木たちへの水やり以外の時間は、ずっと膝を抱えて座っていた。

 ある晩の事だった。いつものように膝を抱えて座っていたら、遠くから何やら音が聞こえた。
 シャラララ・・・・・・
 と、聞いたことのない綺麗な音が、かすかに聞こえた。
 少女は空を見上げて、耳を澄ましてみた。
 シャラララン
 と、美しい音を確かに聞いた。
 よくよく見るとそれは、流れ星が流れる音だった。
(流れ星が消えるまでに願い事を三回唱えたら、その願いは叶う)
 少女は立ち上がり、流れ星を追いかけた。
 デネブカイトスの脇を流れる流れ星を追いかけ、レグルスを流れ星と見誤り、シリウスに向かって流れ星と共に走り、次の瞬間には北極星に向かってひた走る。
 どれだけ走っても願い事どころか、ひとこと声を発する事すらできない。
 少女は息を切らし、膝を折って座り込んでしまった。
 そんな少女の必死な姿を哀れに思ったお星さまが、少女に声をかけた。
「明日、ゆっくりと流れる流れ星が現れます。その流れ星に願い事をするといいでしょう。」
 少女は顔を上げ、キラキラした瞳をお星さまに向けた。
「それまでにどんな願いにするか、ちゃんと考えておいてね。」

 星たちが太陽の眩しさに山のすそ野へ隠れてしまった後も、少女はずっと空を見上げていた。
 草木たちへの水やりの時間になっても、少女は身動き一つせずに空を見上げていた。
 風が少女の頬を優しくなでても、鳥たちが少女の肩に留まり冬籠りの挨拶に来ても、少女は身動き一つせずに空を見上げていた。

 太陽が眠い目をこすりながら山のすそ野を滑り落ち、ちらほらと星たちが姿を現す。漆黒の夜空を照らすように星々が集まった時、昨夜のお星さまが現れ言った。
「願い事は決まったかしら?」
 少女は晴れやかな笑顔を見せ、すっと立ち上がった。
「そろそろ現れるわ。用意はいい?・・・ほら!」
 お星さまの掛け声と共にシャララ~ンとひと際美しい音が空いっぱいに響いた。空の端から流れ星が真っ白な長いレースのベールをたなびかせながら現れた。
 それは流れ星の花嫁さんだった。流れ星の花嫁さんは夜空をしずしずと歩き始めた。
 少女は一瞬花嫁さんの美しさに目を奪われたが、「ハッ」と我に返り、ゆっくりと大きな声で言った。
「ありがとう!ありがとう!ありがと~~~う!」
 流れ星の花嫁さんは静かに微笑みながら頭を傾けお礼を言うと、しずしずと地平線へと消えて行った。
 不思議に思ったお星さまが、少女に尋ねた。
「それで良かったの?」
 少女は光り輝く笑顔を見せて、頷いて言った。
「みんなのお陰で、本当は私が一番幸せ者だってわかったから、お礼が言いたかったの!」
 シャラララ・・・
 その晩、流れ星の流れる音がいつまでも途切れることはありませんでした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

星の子

これはタピーさんへお礼がしたくて作った作品です。

閲覧数:136

投稿日:2013/01/23 07:47:25

文字数:1,224文字

カテゴリ:小説

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  • 日枝学

    日枝学

    ご意見・ご感想

    はじめまして。なんか面白そうなのないかな、と適当に読みあさっていたところ、綺麗なタイトルの作品があるなと気付き、そのまま読ませて頂きました。タイトルの印象と同じ、綺麗できらきらとした感じの印象が作品全体に散りばめられているように感じて、綺麗だなって思いました。描写も題材も話の作り方も綺麗で、筋が通ってるように感じられました。面白かったです。

    2013/01/21 01:56:12

    • 猫とロハス

      猫とロハス

      感想ありがとうございます。この作品は【ある人】に「ありがとう」と言いたい、ただそれだけの為に作りました。感想までいただいて、返って恐縮しております。この作品を読んで頂き、ありがとうございました。

      2013/01/23 07:33:12

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