【¢ity】郊外。

人気のない大通りを一台の大型バイクが疾走する。それを駆るのは金髪の少女。黒の一眼式ゴーグルに、通信用インカムを装着している。風圧で、頭の黒いリボンが引き千切られそうな勢いで靡いている。

「…まったく、しつこいわね!!」

バイクの風防をモニター代わりに、映し出したナビゲーションマップを見遣って少女が舌打ちをする。マップ上を進行する黄色の三角形――彼女の現在地点を示すそれの背後に、おびただしい数の赤い点が明滅していた。

追われているのだ。

ゴーグル越しにちら、と背後を睨み、道路に湧き出したモンスターの黒い影にぞっとした表情をつくる。とても相手に出来る数ではない。そう判断して更にアクセルを開ける。肌に刺さる風が急に鋭さを増した。

道路の先は市街地へと繋がっている。逃げ込んで紛れるには好都合だが、さすがに、これだけ大量のモンスターを引き連れて突入するわけにはいかない。

「となると………」

片手でハンドルを器用に手繰りつつ、モニター上のキーボードを操作する。マップ上を青いラインが走り、最適ルートを割り出していく。数秒待たずに左耳で、ナビゲーターと赤外線同調したインカムが操作の完了と新たな目的地を告げてきた。猛るエンジンの爆音の中、聞き慣れた電子音声が単調に響く。

『ルート537。39番ゲートロック解除。1000サバイブの料金が発生しますが、よろしいですか?』

一度で1000サバイブはそれなりに痛手だが、今回ばかりはつべこべ言っている暇はない。了承の旨を伝えると、軽快な音を立ててインカムに内蔵されたサバイブカウンターの数字が減った。連動してモニターに表示されたサバイブ残高に、思わず溜息が出る。

「新しいインカム、買いたかったんだけどな…」

何処へ行ってもサバイブ、サバイブ…。此処はゲームの世界だと言うのに、まったく、厭になる。

ぼやいた直後、前触れもなく背に叩きつけられる銃声。直線道路に差し掛かったことで、モンスターの攻撃範囲に捕らえられてしまったらしい。距離とスピードから見てもまず当てられることはないだろうが、道路を穿った跳弾が車体に傷をつけて、少女の顔が明らかに不機嫌になる。

「モンスターの分際で、ショットガンなんて高等武器扱ってんじゃないわよ!!」

だいたい、あの不定形生物の何処に腕があるというのだ。頭が何処かも解らないようなヤツらの、何処に。

胸中で散々毒づいていると、耳の真横で光線が爆ぜた。所謂、メカ型というやつだ。インカムの集音量を上げてやれば、音量の跳ね上がった爆音に混じって微かに軋む機械音さえ聞こえてくる。

「遠距離ばっか、最悪…っ!!」

咄嗟にシートに頭を伏せてエンジン音と振動が頭蓋に直に響く。舌を噛みそうな衝撃にぎゅっと顔をしかめて、腰のホルダーから閃光弾を抜いた。勿論、本気で効くとは思っていない。あくまで、こちらを狙わせないための目くらましだ。

背後で、猛烈な光線が炸裂する。視界を白く塗り潰されるような圧倒的質量の光。遮光仕様のゴーグルをしていてこれだから、裸眼にくらったモンスターには相当なダメージだろう。もっとも、それが現状況において決定的な致命傷になるかと言えば、答えはNOだが。

マップ上でモンスターの動きが緩慢になったことを確認して、先程検索したルートへとナビゲーションを移行させる。行き先は、39番ゲート。クリプトン郊外へと繋がる脱出ゲートだ。

バイクはトップスピードのまま交差点を直角に曲がり、後輪を横滑りさせながら遠心力に振られた車体は脚で挟み込んで無理矢理押さえ付けた。途端に舗装が荒くなる道路。跳ねる車体をあやしつつもスピードを落とすことはしない。

ごう、と音をさせて、頭上を道路標識が過ぎ去っていく。それは黄色地に『この先進入禁止』と描かれていたのだが、少女は気にも留めなかった。やがて現れた『KEEP OUT』の立て看板をも前輪で轢き潰して、躊躇いなく工事途中の高架橋へと進入する。カーブに沿って緩いスロープを駆け上っていく。

「また物騒なところにゲートを造ったのね」

道が途絶える。いやに鮮やかな空の中。空回る車輪の下に広がるのは、文字通り何もない空間。

『39番ゲートアクセス。ロック解除申請認証完了。サバイバー・リン、ベイルアウトを許可します』

不意に目の前の空間が歪んで、煌びやかな原色に塗れた穴がぽっかりと口を開ける。それは生き物のように蠢いてバイクごと少女を飲み込んだ後、またすぐに口を閉ざす。


あとには何事もなかったかのような、平坦な空があるだけだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【ラノベ化企画】サイバー・サバイバー【0】

大型バイクを駆る金髪の少女。
彼女の存在は、やがて少年の運命を大いに変容させることになる―



***

やましぃ、プログラム始動。
取り敢えず、イケリン大好きです(ハァハァ


***

SPECIAL THANKS


SHIRANOさん
http://piapro.jp/t/d2yz

閲覧数:183

投稿日:2011/07/08 17:28:42

文字数:1,912文字

カテゴリ:小説

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  • 日枝学

    日枝学

    ご意見・ご感想

    読みましたよー!
    >それは黄色地に『この先進入禁止』と描かれていたのだが、少女は気にも留めなかった。
    という一文が、今後の展開を期待させますね。
    全体を通して緊迫感のある描写が良いです! 執筆GJ!

    2011/07/08 11:41:37

    • 人鳥飛鳥@やましぃ

      人鳥飛鳥@やましぃ

      コメントありがとうございます!!励みになります!!

      SFアクションものなので、緊迫感が伝わってくれると嬉しいです^^


      2011/07/08 13:29:09

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