『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:28


会場に流れるBGMが眠気を誘う。
「あー、かったるい」
留佳は退屈そうに呟いた。
今日は望嘉大付属高校の卒業式。他のクラス席に眼を向けると櫂人や芽衣子の姿がすぐに見つかる。櫂人は少し眠そうにしていたが、芽衣子は真面目に前を向いていた。
―――真面目だなぁ、あいつ。
1ヶ月程は大学への準備だなんだと大わらわだったが、卒業式前にはどうにか終わり、後は時間に任せるだけとなった。3年3人、全員進路がバラバラになってしまったが留佳はそれほど寂しがっていない。連絡は取ろうと思えば取れる。そうこう考えているうちに名前を呼ばれ、留佳壇上へ上がっていった

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「・・・本当アンタは」
芽衣子が留佳の顔を見るなり言い放つ。先の卒業式の卒業証書授与の回で留佳は「面倒だ」と言って形式も礼式もすっ飛ばして証書をぶんどるとそのまま颯爽と壇上から下りたのだ。呆気に取られたのは教師陣、しかし岳歩だけ当たり前の光景だといわんばかりに滔々と眺めていた。
「卒業の時くらいせめてかぶれよ」
「This 's mine . 今更面倒だ」
―――あぁ、かぶらなきゃいけないなとは思っていたのね。
その言葉に芽衣子は留佳が一応は考えていたんだなと見て取った。
「さて、この後どうする? 」
櫂人が尋ねた瞬間、
「「せぇーーーんぱぁーーーい! 」」
横から元気な声が届いた。凛と漣、それに続く様に久美が姿を見せた。
「卒業おめでとうございます」
3年達は礼を言うと、1年達が用意した花を受け取った。一輪だけのそれぞれのイメージに合わせた花だった。
「コレだけってのがまたいいな」
「だと思いましたよ。どうせ花束なんて貰っても困るだけだし、櫂人先輩の場合は今から熱ーーーい告白ラッシュでしょうしね」
「漣、大丈夫だ。2年後はおまえの番だから」
「うわぁ、それって否定しないことはそうなるって自覚はあるんですねぇ~。いやぁさすがにおモテになるどこかの誰かさんは違うわぁ」
「その口塞いでやろうか」
「えぇ、どうぞやれるもんならご・自・由・に」
そんなやり取りを狙い定めたかの様にシャッター音が響き届いた。眼を向けるとそこには拍と未来立っていた。
「あら、未来に拍」
「どうも、芽衣子先輩。ご卒業おめでとうございます」
「ありがと。そういえば今日会場でアンタ見なかったけど何処に居たの? 」
すでに未来は居る前提の話が進む時点で当たり前の度合いが知れる。
「そぉーれぇーがぁー。アルバム委員にものすごぉーーーーっく睨まれたんですよぉーっ」
「何だ、お得意の脅しは通用しなかったのか」
「んなっ、ひっどぉーいっ。交渉と言って下さいよーっ。お望みとあらば今からでも櫂人先輩にそれを執行してみせましょうか☆ 」
「遠慮するっ! 」
―――言い方ってあるよなぁ。
その光景に久美は勉強になるなぁと思いながら眺めていた。
「・・・グミッちゃん。それ、撮るんじゃないの」
「あ、そうだ。ごめん漣、お願い出来る? 」
「ん、いいよ」
「あ、後で凛と一緒に映ってね! 」
そう言って久美は櫂人のもとへ駆け寄ると写真のお願いをしにいった。続けて芽衣子と留佳にも声をかけて回る。
「レェーンー。今時インスタントなんてグミッちゃんらしいねー」
「携帯でも残るもんだけど、やっぱ実感的にはフィルムだよなぁー」
「漣ってバカだよね」
「何でこのタイミング? つかお前がそれを言うのか、凛」
「アタシは少し落ちかないだけだもん」
―――自覚があるだけタチ悪ぃんだよ、オマエは。
漣は一人ごちながら手を振って笑う久美に応えて預かったカメラを構えた。

