鳥居の下、殺戮人形は口角を上げた。

街は丑三つ時だが、眠る気配は全く無い。否、眠れないのだ。
この街に蔓延る組織と、その殺戮人形のせいで。

殺戮人形は指に入らないほどたくさんの人を殺めてきた。
人形は、それを快感だと思っているからだった。

「たぁくさん、居るじゃない♪」

殺戮人形の名前は、リン。
ただ、ヒトを危める為にツクられた。

鈴の指は震えていた。
恐怖ではない。衝動を抑えられていないのだ。
早く引き金を引け、と。

あの綺麗な紅色を見たい…！
狂気に満ちた欲を引き金にかかる指にこめた。

ゆっくり、ゆっくり、金髪の特殊警察に狙いを定めて…！

乾いた音と共に発砲した。

狙った金髪の特殊警察は辛うじて避けたが、すぐ後ろにいる別の特殊警察にまともに当たった。

そこに真紅の花が咲いたかのように赤色が広がった。

「あははははは、綺麗！すっごく…綺麗！」

リンはその間にも次々と発砲した。
返り血に染まり、狂喜の表情を顔に浮かべる鈴は、正に「殺戮人形」だった。

「散れ！組織の殺戮人形め！」

「もっと魅せてよ…綺麗な綺麗な鮮血を…！！」

引き金を連続して引く。
途絶えていく命の花に、リンの心は昂ぶるばかり。

「綺麗…とっても…綺麗！」

殺戮人形の心にヒトのカタチは、最早ない。

「退却！」

生き残った特殊警察は、そそくさと逃げていった。
残るは、鈴と勇敢に戦った特殊警察たちの亡骸。

リンは躊躇うことなく亡骸に近寄り、冷たくなった身体に張り付いた赤黒い血を指先ですくった。

「やっぱり…殺りたてが一番イイのよ…ね？」

「リン」

「ミク様！」

白衣の美しい女性は高いヒールを履いていた。

「何人殺ったの？」

「ひぃふぅみぃ…7人です！とっても紅色が綺麗で…」

「少ないわ」

ミクの声のトーンが落ちた。
少し腹を立てているのだ。

この計画を執行し始めたのはもうずっと前。
リンが来るずっとずっと前から、ミクの野望があったのだ。

「もっと特殊警察の頭数を減らさなきゃ…神威、リンを見てあげて」

「は」




＊




「カイト先輩」

「あ？レンか…」

レンは軽く礼をして部屋に入った。
カイト先輩は特殊警察の中でもかなり腕が立つ。
殺戮人形と真正面からやりあって、無傷だったのは彼くらいだろう。

「あれほど無理をするなと言ったのに」

「すみません。それと、あの娘…〝殺戮人形〟？」

「組織が持つ唯一の兵士…いや、兵器か」

カイトが差し出した3枚ほどの髪には名前が連ね書いてあった。
ざっと、200人は居るだろう…

「殺戮人形が殺した特殊警察の名前だ」

「こんなに…！」

「殺戮人形の身元は…不明だ。分かるのは『リン』と言う名前、それから14歳の娘であるということだ」

「リン…？」

レンは眉をひそめた。
聞いたことがある名前だったからだ。
しかも殺戮人形の顔は何処かで見たことがあった。

(まさか知り合いなんてことは…ないか)

レンの知人の中には〝殺戮人形〟などという物騒な友達は居ない。

「それじゃ、俺は寝る。お前も早く寝ろよ〝期待の新人〟」

カイトが事務室から出た後、主を失った椅子の下に写真が落ちていた。

＜咲音メイコ＞

メイコ先輩は重体で入院中。
殺戮人形の銃がまともに当たったのだ。
手術成功の確率は約４５％。

やはり、善と悪は隔てなければ。
一刻も早く…