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卒業式が終わり、3年生達は後輩や訪れた家族と時を共にしていた。留佳達も例外ではなく訪れた家族と何らかの会話を交わしている。
「うわぁ・・・留佳先輩のお兄さんカッコイイ~」
「だねぇ~」
久美と凛が初めて見る留佳の兄に見惚れていた。拍と未来は先日会っているだけに2言3言だが挨拶を交わしていた。
「今更ながらですけど、自分達の部活って格好良い男の方多いですよね」
「え、拍先輩っ。目大丈夫!? だってアレなんかバカイトだよ、バカイト! 」
「漣、ちょっと来い。俺が最後にイイ事を教えてやる」
「あぁ、体育館裏で的なものですか? いやぁ申し訳ないっすけどボクその手のことには一切興味ないんで~」
「何を勘違いしているのか知らないが心配するな。少しサバ折って身長を伸ばす手伝いをするだけだ」
その横ではこんな時でもうれしそうにシャッターを切り続ける未来が居た。
「あ、未来! ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら」
「芽衣子先輩。あ、こんにちは」
後ろに続く様に芽衣子の両親が顔を見せていた。どうやら写真撮影のお願いのようだ。この時ばかりは未来も無償でシャッターを切った。
時間が経って保護者も帰った後、じゃま研メンバーは部室へと足を運んだ。
「Tired~」
部室に入るなり留佳が近場の椅子にだらけた。3年勢はじゃま研メンバーと話している途中で方々からお声がかかり、写真だ告白だとひっきりなしに時間を裂かれたからだ。こと留佳に限っては男子からの告白を根刮ぎ切り散らしていた。
「しかし何でおまえの告白は断られた野郎共がどこかうれしそうだったんだ」
「意外と多いのよ・・・。留佳に見下されて悦ぶお馬鹿共が」
「ん、何だ櫂人。そうかそうか、何だっ、お前も私にLoveを囁いてくれるのか。それならそこら辺の雑魚達とは違い全力で相手になってやらないことも無いぞ」
とても清々しい笑みを浮かべて留佳は言う。
「何を勘違いしているか知らないが、俺がお前に告白することがあるとすれば『それは絶対に無い』ということだけだな」
確かに留佳は魅力的ではあるが、その性格をよく知っているものかたすればやはり“ナシ”になるのだろう。告白ラッシュを同じく受けていた芽衣子とはまた違った意味合いで根は同じなのと近い。
「芽衣子先輩の場合は女子に人気がありましたから」
「それも困るのよねぇ~。あ、かといって男がいいって訳でもないのよ!? 」
「憎ったらしいっ、その位置を私に譲れ! 」
「アンタも同じくらいに女子に人気あるでしょうが。だとしてもアンタの毒牙にあの子達は巻き込ませないわよっ」
そう、留佳は男子の告白は手酷く扱ったが、女子からの告白は親愛のキスまで入れて優しく断っていた。しかもより一層無条件で留佳の人間性を支持する様な惚れ残し方でである。端から見れば手練手管なホストのやり方と同じだ。
「何を騒いでる」
気怠そうに部室に顔を出したのは岳歩だった。
「岳兄ちゃん。後処理の方はもういいの? 」
「先生な。あーーーっ疲れた! 」
「感動もへったくれもねぇな」
「何なら変わってみろぉ、漣。若いからって理由であれやこれや押し付けられるのは骨が折れるぞ」
「そんな裏事情を生徒に言われても知るもんか」
「薄情だなぁ、お前」
拍がお茶を用意する横で芽衣子が手伝う。未来は何やら三脚を持ち出しカメラを用意し始めていた。
「ん、未来せんぱぁーい。なぁに、そのカメラー? 」
「ふっふー♪ ついに買っちゃった、映像用カ・メ・ラ」
―――盗撮の幅が増えたな。
岳歩はさすがにこれから先の未来の行動に気を配らないとならないなと気付かれない様に溜息を吐いた。
「さて。櫂人先輩っ、ここは現部長として1つ提案なのですが」
「何だ? 」
「Wait . 何故元部長の私に言わない」
「だぁーってぇー。後で櫂人先輩に何か言われても嫌だしー」
「よく解ってるな」
「褒めてください! さておき櫂人先輩。ここは一丁最後のセッションといきませんか? 」
「おまえにしてはまともだな・・・と、言いたいんだが販促は禁止する」
「・・・ちっ! 」
「大きな舌打ちだなぁ、ヲイ」
さすがに岳歩が突っ込んだ。この先の苦労が増えたことを痛感する。
「はいはい。まぁいいじゃないの、櫂人。卒業もしちゃったんだし、あと1週間半くらいでワタシ達も居なくなるんだし」
寮は3月の半ばまでは残留が許されているが、それ以降は休み期間中に次の新入生達の準備と受け入れがある為に強制的に出されてしまうのだ。寮組の2人は3月半ばにはそれぞれ一旦地元に戻って次の進学先へ移動することになっている。
「ん、確かメイは少し早く出て留佳のところに泊めてもらうんじゃなかったか? 」
「うん。というか寮規則でなかなか外泊とか出来なかったから最後にハメ外して遊ぼうって話になってね」
「どうこういっても結局仲良いもんな、おまえ達」
久美はよく岳歩と週末帰省することが多いが、それは岳歩が融通を利かせているおかげである。普通であれば色々と手続きが面倒なのだ。
「アタシも行きたいーーー! 」
「私も!」
凛と未来が勢いよく挙手をする。未来に至っては横の拍を巻き込んで万歳の形である。
「え、ちょっ。未来ちゃん・・・自分も!? 」
「なら女子会でもするか? 」
「「賛成ーーー!」」
芽衣子が苦笑いながらもどこかうれしそうに微笑んでいた。結局話はトントンと進み、久美も加えて芽衣子の出寮日に合わせて決行されることになった。
「本当うちの女性陣は仲良いなー。花って必要だよな」
「教師の言う台詞ですか」
「教師だって前に男だぞー、オレは。何、櫂人。お前女だったか」
「違いますっ。それはコレにいった方がいいのでは」
「・・・そこで何でボクを指すんですかねぇ」
男子陣は戯れる女性陣を横目にそんな他愛も無い話に花を咲かせていた。 

ーーーーーーーーーーーーーーー

「さて、じゃぁ始めますか! 」
未来の言葉を合図に全員がいつもの位置に付く。楽器を手にアイコンタクトでタイミングを飛ばす。
『1・2・3・・・』
岳歩が頼まれたカメラを回す。
最後の時を惜しむ暇は無いとでも言う様に部室にいつもの活気が溢れだした。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:28

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

本当は3/1にあげたかった・・・
ひな祭り回にしようかなぁとも思いましたが、何か微妙なんで止めました( ̄_ ̄)
そんないよいよな卒業式の回
でも書いている本人に卒業式の時の記憶がないという
小学校と大学は覚えてるんだけどなぁ・・・
ちなみに修学旅行の時の記憶も半分以上が根刮ぎ抜け落ちてます、それこそ写真見ても思い出せないくらい
さておき、卒業式なのでほのぼのさせてみましたよ
皆のやり取り的な感じ
これで最終回にしようかとも考えたのですが、まだ3月始まったばっかだし、ホワイトデーもあるからもう1回だけダラダラと続けさせてもらえたらと思っています
それが終わったらそれこそ此処に載せてない後から思い付いちゃって置き去られたままのネタを全部加筆&修正して全部綺麗にまとめる!

そんな感じであと少し続きますw

閲覧数:156

投稿日:2013/03/03 21:44:17

文字数:4,144文字

カテゴリ:小説

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